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寒い日の豚汁と、懐かしの湯たんぽ②

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 午後の営業でしばらく経って、初斗とネルが店に来た。
 初斗はお茶会の写真や学生時代の写真のアルバムを。
 そしてネルはなんと、リナから託された湯たんぽを持ってきた。
 アリスはしぶしぶ受け取ったけれど、とても複雑そうな顔をしている。
 初斗がさっさと出て行ってしまい、ネルだけ歩がいれたお茶を飲んでいる。
 
「なんでお姉ちゃん、こんなもの持ってくるかな……」

 アリスが幼い頃使っていた、女児向けアニメのキャラの布袋に入った湯たんぽだ。

 プラスチック製の湯たんぽの表面には経年でついた擦り傷やよごれがあちこちについている。

「一応、アリスさんのこと心配しているんじゃないかな?」
「前にやらかしたことの記憶が鮮烈すぎて、心配してるって言われてもねえ……。アタシとしてはこの先も出禁続行ってかんじなんだけど」

 外に出ていた初斗が戻ってきた。
 ネルがお茶を飲んでいたのを横から手を出して香りを嗅ぎ、飲んでしまった。

「初斗、なにしてんのよ。ネルちゃんが飲んでいたのに」
「この香りはレモングラスでしょう。これには薬効として、子宮収縮作用があるんです。ネルさんは飲まない方がいいです」

「ああ、そういえばハーブティーは、ものによって妊婦は飲用を避けた方がいいってやつがあるわね。ごめんなさい、そこも配慮しておけばよかったわ」

 お茶会の時、ネルは「赤ちゃんがほしい」と言っていた。だから初斗が止めている。

 必ずしも自分にとっていい作用をもたらすとは限らない。血圧に効果があるタイプのハーブティーは、血圧の薬を飲んでいる人は飲まない方がいい。それと同じで、妊婦は避けるべきハーブもある。

「べつにいいさ。これくらいの量ならそんなに大きく影響しないから。まだリナさんがいたから話を聞いたんだけどね。歩に伝言だよ」

「アリスちゃんでなく、アタシに? なにかしら?」

「“私は本物になってみせる。出禁にしたことを後悔させてあげる。”だってさ」

 どこまでも気が強い女だ。
 歩を後悔させるくらい輝く本物になるのかどうか、ある意味で将来が楽しみになった。
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