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ささくれたときには、さっぱりオムレツ②

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 アリスが真剣な顔で箸を動かしている間、歩はほうれん草とトマトを刻む。フライパンに油をしいて、ほうれん草とトマトを炒める。溶き卵にひとつまみ顆粒だしを入れて、フライパンに流し込む。
 均等に熱が行き渡るよう箸で混ぜながら、フライパンを浮かせ、形を整える。

「これでお皿に盛り付けて、ケチャップをかけたら完成よ」
「おいしそう」
「そりゃ当然、おいしいわよー」

 レタスとスライスチーズを挟んだロールパンを添える。
 テーブルについていただきますをする。

「なんであたしは休日にまかないを食べているんだろう」
「まあまあ。アタシはアリスちゃんと一緒に食べるの、嬉しいわよ。診察どうだった? 初斗はちゃんと医者としてやっているかしら」
「今回もさらっと失礼なことを言うから、うっかり叩いちゃいそうになった」

 何を言ったかまではわからないけれど、「手負いの獣みたいですね」と同列のことを言ったのだろう。
 悪気がないからさらにたちが悪い。正直なのは悪いことではないけれど、思ったことをそのまま言ってしまう。歯に衣着せるということができない男なのだ。

 オムレツを食べながら、アリスは半眼になっている。

「うん、叩いちゃっていいんじゃないかしら」
「初田先生って絶対AB型でしょ。なんか無神経さがお姉ちゃんに似てる」
「大当たり。初斗はAB型よ。……アリスちゃんってお姉さんがいるの?」
「あ」

 本当は言う気がなかったようだ。アリスは慌てて口に手を当てる。

「……いるけど、仲はあんまよくないんだ」
「そうなのね。ならもう聞かないわ」

 嫌な話題を続けられても、困るだけ。早々に話を打ち切った。
 歩は温めたミルクに淹れておいたラベンダーティーを注ぎ、ハチミツをひとさじ混ぜる。

「さ、アリスちゃん。ラベンダーティーをどうぞ。これも今度から取り扱うから飲んでみて」
「わー。ちょっと香りが強いけどおいしい」
「そうなのよ-。香りが強めだから苦手な人もいるけれど、リラックス効果があって安眠できるの。ミルクティーにしたり、他のハーブとブレンドすることで飲みやすくなるわ」
「そうなんだ」

 アリスはオムレツを食べつつ、お茶で喉を潤す。

「うん、効能を聞いたらよく眠れる気がしてきた」
「今日はいい季候だから、お昼寝も気持ちいいかもしれないわよ」
「試してみる」

 アリスは笑って「ごちそうさま」を言い、店をあとにする。
 一番味方であるべき家族が信用できないから、アリスはいつもどこか寂しそうだ。
 ただの雇い主と従業員という立場ではできることが少ない。けれど、アリスのために何かしてあげられたらと思わずにはいられなかった。
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