52 / 66
52 村で最初の宿とお客様。キムランはもの思う。
しおりを挟む
秋になり、サイハテ村初の宿が完成した。
完成したら最初に泊まってもらうと決めていた、大工の皆さん、アントニウスさん、そしてカズタカさん。
「ほう。ここがサイハテか。話に聞いていたとおり、ひなびているな」
羊車の客車から降りてそうそうに、カズタカさんは言った。
大都市ノーシスに比べたら、ここは確かになんにもないど田舎だもんね。
歯に衣着せない正直な感想に、村長のこめかみがピクリとした。
「ふふん。サイハテはこれからどんどん発展していくからな。次に来たときにゃそんな事言えないくらい賑やかなところになっている」
「魔法具を出資した身として、そうなってもらわなければ困る」
「まーまー、村長もカズタカさんもそんな怖い顔しないで。笑顔笑顔! オレの故郷では、『笑う門には福来たる』って言うんだ。笑顔が大事だよー」
せっかくの完成祝いでピリピリバチバチは勘弁してくれ。オレはユーチューバーやっていて鍛えたスマイルで二人の肩を叩く。
客車からもう一人降りてきて、オレに同意してくれる。
「そうだよ~。笑顔はダイジ。私も宿の主やっていていつも思うよ。怖い顔をしていたらお客様は安心して休めない」
「おう、すまねぇなアントニウス。つい熱くなっちまった」
頭をかいて、村長は謝る。村長の奥さんもそっとフォローに入る。
「うちの人は言い方がきついところがあって。ごめんなさいね、お気を悪くされたでしょう」
「お、おいネリス。そりゃねえだろう」
奥さんに頭が上がらないんだなぁ。オレは口に手を当てて笑いを隠す。
「そんなことはいい。早く案内してくれないか。こちらは長旅で疲れているんだ」
「それならオレにお任せを。こちらです」
お客様二人の先導をして、オレは村の奥に作られた宿へ向かった。
宿の前ではオリビアさんとナルシェが待っていた。
「いらっしゃいませ、カズタカ様、アントニウス様。わたしは宿の主を務めることになりました、オリビアと申します。どうぞゆっくりしていってくださいね」
「僕は料理番を任されています。どうぞよろしくお願いします」
挨拶を交わしたら、次は宿内の案内だ。
客室と食堂、テルマエの場所を伝え、休んでもらう。
カズタカさんとアントニウスさんがそれぞれ用意された客室に入り、大工のみんなも宿にやってきた。
「同じ村の中でも家とは違うところに泊まると、小旅行みたいで楽しいもんだな」と言葉をかわしあう。
「食事はこれから作りますので、先にテルマエを楽しんでください」
「おお! テルマエの足場を作るのは儂がやったんだ。一番乗りできるのが楽しみだ」
ビリーの師匠である大工トカクさんがアゴ髭をなでなで満足そうに笑う。ビリーなんて、「自分の作った家でオリビアさんにお世話されるなんて俺、超幸せ! 幸せすぎて死ぬ!」と小躍りしている。
みんなを案内したし、これでオレの役目は終了。
案内しかしていないのにどっと疲れた。
オリビアさんとナルシェのほうがよっぽどやることが多いし緊張するんだろうけれど、『村を発展させるために宿を作ろう!』と発案した人間として心配だ。
テルマエ付きの宿は気に入ってもらえるだろうか。
明日感想を聞くのが楽しみなような怖いような。そわそわしながら家に帰った。
「ただいま~、ミミ」
「キムランおつかれ」
帰ると同時に、テーブルの上にドンと用意されるスープボウル。
湯気の立つオレンジ色のスープの中に、たくさん具が見え隠れ。
バターをたっぷり塗ったトーストも添えられている。
「すっげーいいニオイ! これなんて料理? 何が入っているんだ?」
「ふぃすくすっぱという。キバさかなと、ボールネギ、ニンジャ、イモ」
ようは魚と野菜のスープなのね。
1センチ角に細かくなった野菜の上には細いハーブが散りばめられている。
席についたらお祈りして実食!
スプーンですくい上げるとそれだけでハーブとバターの香りが鼻に通る。
「うま!! 魚の臭みを打ち消すこのハーブはなんだ。なんと美味いのだ。ラベンダー、いや、ローズマリー? ハーブのおかげで魚の香りが臭みではなく芳香に昇華されている。そしてこの柔らかな口当たり」
「キムラン、うるさい」
「ごめんなさい」
美味さのあまりに料理評論系ユーチューバーみたいなことを口走ってしまった。うるさくしないと決めていたのになぁ。ミミのメシが美味すぎるのがいけないんだ、きっとそうだ。
いい焼き加減のパンも2枚おかわりして満腹だ。
食後、食器を洗っているとナルシェがやってきた。
「キムランさん、ミミちゃんも。よかったらテルマエを使ってよ。お客様はもうみんな上がって食事をしているところだから」
「え、いいの!?」
「はい。キムランさんやミミちゃんにたくさん手伝ってもらったから、そのお礼です」
「やったーー! サンキュー、ナルシェ!」
「キムランうるさい」
村でテルマエに入れる日が来るなんて、テンション爆上がりだぜ。タオルを抱えて、いざテルマエ!
