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56 祭の露店にいかが? カノムモーゲン!

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 秋だ、祭だ、うまい飯だ!
 この世界にも収穫祭というのがあり、サイハテ村の住民たちは祭のため、村で一番大きな畑で野菜を育てていた。

 祭は3日後。
 オレとミミもおじちゃんおばちゃんに混じって収穫を手伝う。
 つる草がはびこる根元にクワを刺して、埋まっている野菜を掘り出す。

 例えるなら黒くなったドラゴンフルーツだろうか。鎧かって感じのゴツい皮におおわれている。

「わー。変なの。ミミ、これなに?」
「ヌルイモ。とろみがある。うまい」
「よっしゃ、ヌルイモな! ヌルイモとったどーー!!」

 素潜り漁が得意な芸人のように、ヌルイモをつるごと持ち上げる。
 珍しい野菜、SNS映え! 事務所所属ユーチューバーなら専属カメラさんが撮影してくれているシーンだぞ。

「キムランうるさい。マジメにしゅうかくしないとだめ」
「ごめんなさい」

 ミミだけでなく、おじちゃんおばちゃんの視線も冷たい。心にすきま風吹いてるよ。
 
 なんやかんやありつつ、昼メシどきまでには収穫は終了した。
 一日日干しして、村の備蓄食糧庫に保存する。

 畑の持ち主でランの母、リナリーさんが教えてくれる。

「いつもはこれを祭の市で売るんだけどね。せっかく宿もできたことだし、料理の屋台も考えているんだよ」
「料理かぁ。ヌルイモで何が作れるんだ?」

 オレの疑問に答えたのはミミだ。

「やいてもゆでても、うまい」
「うちの子が好きだから、カノムモーゲンにしようかと思ってるんだ。一度にたくさん作れるから祭で出すのにも向いている」
「かのむ……もーげん。想像もつかん」

 オレの理解できない単語である。
 ボーゲンならスキー。モーゲンはなんだろな。
 イモを手に考え込むと、リナリーさんが提案してくれた。

「なら明日試作品を作ろうかね。キムランとミミも来るかい?」
「え、いいの? ミミ行こうぜ!」
「うむ。わたしも、モーゲンすき」

 即決。
 明日が楽しみすぎて、二人して早めに眠りについた。



 日が明けて、オレとミミはカノムモーゲン試作会を手伝いに行った。
 エプロンをつけたランが出迎えてくれる。

「あ、ミミちゃんとキムランきたー。もう準備始めてるよ。キムラン皮むき手伝って」
「おー。まかせとけ!」

 キッチンでリナリーさんに籠とナイフを渡される。籠の中にはヌルイモがたくさん。
 見た目めちゃくちゃ硬そうな皮だけど、ナイフを当てながらイモを回すとスルリとむける。
 中身は白くて艶のあるイモ。表面にぬめりがある。

 ミミとランも手を切らないよう気をつけながら皮をむいて、ヌルイモを一口大に切り分ける。
 リナリーさんが大鍋に湯を沸かしていて、そこにヌルイモを投入。

 茹で上がったヌルイモをボウルに入れて、麺棒で潰していく。
 イモを潰して作る料理というと、思い浮かぶのがひとつ。

「コロッケでも作るのか?」
「ころっけってなんだ?」

 ミミに冷静な顔で返された。デスヨネー。
 オレの知るコロッケがコロッケとして存在してたら奇跡だよ。

「キムラン、変なこと言ってないで次はこれ」
「はい~」

 オレがイモを潰す横から、ランがハルルのみつとコケトリスのたまごを溶いたものを、小分けにして流し込んでくる。
 麺棒から木のヘラに持ち換えて、よく混ぜ合わせる。

 最後にミミが海ヒツジのミルクを注いで、とろっとしたクリーム色の液体が出来上がった。

「次はここに入れて」

 リナリーさんが深めの大皿を用意する。

 イメージしてもらうとしたら、ご家庭用のオーブンに入っている、クッキーを並べて焼くのに使う鉄製のアレ。

 内側にオイルが塗ってあって、そこに今作った液を流し込む。

「あとはこれを窯で焼くんだよ」

 ランが魔法の焼窯の蓋を閉めて言う。

「そうなんだね~。やっとわかった。モーゲンって、ケーキっていうか焼きプリンみたいなやつなのか」

 子どもが大好きプリン。
 オレも小さい頃は、例にもれずプリンが好きだった。ばあちゃんの手作りおやつシリーズ。

 甘くていいにおいが漂う中で、洗い物やイモの皮の片付けをして、カノムモーゲンが焼き上がった。

 焼き窯から出したら縦横の切り込みを入れて、一切れ皿に乗せる。
 今にもとろけそうなのに、焼いてあるからしっかりと形を保っているカノムモーゲン。


 お祈りしていざプリンをお口の中へ。

「うおおおおなんて美味いんだ。…………みつの甘みとイモ特有の甘みが奏でるハーモニー。海ヒツジのミルクもいい仕事してますね、はい」

 実況モードになっちゃうくらいにうまい。
 熱々で、口の中でもっちりトロッととろけるお芋プリン。


 ランとミミも一口一口じっくり味わって、幸せそうに食べている。

「どうだい、キムラン。これを露店で売ろうと思うんだ。外から来た人間として、売れると思うかい? 大きな街の人から見たら、田舎じみているって言われるかもしれないからね」

 聞いてくるリナリーさんに、オレは思うまま答える。

「これなら大人気になるよ。日本にこんなプリンの店があったら大行列間違い無し。すっごく美味いもん!」
「そうかいそうかい。それは良かった」
「あたしもぜーったいうれるとおもう! お母さんのカノムモーゲン大好き!」
「わたしもかう。リナリーのモーゲン、おいしい」

 みんなに大絶賛されてリナリーさんも嬉しそう。
 収穫祭で出す露店の商品の一つはカノムモーゲンで決定した。

 他の人もなにやら色々考えているようで、祭の当日が本当に楽しみだ。
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