15 / 74
第八話 みぞれ湯豆腐と大事件①
しおりを挟む
蜻一が帰ってから、歩は休憩の札を下げる。
どこからか救急車のサイレンが聞こえてきた。
(また事故か……。今日は多いわね)
明け方にも事故があり、救急車の音で目が覚めたくらいだ。
今は進学進級シーズンだから、大学入学前に自動車学校に通う人が多い。または、学校卒業で社会人になるタイミングで取るという人もいる。
免許を取り立てのドライバーが増えるから、事故もその分増える。
キッチンに入ると、お茶を飲んでいたアリスが顔を上げた。
「歩さん、大丈夫? 声を荒らげていたみたいだけど、なんかあったの?」
姉が来ていらないことをあれこれ言っていた、なんて知ったらアリスが傷つくだろう。
リナが帰った後、歩はリナが置いていった名刺をすぐにゴミ箱に放り込んだ。
両親は見目のいいリナだけを溺愛して、アリスはないがしろにされてきた。その事実がリナの態度でわかった。
歩は頭を左右に振って、笑顔をうかべる。
「何もないわよ。さて、お昼は何を作ろうかしら」
「いつも作ってもらってばかりだと悪いから、今日はあたしが作ってみたんだ。うまくできているかわからないけど」
アリスがぎこちなく笑いながら、土鍋を開けて見せてくれる。
作ってくれたのは湯豆腐だった。小さめに切った白菜とにんじんも一緒に煮込んであり、豆腐の上にはネコ型で抜いた大根おろしが何匹も乗っている。
「ありがとう、アリスちゃん。とってもおいしそう。ハチワレや三毛猫ちゃんがいるのね」
「お醤油やポン酢を垂らすとネコの柄を変えられるってネルが教えてくれて」
さすがネル。布教活動に余念がない。柄ネコの理由を知って、歩は笑いがこらえきれなかった。
とんすいに野菜と豆腐を取り分けていただく。
「うん、おいしいわ。アリスちゃんはお料理上手ね」
「煮込むだけだからそんな褒めなくても」
「そんなことないわよ。ただ水で煮ているんじゃなく、ちゃんとだしも入れているでしょ。カツオのいい香りがするわ」
アリスの家族がアリスを大切にしないなら、歩は家族がしてこなかった分、目一杯アリスを大切にすればいい。アリスは自分のとんすいにも取り分けて、小さめの豆腐にポン酢をつけて口に運ぶ。
「……おいしい」
「おいしいわね。そうだ! シメにおうどんも入れましょ。溶き卵もかけて」
やっぱりご飯は一人で食べるより二人で食べた方がおいしい。
今更一人で食べろなんて言われても無理かもしれない。
どこからか救急車のサイレンが聞こえてきた。
(また事故か……。今日は多いわね)
明け方にも事故があり、救急車の音で目が覚めたくらいだ。
今は進学進級シーズンだから、大学入学前に自動車学校に通う人が多い。または、学校卒業で社会人になるタイミングで取るという人もいる。
免許を取り立てのドライバーが増えるから、事故もその分増える。
キッチンに入ると、お茶を飲んでいたアリスが顔を上げた。
「歩さん、大丈夫? 声を荒らげていたみたいだけど、なんかあったの?」
姉が来ていらないことをあれこれ言っていた、なんて知ったらアリスが傷つくだろう。
リナが帰った後、歩はリナが置いていった名刺をすぐにゴミ箱に放り込んだ。
両親は見目のいいリナだけを溺愛して、アリスはないがしろにされてきた。その事実がリナの態度でわかった。
歩は頭を左右に振って、笑顔をうかべる。
「何もないわよ。さて、お昼は何を作ろうかしら」
「いつも作ってもらってばかりだと悪いから、今日はあたしが作ってみたんだ。うまくできているかわからないけど」
アリスがぎこちなく笑いながら、土鍋を開けて見せてくれる。
作ってくれたのは湯豆腐だった。小さめに切った白菜とにんじんも一緒に煮込んであり、豆腐の上にはネコ型で抜いた大根おろしが何匹も乗っている。
「ありがとう、アリスちゃん。とってもおいしそう。ハチワレや三毛猫ちゃんがいるのね」
「お醤油やポン酢を垂らすとネコの柄を変えられるってネルが教えてくれて」
さすがネル。布教活動に余念がない。柄ネコの理由を知って、歩は笑いがこらえきれなかった。
とんすいに野菜と豆腐を取り分けていただく。
「うん、おいしいわ。アリスちゃんはお料理上手ね」
「煮込むだけだからそんな褒めなくても」
「そんなことないわよ。ただ水で煮ているんじゃなく、ちゃんとだしも入れているでしょ。カツオのいい香りがするわ」
アリスの家族がアリスを大切にしないなら、歩は家族がしてこなかった分、目一杯アリスを大切にすればいい。アリスは自分のとんすいにも取り分けて、小さめの豆腐にポン酢をつけて口に運ぶ。
「……おいしい」
「おいしいわね。そうだ! シメにおうどんも入れましょ。溶き卵もかけて」
やっぱりご飯は一人で食べるより二人で食べた方がおいしい。
今更一人で食べろなんて言われても無理かもしれない。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる