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第十一話 暑い日は爽やかに、ひきわり納豆そうめん①

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 アリスがワンダーウォーカーで働くようになってから、一気に男性客が増えた。それも二十代から三十代が。単にワンダーウォーカーのアイテムが気に入ったからではない。
 今日もまたひとり青年が、店に入ってきてすぐアリスに声をかけた。

「ちょっときいていいかな」
「はい、なんでしょう」
「連絡先教えてよ」
「あ、はい」

 この手のことに慣れた女性なら、ナンパだとすぐに気づけるのだが、アリスはまだまだそのあたりに疎い。
 店内二カ所に設置してあるショップカードを手渡す。

「スマホをお持ちでしたら公式SNSを見ることができますよ。店長が毎日更新しているので、日替わりのおすすめ商品もわかります」
「いや、おれが知りたいのは」

 無自覚スルーされた若者。たまたま買い物に来ていたコウキがこれまた無自覚にとどめを刺す。

「おじさん、もしかしてスマホの使い方知らないの? じゃあ俺が教えるよ。このQRコードっていうのを読めばいいんだ。こうして、ほら」
「え、あ、どうも? はははは…………はあ……」

 青年は引きつり笑いをしながらショップカードをポケットに入れ、すごすごと退散した。
 純粋とは実に恐ろしい。
 ほかにも店内にいた青年が、たまらず笑い出してしまった。

「お兄さんどうしたの。思い出し笑い?」
「いや、ごめん。そうじゃないんだけど、あははは」

 黒髪をスポーツ刈りにした、いかにも体育会系の体格をした青年だ。年齢はネルと同じくらい。折りたたみ日傘を選び、カウンターにいる歩に声をかけてくる。

「店長さん、ここに配送サービスもありますって書いてあるんですけど、母の日に指定ってできますか」
「可能よ。母の日用なら、プラス50円でメッセージカードもつけられるけれど、つける?」
「はい、ぜひ」

 母の日が近いこともあって、こんな風に贈り物を買っていく人が増えた。
 東堂という爽やか青年は、発送伝票に丁寧な字で送り先を書き込み、メッセージカードにもびっしり感謝の気持ちを連ねた。

「時間も土日も関係ない仕事をしているせいで、なかなか実家に顔を出せないから。せめてこれくらいはと思って」
「若いのに立派な心がけねえ」

 カードのインクが乾くまでの間、東堂はそんな事情を話してくれた。
 東堂が帰ってから、コウキが歩のところに来た。

「店長さん。お茶のセット、母さんが昨日すごく喜んでたよ」
「あら、それはよかったわ」

 コウキも昨日、母の日用にとティーポットと茶葉のセットを買っていた。母の日が待ちきれなくて即日渡してしまったらしい。

「店長さんは母の日なにか贈る?」
「そうねえ。健康でいるのが一番の贈り物かしら」
「じゃあ俺も来年はそれにしようかな」
「やめなさい」

 何も贈らないという遠回しな表現が通じない。純粋すぎるのも考え物である。
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