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第三十話 クリスマスの準備と、商店街のみんなでけんちん汁①
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十二月も半ばになり、歩がワンダーウォーカーの倉庫から大きな箱を五つほど出してきた。一つ一つが台車に乗せないと運べないくらいに大きくて重い。
店の前に並べて蓋を開けると、そこにはクリスマスの装飾がたっぷりとつまっていた。
「あ、歩さん、これはいったい」
「アリスちゃんが初斗のところに通うようになったのはこの春からだから、知らないのね。ここの商店街のクリスマス飾り、アタシが主導しているのよ」
「ええええええ!!」
クリニックが休みだから、初斗とネルもひょっこり現れた。
商店街の店舗からも二人くらいずつスタッフがやってくる。
昔は各店の店先にそれぞれポスターや飾りをちょっと貼るくらいだったが、歩が来てからはアメリカのクリスマスばりの凝り具合になっているという。
全体のバランスを考えながら、ショーウインドウにモールやLEDライトの帯を装着していく。
商店街の真ん中にあるこどもの銅像も、雪を模したワタとサンタ帽子を乗せてかわいらしくなる。
「女の子は目線の高さのをつければいいからね。届かない位置はアタシたち男性陣が脚立使ってつけるから」
「わかった」
アリスはネルと一緒に、商店街の真ん中に設置されたツリーの飾り付けをしていく。
ネルも根っからこういうイベントが好きなようで、ワタをつけながら鼻歌なんて歌っている。
「るんるんるんー。きらきらでぴかっぴかー。」
「ネルごきげんだね」
いつも機嫌のいいネルだけど、今日はとくにご機嫌だ。
「あのね、あのね、クリスマスにおでかけするから。今から楽しみなの」
「これまでもクリスマス一緒に過ごしていたんじゃないの?」
「これまでは家族として過ごしていただけだもん。せっかくだから特別なクリスマスを過ごしてみたいって言ったらね、七里ヶ浜にある懐石料理の店を予約してくれたの」
ネルが表情をとろけさせる。想像するだけでもしまりない顔になっていて、アリスは肩をすくめる。
「ほんとうに好きなんだねえ……」
「うん。にいさんが一番」
「照れないどころか全肯定するとは」
「にいさんには、正直に言わないと伝わらないから。思ったことちゃんと言うの」
アリスは真似できないなと、笑って新しいモールを箱の中から出す。
「アリスさんは歩さんと過ごす?」
「なんで歩さんの名前が出てくるの。きっと歩さんだって予定があるでしょ」
「そっかー」
残念そうに言われた。
歩と過ごすのではないかと期待されていたのか。
たぶん、恋愛的な要素で。
アリスがはじめていいなと思った人は中学の時来てくれていた家庭教師。でもその人はリナに近づく目的で家庭教師をしていただけで、アリスのことを利用するだけだった。
それ以来、誰かを好きになったことはない。
誰かがアリスに言い寄ったとしても、どうせまたリナ目的。裏切られるんだと心のどこかで思っている。
「なんでネルはそう思ったの?」
「歩さんのところで働くようになってから、アリスさんはすごく明るくなったの。それまで、ずっと暗い顔をしていたでしょう」
ネルはアリスが通院を始めたときから今日まで、ずっとアリスを見てきた。
過大評価も過小評価もしていない。
「そうなったらいいなって私が勝手にそう思っているだけ。私が歩さんと会う前にいたかもしれないけど、にいさんに歩さんを紹介されてから、歩さんが特別な人を作るのを見たことなかったから」
「そうなんだ」
ネルが知る限りで過去に特別な人がいなかったと聞いて、アリスはどこかほっとした。
アリスを助けてくれた人だから、幸せでいてほしいと思うのに。自分の矛盾した気持ちに、モヤモヤする。
店の前に並べて蓋を開けると、そこにはクリスマスの装飾がたっぷりとつまっていた。
「あ、歩さん、これはいったい」
「アリスちゃんが初斗のところに通うようになったのはこの春からだから、知らないのね。ここの商店街のクリスマス飾り、アタシが主導しているのよ」
「ええええええ!!」
クリニックが休みだから、初斗とネルもひょっこり現れた。
商店街の店舗からも二人くらいずつスタッフがやってくる。
昔は各店の店先にそれぞれポスターや飾りをちょっと貼るくらいだったが、歩が来てからはアメリカのクリスマスばりの凝り具合になっているという。
全体のバランスを考えながら、ショーウインドウにモールやLEDライトの帯を装着していく。
商店街の真ん中にあるこどもの銅像も、雪を模したワタとサンタ帽子を乗せてかわいらしくなる。
「女の子は目線の高さのをつければいいからね。届かない位置はアタシたち男性陣が脚立使ってつけるから」
「わかった」
アリスはネルと一緒に、商店街の真ん中に設置されたツリーの飾り付けをしていく。
ネルも根っからこういうイベントが好きなようで、ワタをつけながら鼻歌なんて歌っている。
「るんるんるんー。きらきらでぴかっぴかー。」
「ネルごきげんだね」
いつも機嫌のいいネルだけど、今日はとくにご機嫌だ。
「あのね、あのね、クリスマスにおでかけするから。今から楽しみなの」
「これまでもクリスマス一緒に過ごしていたんじゃないの?」
「これまでは家族として過ごしていただけだもん。せっかくだから特別なクリスマスを過ごしてみたいって言ったらね、七里ヶ浜にある懐石料理の店を予約してくれたの」
ネルが表情をとろけさせる。想像するだけでもしまりない顔になっていて、アリスは肩をすくめる。
「ほんとうに好きなんだねえ……」
「うん。にいさんが一番」
「照れないどころか全肯定するとは」
「にいさんには、正直に言わないと伝わらないから。思ったことちゃんと言うの」
アリスは真似できないなと、笑って新しいモールを箱の中から出す。
「アリスさんは歩さんと過ごす?」
「なんで歩さんの名前が出てくるの。きっと歩さんだって予定があるでしょ」
「そっかー」
残念そうに言われた。
歩と過ごすのではないかと期待されていたのか。
たぶん、恋愛的な要素で。
アリスがはじめていいなと思った人は中学の時来てくれていた家庭教師。でもその人はリナに近づく目的で家庭教師をしていただけで、アリスのことを利用するだけだった。
それ以来、誰かを好きになったことはない。
誰かがアリスに言い寄ったとしても、どうせまたリナ目的。裏切られるんだと心のどこかで思っている。
「なんでネルはそう思ったの?」
「歩さんのところで働くようになってから、アリスさんはすごく明るくなったの。それまで、ずっと暗い顔をしていたでしょう」
ネルはアリスが通院を始めたときから今日まで、ずっとアリスを見てきた。
過大評価も過小評価もしていない。
「そうなったらいいなって私が勝手にそう思っているだけ。私が歩さんと会う前にいたかもしれないけど、にいさんに歩さんを紹介されてから、歩さんが特別な人を作るのを見たことなかったから」
「そうなんだ」
ネルが知る限りで過去に特別な人がいなかったと聞いて、アリスはどこかほっとした。
アリスを助けてくれた人だから、幸せでいてほしいと思うのに。自分の矛盾した気持ちに、モヤモヤする。
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