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第二十二話 挑戦、スイカの炒めもの①

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 八月に入り、町内会の催し物が行われた。
 八百屋の店主が「スイカの仕入れ数を間違えてた」という理由でスイカが売りさばききれない量ある。いっそイベントにしちまえということで、店の前にビニールシートを敷いてスイカ割りが行われていた。

 一回800円という破格なのでみんな飛びついた。
 
 
「というわけで、参加してきたよ」

 初斗とネルが、割れた大玉スイカを抱えて持ってきた。スイカは見事にど真ん中から割れている。

「初斗って案外器用よね」 
「普段から目隠ししているようなものだったから、方向感覚には自信があるんだ。目隠しして十回まわったていどなら、普通に歩くのと大差ない」

 ウサギマスク歴十年の男が言うとシャレにならない。

「そんなわけだから、アリスさんも食べるといい。夏バテ予防にいいから、取り過ぎない程度にスイカを食べなさい」
「半玉ももらっていいの?」
「もらってくれたらうれしいな。うちは二人暮らしだから、お母さんのところに持って行っても食べきれないもの」

 二人が帰った後、歩もちょっと悩んだ。大玉のなかでもかなり大きめのものが半分だ。歩とアリスで分けてもそれなりに余る。
 たまたまコウキが買い物に来たので、手招きする。

「コウキ、あんたに分け前を上げるわ。アタシとアリスちゃんでもこの量は食べきれないの」
「やったー。俺もスイカ割りやってみたかったけど、母さんと二人じゃ食べられないから諦めてたんだ」

 キッチンで大雑把に切り分け、パックに詰めてコウキに持たせる。

「冷蔵庫で冷やすなり、ミキサーでジュースにするなり好きになさい」
「ジュースにもなるの? 母さん、作り方知ってるかな」
「スマホで検索すればレシピがいっぱいヒットするから」
「ありがと。やってみるよ」

 コウキはスイカを持って意気揚々、店をあとにした。

「さて、そのまま食べる分だけ別にして、後は料理に使いましょうか。アリスちゃん、スイカの炒め物をするわよ」
「……え、スイカって炒められるんですか」
「リンゴだってコンポートやジャムになるでしょ。スイカも火を通して食べられるのよ」

 アリスの中で、スイカは冷蔵庫で冷やしたものを食べるか、フルーツポンチに入っているくらいしかイメージがない。

「それじゃさっそく今日のまかないで作ってみましょう。蛇場見歩の名にかけて、火を通したスイカおいしい! って言わせてみせるわ」
「そこまで重大そうに決意しといて、内容がスイカってのがまた……」

 初田と気の合う友人なので、歩もどこか変わり者。なんだかんだ言って、根本は似ているのかもしれない。
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