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53 カズタカさんからのお願い。キムラン、日本メシのレシピを書き出す。
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夕暮れ時になり、村のみんながカズタカさんの歓迎会を開いた。
カズタカさんが魔法具を提供してくれたおかげで無限ジョウロを製造販売できるのだ。感謝してもし足りないから最大限の歓迎会を。……と言うのは建前で、実のところ男衆は騒いで飲み食いしたいだけである。
集会場の大テーブルに所狭しと御馳走が並べられ、村長が咳払いひとつして口上を述べる。
「ようこそぉー、おこしくらはいまひたあ~」
「おい誰か村長を帰らせろ。泥酔してんじゃねえか! ビリー!」
「やだよ俺まだつまみ食ってない」
「お前はオリビアさんの宿でお世話されていてずるいから、村長の後始末くらいしとけ!」
「親父が酔ってんのは俺のせいじゃねーーー! あとオリビアさんにお世話されたきゃお前らも泊まればいいだろうが!」
歓迎会とはなんだったのか、挨拶そっちのけで喧嘩が始まり、カズタカさんが引き気味である。
「すみません、カズタカさん。みんな飲むのが大好きで。悪気はないんだ」
「……そうだな。貴族の集会はもっとおとなしい感じだから、少し驚いた。コトリはいつもこんなふうに暮らしているのか」
「お兄さんだから心配ですよね」
「心配ではない。あの子はよく物を壊すから、よそ様に迷惑をかけていないか気掛かりなだけだ。そこかしこで破壊魔として名を馳せていては、シノミヤ家の恥ではないか」
指摘したらカズタカさんはそっけなく否定して、酒をあおった。
うん。本人が言うのだから、そういうことにしておこう。
カズタカさんの視線は、女性陣の輪に混じって料理を食べるコトリさんに向いている。
「そういえば、宿で出た夕食に日本料理があった。チャワンムシだったか。あれを提案したのはキムラ殿だと聞いた」
「あ、話をそらした」
「何か?」
オッドアイに睨まれて、一歩下がる。兄としてのプライドなのかなんなのか、心配しているとは思われたくないのかもしれない。
「ちょっと前に家で作ったんだけど、ナルシェがサイハテ村だからこその料理を提供したいって言うからオレが覚えているレシピを教えたんです。母親がよく作ってくれていたんで、オレも作れるものだし」
「この世界で、先祖の故国の料理を食べることができるとは思わなかったよ。ありがとう。なかなかに美味だった」
「気に入ってもらえたなら、オレもレシピを覚えていた甲斐があります」
「他に何か作れる日本料理はあるかい。ご先祖様の手記にはいつかまた故国の料理を食べたいとあったから、どんなものか気になっていたのだよ。差し支えなければ紙に記して欲しい」
「構いませんよ。えーと、カズタカさんが滞在するのは三日間でしたっけ」
「ああ」
「じゃあ今のうちに準備しちゃいますね」
善は急げ、宴会から離脱する。
オレが抜けた穴に飛び込んでくるビリーをはじめとする酔っぱらいたち。
今回の絡み酒ビリーの犠牲者はカズタカさんですか、ご愁傷様です。
心の中で手を合わせて帰宅する。
「ただいま、ミミ~。今帰ったよ」
「キムランおかえり。はやかったな」
仁王立ちで待ち構えていたミミ。今日はゲロかけられてないから、すぐに家に入れてもらえた。
ミミが淹れてくれた野草のお茶を飲みつつ、紙とペンを出す。
「なにするんだ、キムラン」
「カズタカさんが、和食……オレの故国の料理を食べたいって言うから、覚えているもののレシピを書こうと思って」
「ふむ」
チャワンムシと、うむむ。この世界にある食材で代用して日本食っぽく作れそうなもの。
冷蔵魔法庫を開け、コケトリスの肉を発見する。
棚には中麦粉、隣町で仕入れたソースが使えそうだ。
「うん。からあげ作ろっか」
「からあげ?」
「似たような料理がこの世界にもありそうだけどね。ミミ、手伝ってくれる?」
「うむ」
コケトリスの肉の余分な油を削ぎ落とし、一口サイズに切ってボウルに入れる。ミミがそこにソースを入れてくれる。小指にちょっとつけて味見して見たけど、焼き肉のタレっぽい。これで肉を漬け込む。
20分くらい経ったらマルイモを挽いた粉をまぶす。たぶんこれ、片栗粉ぽい使い方ができる……気がする。
「はい、ここで鍋で油を温めます。あったまったらコケトリスの肉を入れます」
「いれまする」
ドッボーーーーン!
ミミが勢いよく肉を投げ込んで油が跳ねた。
「あつい」
「そうだよね、あついよねー。危ないからゆっくり落として」
「わかった」
今度はそっと入れる。
ジュワジュワ小さな音を立てて肉の色が変わっていく。
数分してからひっくり返し、乾いた音になったところで皿に上げる。一番大きいのを包丁で切ってみて中まで火が通っているのを確認。
「からあげできたぞー!」
「おー!」
熱々のうちに葉野菜でくるんでいただきます!
