蛇場見《じゃばみ》さんちのまかないごはん。 〜拒食症アリスとジャバーウォックのワンダーライフ〜

ちはやれいめい

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おかえりなさいのポトフ②

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 洗い物は帰ってきてからすることにして、シンクに食器をまとめたら店を出る。
 商店街のほかの店もシャッターが降りていて、街灯が点々とついている道を二人で歩く。
 人通りはまばら。これから飲みにでもいくのか、賑やかな若者のグループが繁華街の方に向かっていく。


「ストールはそのままアリスちゃんが使っていていいからね。風邪を引かれたらたいへん」
「歩さんってほんとうに面倒見がいいですね。先生が言ったとおりだ」
「ん? 初斗からなにか聞いていたの?」
「変わり者だけど、すごく面倒見がよくて頼れるって言ってました」

 出会って間もない頃、初斗はよく「ぼくと付き合っていられるんだから、歩もそうとう変わり者だよね」なんて言っていた。変わり者だと自覚しているんだと知って、おおいに笑った記憶がある。

「長年一緒にいてそう評してくれるなら、買いかぶりじゃないかもしれないわね」
「いいなあ。あたしもそういう風に、長く一緒にいられる友だちがほしい」
「ネルちゃんとならなれそうだけど」
「そうかな」

 ネルは今年二十四歳になる。アリスとは年も近いし、職場が目の前だから話す機会も多い。
 性格の面で言っても、アリスとネルは相性がいいんじゃないかと歩は思っている。

 アリスの住むアパートが見えてきて、アリスはポケットから鍵を出して走る。

「それじゃ、歩さん。今日はありがとうございました! また明日!」
「ええ。また明日ね。おやすみ、アリスちゃん」
「はい。おやすみなさい、歩さん」

 アリスが部屋に入るのを見届けて、歩は来た道を戻る。

 一人で店を切り盛りしていた日々もそれなりに充実していたけれど、今が一番楽しい。
 誰かといることを必要としていなかった初斗がネルをそばに置いている理由が、今ならよくわかる。

「誰かのために生きるのは、こんなにも楽しいものなのね」

 自分のためだけでなく、誰かのためになにかできるのは楽しい。
 明日は何を作ろう、喜んでもらえるだろうか。そう考えながら歩いた。
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シリーズ作品
初田ハートクリニックの法度(完結済)
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