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小腹がすいたら、焼きリンゴを②

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 仲のいい親子を見送って、アリスは複雑そうな顔をする。

「いいなあ。ああいうのが普通の家族なのかな」
「家族の在り方、なんて人によって基準が違うから、普通なんて考えない方がいいわよ。たとえばアタシの親はまったく干渉してこないわ。アタシは何も言ってこないのがちょうどいいけど、放置されすぎて寂しいって思う人もいるでしょうし」

「うん。そうだね。あたしも、両親にベタベタして欲しいわけじゃない。せめて、……に向けるはんぶんでも、気にかけてくれたらそれでよかったのに」

 店に来てすぐ、親と仲がよくなかったと教えてくれた。「人それぞれ」なんてなんの慰めにもならないけれど。アリスは微かに笑った。

「アリスちゃん。そろそろお腹すかない? さっきお客さんからリンゴをもらったから、おやつを作るわ」
「おやつですか」
「ええ。すぐ作るから、店番よろしくね」

 歩はすぐ調理に取りかかった。
 紅玉の芯をとり、輪の薄切りにする。フライパンにオリーブオイルをしいて、温まったらリンゴを並べる。
 大さじ1の黒砂糖を散らしてじっくりと両面焼き上げる。
 リンゴがしんなりして、透明感がでてきたら火から下ろす。
 ガラス皿に並べて、ヨーグルトを添えたらできあがりだ。

「おまたせ。歩さん特製の焼きリンゴよ! 今日は天気がいいからそこで食べましょうか」

 店のショーウインドウ前に置いているテーブルセットに着席する。
 編み上げの籐で作られた椅子と、ガラス張りのテーブル。
 お客様がここに座って休めるようにしてあるのだが、今は座る人がいないから自分たちが使ったってなんの問題もない。

「甘いものを食べたらふとるんじゃ」

 まだ太ることへの恐怖が拭い切れていないようだ。不安そうに視線を落としている。

「リンゴを半分食べたくらいじゃ太らないわよ。この材料なら、カロリーはご飯茶碗一杯より少ないくらい」
「そうなの?」
「ええ。それに火を通したリンゴはお腹にも優しいの。温かいうちにめしあがれ」

 アリスはじっと歩の顔をうかがい、意を決して、焼きリンゴを一枚口に入れた。

 とたんに目が輝く。
 なにも言わなくても、喜怒哀楽が顔に出ているので見ていて清々しい。たぶん嘘がつけないタイプだ。

「なにこれおいしい。それにやわらかくてぷるぷるしてる」
「そうでしょそうでしょ。なんならおかわりしてもいいわよ」
「それはさすがに」

 はじめは躊躇していたけれど、すごく幸せそうにかみしめて食べてくれる。作った甲斐があるというもの。

「材料が少ないし家でも作れるから、レシピを教えてあげる。アリスちゃんも試してみなさいな」
「うん。そうする」

 このあと仕事上がりにスーパーに直行してリンゴを買ったらしい。ほんとうに素直な子だ。
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