噛んだ瞬間口の中に広がる肉汁。
「あつ! うま!」
「はふはふはふ! ふまひ!」
「そっかそっか、美味しいか」
夜食でからあげ、太るなんて気にしちゃいけない。美味いは正義だ。
「ミミ、せっかくだからこれ明日カズタカさんとこに持ってってみるか」
「これはわたしのぶん」
「うん。明日また作って持っていくから、これはミミが食べていいよ」
「やった」
言うが早いか、緑の葉っぱでくるくるして、大口開けてかぶりつく。
よほど気に入ったようで、翌日の昼に作ったらミミが半分食べてしまった。
多めに作っておいてよかった。
カズタカさんが魔法具を提供してくれたおかげで無限ジョウロを製造販売できるのだ。感謝してもし足りないから最大限の歓迎会を。……と言うのは建前で、実のところ男衆は騒いで飲み食いしたいだけである。
集会場の大テーブルに所狭しと御馳走が並べられ、村長が咳払いひとつして口上を述べる。
「ようこそぉー、おこしくらはいまひたあ~」
「おい誰か村長を帰らせろ。泥酔してんじゃねえか! ビリー!」
「やだよ俺まだつまみ食ってない」
「お前はオリビアさんの宿でお世話されていてずるいから、村長の後始末くらいしとけ!」
「親父が酔ってんのは俺のせいじゃねーーー! あとオリビアさんにお世話されたきゃお前らも泊まればいいだろうが!」
歓迎会とはなんだったのか、挨拶そっちのけで喧嘩が始まり、カズタカさんが引き気味である。
「すみません、カズタカさん。みんな飲むのが大好きで。悪気はないんだ」
「……そうだな。貴族の集会はもっとおとなしい感じだから、少し驚いた。コトリはいつもこんなふうに暮らしているのか」
「お兄さんだから心配ですよね」
「心配ではない。あの子はよく物を壊すから、よそ様に迷惑をかけていないか気掛かりなだけだ。そこかしこで破壊魔として名を馳せていては、シノミヤ家の恥ではないか」
指摘したらカズタカさんはそっけなく否定して、酒をあおった。
うん。本人が言うのだから、そういうことにしておこう。
カズタカさんの視線は、女性陣の輪に混じって料理を食べるコトリさんに向いている。
「そういえば、宿で出た夕食に日本料理があった。チャワンムシだったか。あれを提案したのはキムラ殿だと聞いた」
「あ、話をそらした」
「何か?」
オッドアイに睨まれて、一歩下がる。兄としてのプライドなのかなんなのか、心配しているとは思われたくないのかもしれない。
「ちょっと前に家で作ったんだけど、ナルシェがサイハテ村だからこその料理を提供したいって言うからオレが覚えているレシピを教えたんです。母親がよく作ってくれていたんで、オレも作れるものだし」
「この世界で、先祖の故国の料理を食べることができるとは思わなかったよ。ありがとう。なかなかに美味だった」
「気に入ってもらえたなら、オレもレシピを覚えていた甲斐があります」
「他に何か作れる日本料理はあるかい。ご先祖様の手記にはいつかまた故国の料理を食べたいとあったから、どんなものか気になっていたのだよ。差し支えなければ紙に記して欲しい」
「構いませんよ。えーと、カズタカさんが滞在するのは三日間でしたっけ」
「ああ」
「じゃあ今のうちに準備しちゃいますね」
善は急げ、宴会から離脱する。
オレが抜けた穴に飛び込んでくるビリーをはじめとする酔っぱらいたち。
今回の絡み酒ビリーの犠牲者はカズタカさんですか、ご愁傷様です。
心の中で手を合わせて帰宅する。
「ただいま、ミミ~。今帰ったよ」
「キムランおかえり。はやかったな」
仁王立ちで待ち構えていたミミ。今日はゲロかけられてないから、すぐに家に入れてもらえた。
ミミが淹れてくれた野草のお茶を飲みつつ、紙とペンを出す。
「なにするんだ、キムラン」
「カズタカさんが、和食……オレの故国の料理を食べたいって言うから、覚えているもののレシピを書こうと思って」
「ふむ」
チャワンムシと、うむむ。この世界にある食材で代用して日本食っぽく作れそうなもの。
冷蔵魔法庫を開け、コケトリスの肉を発見する。
棚には中麦粉、隣町で仕入れたソースが使えそうだ。
「うん。からあげ作ろっか」
「からあげ?」
「似たような料理がこの世界にもありそうだけどね。ミミ、手伝ってくれる?」
「うむ」
コケトリスの肉の余分な油を削ぎ落とし、一口サイズに切ってボウルに入れる。ミミがそこにソースを入れてくれる。小指にちょっとつけて味見して見たけど、焼き肉のタレっぽい。これで肉を漬け込む。
20分くらい経ったらマルイモを挽いた粉をまぶす。たぶんこれ、片栗粉ぽい使い方ができる……気がする。
「はい、ここで鍋で油を温めます。あったまったらコケトリスの肉を入れます」
「いれまする」
ドッボーーーーン!
ミミが勢いよく肉を投げ込んで油が跳ねた。
「あつい」
「そうだよね、あついよねー。危ないからゆっくり落として」
「わかった」
今度はそっと入れる。
ジュワジュワ小さな音を立てて肉の色が変わっていく。
数分してからひっくり返し、乾いた音になったところで皿に上げる。一番大きいのを包丁で切ってみて中まで火が通っているのを確認。
「からあげできたぞー!」
「おー!」
熱々のうちに葉野菜でくるんでいただきます!
噛んだ瞬間口の中に広がる肉汁。
「あつ! うま!」
「はふはふはふ! ふまひ!」
「そっかそっか、美味しいか」
夜食でからあげ、太るなんて気にしちゃいけない。美味いは正義だ。
「ミミ、せっかくだからこれ明日カズタカさんとこに持ってってみるか」
「これはわたしのぶん」
「うん。明日また作って持っていくから、これはミミが食べていいよ」
「やった」
言うが早いか、緑の葉っぱでくるくるして、大口開けてかぶりつく。
よほど気に入ったようで、翌日の昼に作ったらミミが半分食べてしまった。
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