蛇場見《じゃばみ》さんちのまかないごはん。 〜拒食症アリスとジャバーウォックのワンダーライフ〜

ちはやれいめい

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歩の帰国、おでんでお出迎え②

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 一時になる少し前に、歩は帰ってきた。大きなトランクを引いて店の扉を開ける。

「歩さん、おかえりなさい!」
「アリスちゃん、ただいま。お店を守ってくれてありがとうね」

 二週間会わなかっただけなのに、アリスはなんだか泣きそうだった。
 親と何ヶ月も会っていないのはさみしくもなんともないのに、歩の顔を見ることができてこんなにも嬉しい。
 歩はゆっくりとアリスのところに歩いてきて、頭をなでる。

「戻ってくる道すがら、初斗から聞いたわ。すごくがんばってくれていたって。アリスちゃんがとっても頼もしくて、アタシも鼻が高いわ」
「そんな。あたしは歩さんが教えてくれたとおりにやっていただけです」
「謙遜する必要なんてないわよ。これはお礼。気に入ってもらえるかしら」

 すぐに渡せるように持っていたらしい。肩掛け鞄から箱を出して、アリスに手渡す。
 手のひらよりやや大きめで平たい箱。箱からお香のような香りがする。
 上蓋を開けると、真っ白い石が数珠つなぎになっているブレスレットが入っていた。

「きれい……。つけてみていいですか」
「もちろんよ。アリスちゃんのために買ってきたんだから」

 アリスの手首にしっくりとなじむ。アオザイの青と真っ白な石、見た目にも相性がいい。

北投石ほくとうせきっていってね。免疫力を高める効果や、自然治癒力が上がる効果、冷え性の改善とか体にいい効果がたくさんあるのよ」
「そんないい物を。ありがとうございます。大切に使いますね」

 アリスの体を気遣って選んでくれた物だと思うと、ありがたさがひとしおだ。
 アクセサリーをもらうのも人生初で、なんだかワクワクする。

「さ、お昼にしましょ。まだ食べていないでしょう」
「はい、歩さんが帰ってきたら一緒に食べようと思っていたので」

 キッチンに移動して、アリスは鍋の蓋を開ける。

「先生が、歩さんは毎回帰国すると日本食を食べたがるって言ってたから、おでんにしてみたんだ」
「あらー、ありがと! 気が利くわねえ。あたしおでん大好きなのよ」

 大根にちくわ、さつまあげ、結び白滝、ゆで卵。歩がどんな具を好むかわからなかったから、シンプルなラインナップにしてみた。
 店を開ける前に煮込んでおいたので、温め直すだけでいい。
 器のふちにカラシを塗って、いただく。

「んー、おいしいわね。ちゃんと皮むきと切り込みもしてあるし、凄腕ねえ」
「ネルからレシピ本を借りたんだ。煮込むだけだと思っていたら、下ごしらえでやることが多くてびっくりしちゃった」
「そうなのよね。自分一人だと、なにかとめんどうでコンビニおでんになっちゃいがちなの。やっぱりおうちのおでんは格別ね」

 大根はおでんに使う場合、皮がついたままだとおいしくないから、きれいにむく。輪切りにして十字の切れ込みを入れた。レシピ本にはかつらむきなんて書いてあったけれど、アリスはそこまで包丁の腕に自信がなかったのでピーラーを活用した。
 負けた気がして悔しいから、いつかかつらむきにリベンジしようとひっそり思っている。

「お口に合ってよかったです。台湾はどうでしたか」
「すごく良かったわ。あのね、まず最初に訪問したところは……」


 アリスは歩の旅話をきいて笑う。歩もアリスが笑顔で聞いてくれるから、いろんなことを話したくなる。
 お昼だけじゃ足りなくて、お店の仕事に戻ってからもたくさん話をした。

「いいなあ。楽しそう。あたしもいつか行ってみたい」
「そうね、そのときはアタシが案内してあげましょうか。せっかく行くなら、屋台グルメを堪能しないと」
「あはは。もう少し食べられるものが増えてからですね。がんばります」

 単なる口約束でなく、いずれ本当に行ってみたい。アリスはちゃんと治療を頑張ろうと決意を新たにした。
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シリーズ作品
初田ハートクリニックの法度(完結済)
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