蛇場見《じゃばみ》さんちのまかないごはん。 〜拒食症アリスとジャバーウォックのワンダーライフ〜

ちはやれいめい

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みぞれ湯豆腐と大事件②

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 アリスが洗い物をしてくれるというので、歩は先に店に戻った。扉を開けて掃除をしていると、電話が鳴った。

「お電話ありがとうございます。ワンダーウォーカー蛇場見です」
『こちら〇〇総合病院です! そちらに有沢リナさんの妹さんはいらっしゃいますか!?』

 受話器から聞こえてくるのは、ひどく焦る女性の声だ。その向こうからバタバタと多くの人が走り回る音がする。
 アリスがリナの妹でワンダーウォーカーにいると知っているのは、アリスの家族と初田、ネルだけ。いたずら電話とは思えなかった。

「アリスちゃん、電話よ。総合病院から、アリスちゃんに」
「え、あたしに、病院から?」

 いぶかしげにしながらも、アリスは受話器を耳に当てる。

「はい、お電話代わりました。はい、私は妹で、アリスといいます。え、お姉ちゃんが?」

 数分話した後、アリスは青ざめたまま受話器を置いた。

「……お姉ちゃんが、事故に遭って……これから手術を受けるって」

 アリスはその場にへたり込み、顔を手で覆う。

「あたし、お姉ちゃんのこと嫌いなのに、大嫌いなのに……会いたくないのに、でも、大怪我したって……」
「行きなさい。店はアタシ一人で大丈夫」

 歩は膝をついて、アリスの肩に手を置く。どれだけ嫌っていてもやはり大怪我をしたのはとても心配。アリスの心境はとても複雑だ。
 歩も、アリスにひどいことを言うリナを好きにはなれないけれど、事故に遭って死ねとまでは思わない。

「会えなくなってからじゃ、なにもかも手遅れになってしまうわ。行きなさい。そこの通りにいつもタクシーがいるから使えばいいわ。アタシがお金を出すから」
「……歩さん。…………うん。いつか必ず返す」

 アリスに一万円渡し、そのまま送り出した。


 四時間は経っただろうか。
 気が気じゃなくて仕事が手につかない。
 いつもより早めに店を閉めようかと思っていたところで、歩の携帯が鳴った。

「もしもし、アリスちゃん!?」
『歩さん。手術が終わって、お姉ちゃんが目を覚ましたよ』

 泣きはらしたのか、声がかれている。

「そう。大丈夫?」
『うん。あ、歩さん。初田先生が歩さんに話があるって』
「初斗? なんで初斗がそこに」

 初斗もたまたま家族が怪我をしたか何かなのか。歩の疑問に、初斗本人が答える。

『リナさん、けっこう出血があったみたいで血液在庫が不足していたから。アリスさんから連絡をもらって、わたしの血を提供したんだ』
「それですぐ駆けつけるあたり、さすが医者ね……」

 アリスは初斗の患者だから、リナと面識があっても不思議ではない。初斗の性格上、目の前に助けを必要とする患者がいるなら助ける。

『アリスさんはこれからタクシーで戻るから、夕飯を用意して待っていて』
「わかったわ。……ありがと、初斗」
『わたしは歩にお礼を言われるようなことをしていないよ』
「それでもお礼を言いたかったのよ。じゃあ、またね」

 歩は笑って電話を切る。
 あの喧嘩をしたままでリナが亡き者になっていたら、後味が悪すぎて一生忘れられなさそうだったから。
 もう会わなくていいけれど、どこかで生きていればそれで十分。

「さ、アリスちゃんお腹が空いているだろうから、おいしいもの作らないとね」


 店じまいをして、アリスのために夕飯の支度に取りかかった。
 
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シリーズ作品
初田ハートクリニックの法度(完結済)
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