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第十話 時間の長さより、気持ちが大事①

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 四月末の日曜日。
 アリスはネルと一緒に買い物に出ていた。
 アリスは引っ越して間もないから、ネルが道案内を買って出てくれた。

 アリスたちの暮らす最寄り駅から三駅ほど離れたところに、大型のショッピングモールがある。
 そこには大手の百貨店や輸入雑貨店、服屋が並んでいる。

 ネルが紹介したのはハンドメイドショップだった。

「あそこのお店はハンドメイドショップでね。レジンやガラス細工のアクセサリーが豊富なの」
「そこなら歩さんが好きなもの、ありそう」

 歩はクリスタルやガラスのアクセサリーを好んで身につけている。

「喜んでくれるといいね」
「……うん」

 金曜日に人生初のお給料が出て、アリスは歩にお礼の品を贈りたいと考えていた。
 ちょうど金曜日が診察日だったので初田に「歩さんが喜ぶものを教えて」と聞いたのに、
「一般的に、ほかの男が選んだものを贈られても喜ばないらしいです。だから自分で考えてください。その方が喜びます」と言われてしまった。

 世間ずれした初田に一般論を述べられても釈然としないけれど、歩に喜んでもらいたいから自分なりに考えることにした。

 ネルはアリスの話を聞いて、イチオシの店に連れてきてくれた。
 店内の商品は手作りだからどれも一点もの。アリスはひとつひとつ手に取って見る。
 そんなアリスの横で、ネルはいつも以上に笑顔だ。

「アリスさんも、誰かのために選ぶのは楽しいって思う?」
「よくわからない。誰かにプレゼントを贈るのって初めてだから。でも、喜んでくれた嬉しいな。歩さんにはたくさん助けてもらったから。初田先生とネルにもだけど」

 ネルは天井から吊るされているビーズ細工を見上げながら、懐かしそうにする。

「私もにいさんに引き取られたとき、お礼にできることないかなって、たくさん考えたな」
「……ネルっていつから初田先生のところにいるの? 話したくなかったらいいんだけど」

「高校一年の夏休み。初斗にいさんが私の病気に気づいて、「ナルコレプシーの治療は十年近くかかる。これから先の治療費全部わたしが負担する」って言って引き取ってくれたの。うちは母子家庭でお金がなかったから、お母さんも初斗にいさんにはすごく感謝してるの」
「そう、だったんだ」

 ネルが自分から話してくれたことを、言わせてごめんというのも何か違う気がして、アリスは静かに相づちをうつ。初斗とネルのあいだには、一言では表せないくらいの時間や思いがあるのがわかる。

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