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第二十話 歩の誕生日祝いと、対抗シラス丼①
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七月も後半、夏休み真っ盛り。
アリスは休みの日に初田ハートクリニックに来ていた。といっても、診察日ではない。
ネルと仲がいいので、友人としてここにいる。
今はクリック二階のダイニングキッチンで、ネルがお茶をいれてくれるところだ。
「歩さんの誕生日?」
「そう。聞きそびれて今更聞けないっていうか。お世話になっているから、なにかしたいんだ。歩さんがまかないを作ってくれるから、まともにご飯を食べられるようになってきたんだもん」
ネルが相づちを打ちながら、ティーポットの紅茶を注ぐ。ポットを持つ左手の薬指には、指輪が光っている。
初斗が自由の身になった頃、ふたりは婚約した。
なにがきっかけなのか、どちらから告白したのか気になるところだが、片っぽがクラゲみたいにのらりくらりした初斗だ。聞いたところで答えてくれるわけがなかった。
「最初会ったときと比べたら、ほんとうに元気になったよね。アリスさん。今にも倒れちゃいそうなくらい真っ青だったもの」
「……馬鹿だったって反省してる。だから歩さんの誕生日に、助けてもらっているお礼をしたいんだ」
「すごく喜ぶと思うな」
ネルが出してくれたミルクティーを飲んで、アリスは考えを巡らせる。
「歩の誕生日なら明後日だよ。八月二日」
どこから聞いていたのか、米袋を担いだ初斗がやってきた。米を抱えていない方の腕には買い物袋が二つ下がっている。
「あ、にいさん、おかえりなさい。買い物ありがとう」
「いえいえ。重たい物が多かったですから」
初斗は外に出られるようになったのが嬉しくて、自分から外出する用事を引き受けている。
「例年なら、うちに招いて夕食をごちそうしているけれど。なんならアリスさんも参加してなにか作りますか?」
「先生と同じことをしても面白みがないような。かといってまた髪飾りっていうのも」
「贈り物って、相手のためを思って贈るのでしょう。面白い面白くないでする物じゃない気がします」
初斗の切り返しに、アリスは戦慄した。
「先生がまともなことを言ってる……。今夜は台風でも直撃するの? それとも吹雪くの?」
「わたしはいつでもまともですよ。天気を操作する人外能力を持ったことはありませんから」
アリスも初田の患者になって半年近く経つので大分なれてきた。が、こういう発言がボケなのか本気なのかはかりかねる。
「にいさん、そういう意味じゃないよ」
「難しいですね。勉強が足りませんでしたか」
ネルに言われて初斗は肩をすくめた。
「歩に直接聞いてみてはいかがでしょう。わたしやネルさんは歩の好みを100%知り尽くしているわけではありません。あくまでも想像の範囲でしか答えられないので」
「……わかった。聞いてみる」
誕生日まで日数がないので、その足ですぐワンダーウォーカーに顔を出す。
歩はトルコのモザイクランプを手入れしているところだった。埃が積もってしまわぬように、三日に一度は全部クロスで拭いている。
手を止めてアリスに視線を向けた。
「あら、どうしたのアリスちゃん。今日はお休みでしょ」
「歩さん。誕生日になにか欲しいものある?」
ド直球で聞かれて、歩は何度か瞬きした。
アリスは休みの日に初田ハートクリニックに来ていた。といっても、診察日ではない。
ネルと仲がいいので、友人としてここにいる。
今はクリック二階のダイニングキッチンで、ネルがお茶をいれてくれるところだ。
「歩さんの誕生日?」
「そう。聞きそびれて今更聞けないっていうか。お世話になっているから、なにかしたいんだ。歩さんがまかないを作ってくれるから、まともにご飯を食べられるようになってきたんだもん」
ネルが相づちを打ちながら、ティーポットの紅茶を注ぐ。ポットを持つ左手の薬指には、指輪が光っている。
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なにがきっかけなのか、どちらから告白したのか気になるところだが、片っぽがクラゲみたいにのらりくらりした初斗だ。聞いたところで答えてくれるわけがなかった。
「最初会ったときと比べたら、ほんとうに元気になったよね。アリスさん。今にも倒れちゃいそうなくらい真っ青だったもの」
「……馬鹿だったって反省してる。だから歩さんの誕生日に、助けてもらっているお礼をしたいんだ」
「すごく喜ぶと思うな」
ネルが出してくれたミルクティーを飲んで、アリスは考えを巡らせる。
「歩の誕生日なら明後日だよ。八月二日」
どこから聞いていたのか、米袋を担いだ初斗がやってきた。米を抱えていない方の腕には買い物袋が二つ下がっている。
「あ、にいさん、おかえりなさい。買い物ありがとう」
「いえいえ。重たい物が多かったですから」
初斗は外に出られるようになったのが嬉しくて、自分から外出する用事を引き受けている。
「例年なら、うちに招いて夕食をごちそうしているけれど。なんならアリスさんも参加してなにか作りますか?」
「先生と同じことをしても面白みがないような。かといってまた髪飾りっていうのも」
「贈り物って、相手のためを思って贈るのでしょう。面白い面白くないでする物じゃない気がします」
初斗の切り返しに、アリスは戦慄した。
「先生がまともなことを言ってる……。今夜は台風でも直撃するの? それとも吹雪くの?」
「わたしはいつでもまともですよ。天気を操作する人外能力を持ったことはありませんから」
アリスも初田の患者になって半年近く経つので大分なれてきた。が、こういう発言がボケなのか本気なのかはかりかねる。
「にいさん、そういう意味じゃないよ」
「難しいですね。勉強が足りませんでしたか」
ネルに言われて初斗は肩をすくめた。
「歩に直接聞いてみてはいかがでしょう。わたしやネルさんは歩の好みを100%知り尽くしているわけではありません。あくまでも想像の範囲でしか答えられないので」
「……わかった。聞いてみる」
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歩はトルコのモザイクランプを手入れしているところだった。埃が積もってしまわぬように、三日に一度は全部クロスで拭いている。
手を止めてアリスに視線を向けた。
「あら、どうしたのアリスちゃん。今日はお休みでしょ」
「歩さん。誕生日になにか欲しいものある?」
ド直球で聞かれて、歩は何度か瞬きした。
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