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冬瓜つみれスープと、初斗の危険な賭け②
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「ん、誰か来たようね」
「あたし、行ってみます」
ワンダーウォーカーは雑貨屋だから、よほどのことがない限り休憩中の札を下げている間に人が入ることはない。
アリスが店に出て行き、すぐネルと一緒に戻ってきた。
「ネルちゃん、どうしたの? いつもならお昼寝をしている時間でしょ」
ネルはナルコレプシーという睡眠障害を患っていて、日中に一回昼寝をするのが対症療法というのになるらしい。
歩が促すと、テーブルについてうつむいたまま話し始めた。
「……にいさんを止めてほしいの。つい先日、患者さんの妹さんなんですけど。その方が東京で、にいさんと同じ声、おなじ背格好の人と会ったことがあるんだって。その話を聞いて、平也さんが出入りしている店に直接行ってみるって言い出したの」
初斗の兄、フルネームを嘉神平也《へいや》という。
中学生の時に両親が離婚しているので姓が違うが、まぎれもなく双子の兄弟だ。
「それ、信憑性はあるの?」
ネルは深く頷いて、一枚の写真をテーブルに出した。スマホの写真を家庭用プリンターで出力したものだ。
そこには、三十代後半に見える男が写っていた。
どこかの路地裏で缶コーヒーを手にしている。サングラスをしているが、その姿は初斗そのもの。
唯一の違いは、口元にホクロがないこと。
長年の友である歩が見ても、事前の説明がなければこれは初斗を撮った写真だと思ってしまうくらいだった。
「店に行くって、いつ。店の名前はわかる? 初斗の兄貴は娯楽で殺人事件を起こした人間でしょう。そんな人を匿っている人たちの元に行くなんて危険じゃないの」
「……今夜。歌舞伎町にある、【名無しの森】っていうバーだって。クリニックの仕事が終わったら行くつもりみたい。私が止めても、わかってもらえなかったの」
初斗は十年も引きこもり生活を余儀なくされてるから、もう何が何でも兄を見つけ出したいのだ。
危険だとわかっていても。
アリスも予想以上に深刻な事態に、おろおろしている。
「ネルの話を聞かないなら、誰の言うことも聞いてくれないんじゃ」
「大丈夫よアリスちゃん。アタシならある程度の荒事にもなれているから、初斗を尾行してみる。本当に危険なことになりそうなら殴ってでも引きずって連れ戻してくるわ」
「たいへんなことをおねがいしちゃって、ごめんなさい。でも、歩さん以外に頼める人がいないの」
本当ならネルは自分で追いかけたいだろうけれど、途中で睡眠発作が起きて倒れる可能性がある。そうなってしまっては、尾行どころではない。
「任せなさい。あいつの無茶を止めるのは十五歳の時からやってるんだから、今更よ。ネルちゃんは家に帰りなさい。お昼寝をしないと午後の仕事で体が持たないわよ」
「……うん」
ワンダーウォーカーをいつもより早めに閉めることにして、歩は準備を整えた。
「あたし、行ってみます」
ワンダーウォーカーは雑貨屋だから、よほどのことがない限り休憩中の札を下げている間に人が入ることはない。
アリスが店に出て行き、すぐネルと一緒に戻ってきた。
「ネルちゃん、どうしたの? いつもならお昼寝をしている時間でしょ」
ネルはナルコレプシーという睡眠障害を患っていて、日中に一回昼寝をするのが対症療法というのになるらしい。
歩が促すと、テーブルについてうつむいたまま話し始めた。
「……にいさんを止めてほしいの。つい先日、患者さんの妹さんなんですけど。その方が東京で、にいさんと同じ声、おなじ背格好の人と会ったことがあるんだって。その話を聞いて、平也さんが出入りしている店に直接行ってみるって言い出したの」
初斗の兄、フルネームを嘉神平也《へいや》という。
中学生の時に両親が離婚しているので姓が違うが、まぎれもなく双子の兄弟だ。
「それ、信憑性はあるの?」
ネルは深く頷いて、一枚の写真をテーブルに出した。スマホの写真を家庭用プリンターで出力したものだ。
そこには、三十代後半に見える男が写っていた。
どこかの路地裏で缶コーヒーを手にしている。サングラスをしているが、その姿は初斗そのもの。
唯一の違いは、口元にホクロがないこと。
長年の友である歩が見ても、事前の説明がなければこれは初斗を撮った写真だと思ってしまうくらいだった。
「店に行くって、いつ。店の名前はわかる? 初斗の兄貴は娯楽で殺人事件を起こした人間でしょう。そんな人を匿っている人たちの元に行くなんて危険じゃないの」
「……今夜。歌舞伎町にある、【名無しの森】っていうバーだって。クリニックの仕事が終わったら行くつもりみたい。私が止めても、わかってもらえなかったの」
初斗は十年も引きこもり生活を余儀なくされてるから、もう何が何でも兄を見つけ出したいのだ。
危険だとわかっていても。
アリスも予想以上に深刻な事態に、おろおろしている。
「ネルの話を聞かないなら、誰の言うことも聞いてくれないんじゃ」
「大丈夫よアリスちゃん。アタシならある程度の荒事にもなれているから、初斗を尾行してみる。本当に危険なことになりそうなら殴ってでも引きずって連れ戻してくるわ」
「たいへんなことをおねがいしちゃって、ごめんなさい。でも、歩さん以外に頼める人がいないの」
本当ならネルは自分で追いかけたいだろうけれど、途中で睡眠発作が起きて倒れる可能性がある。そうなってしまっては、尾行どころではない。
「任せなさい。あいつの無茶を止めるのは十五歳の時からやってるんだから、今更よ。ネルちゃんは家に帰りなさい。お昼寝をしないと午後の仕事で体が持たないわよ」
「……うん」
ワンダーウォーカーをいつもより早めに閉めることにして、歩は準備を整えた。
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