心ゆくまでテルマエを堪能して、両手足を伸ばして温まる。宿を作りたいって提案して良かったと心底思う。
こんなふうに、村に少しずつ楽しみが増えたらきっと賑やかなところになる。
そのうち服屋や雑貨屋ができて、ユーイさんが楽しみにしている本屋もできていくんだろう。
一度くらい日本に帰りたいって思ってもいいだろうに、オレは村のみんなと暮らす日々がとっても楽しい。帰る方法でなく、村をもっと賑やかにする方法を考えている。
日本にいる父さん母さん、薄情な息子でごめんよ。
アントニウスさんやファクターみたいに、この世界に居場所を見つけてしまったから、まだ当分帰れないや。
完成したら最初に泊まってもらうと決めていた、大工の皆さん、アントニウスさん、そしてカズタカさん。
「ほう。ここがサイハテか。話に聞いていたとおり、ひなびているな」
羊車の客車から降りてそうそうに、カズタカさんは言った。
大都市ノーシスに比べたら、ここは確かになんにもないど田舎だもんね。
歯に衣着せない正直な感想に、村長のこめかみがピクリとした。
「ふふん。サイハテはこれからどんどん発展していくからな。次に来たときにゃそんな事言えないくらい賑やかなところになっている」
「魔法具を出資した身として、そうなってもらわなければ困る」
「まーまー、村長もカズタカさんもそんな怖い顔しないで。笑顔笑顔! オレの故郷では、『笑う門には福来たる』って言うんだ。笑顔が大事だよー」
せっかくの完成祝いでピリピリバチバチは勘弁してくれ。オレはユーチューバーやっていて鍛えたスマイルで二人の肩を叩く。
客車からもう一人降りてきて、オレに同意してくれる。
「そうだよ~。笑顔はダイジ。私も宿の主やっていていつも思うよ。怖い顔をしていたらお客様は安心して休めない」
「おう、すまねぇなアントニウス。つい熱くなっちまった」
頭をかいて、村長は謝る。村長の奥さんもそっとフォローに入る。
「うちの人は言い方がきついところがあって。ごめんなさいね、お気を悪くされたでしょう」
「お、おいネリス。そりゃねえだろう」
奥さんに頭が上がらないんだなぁ。オレは口に手を当てて笑いを隠す。
「そんなことはいい。早く案内してくれないか。こちらは長旅で疲れているんだ」
「それならオレにお任せを。こちらです」
お客様二人の先導をして、オレは村の奥に作られた宿へ向かった。
宿の前ではオリビアさんとナルシェが待っていた。
「いらっしゃいませ、カズタカ様、アントニウス様。わたしは宿の主を務めることになりました、オリビアと申します。どうぞゆっくりしていってくださいね」
「僕は料理番を任されています。どうぞよろしくお願いします」
挨拶を交わしたら、次は宿内の案内だ。
客室と食堂、テルマエの場所を伝え、休んでもらう。
カズタカさんとアントニウスさんがそれぞれ用意された客室に入り、大工のみんなも宿にやってきた。
「同じ村の中でも家とは違うところに泊まると、小旅行みたいで楽しいもんだな」と言葉をかわしあう。
「食事はこれから作りますので、先にテルマエを楽しんでください」
「おお! テルマエの足場を作るのは儂がやったんだ。一番乗りできるのが楽しみだ」
ビリーの師匠である大工トカクさんがアゴ髭をなでなで満足そうに笑う。ビリーなんて、「自分の作った家でオリビアさんにお世話されるなんて俺、超幸せ! 幸せすぎて死ぬ!」と小躍りしている。
みんなを案内したし、これでオレの役目は終了。
案内しかしていないのにどっと疲れた。
オリビアさんとナルシェのほうがよっぽどやることが多いし緊張するんだろうけれど、『村を発展させるために宿を作ろう!』と発案した人間として心配だ。
テルマエ付きの宿は気に入ってもらえるだろうか。
明日感想を聞くのが楽しみなような怖いような。そわそわしながら家に帰った。
「ただいま~、ミミ」
「キムランおつかれ」
帰ると同時に、テーブルの上にドンと用意されるスープボウル。
湯気の立つオレンジ色のスープの中に、たくさん具が見え隠れ。
バターをたっぷり塗ったトーストも添えられている。
「すっげーいいニオイ! これなんて料理? 何が入っているんだ?」
「ふぃすくすっぱという。キバさかなと、ボールネギ、ニンジャ、イモ」
ようは魚と野菜のスープなのね。
1センチ角に細かくなった野菜の上には細いハーブが散りばめられている。
席についたらお祈りして実食!
スプーンですくい上げるとそれだけでハーブとバターの香りが鼻に通る。
「うま!! 魚の臭みを打ち消すこのハーブはなんだ。なんと美味いのだ。ラベンダー、いや、ローズマリー? ハーブのおかげで魚の香りが臭みではなく芳香に昇華されている。そしてこの柔らかな口当たり」
「キムラン、うるさい」
「ごめんなさい」
美味さのあまりに料理評論系ユーチューバーみたいなことを口走ってしまった。うるさくしないと決めていたのになぁ。ミミのメシが美味すぎるのがいけないんだ、きっとそうだ。
いい焼き加減のパンも2枚おかわりして満腹だ。
食後、食器を洗っているとナルシェがやってきた。
「キムランさん、ミミちゃんも。よかったらテルマエを使ってよ。お客様はもうみんな上がって食事をしているところだから」
「え、いいの!?」
「はい。キムランさんやミミちゃんにたくさん手伝ってもらったから、そのお礼です」
「やったーー! サンキュー、ナルシェ!」
「キムランうるさい」
村でテルマエに入れる日が来るなんて、テンション爆上がりだぜ。タオルを抱えて、いざテルマエ!
心ゆくまでテルマエを堪能して、両手足を伸ばして温まる。宿を作りたいって提案して良かったと心底思う。
こんなふうに、村に少しずつ楽しみが増えたらきっと賑やかなところになる。
そのうち服屋や雑貨屋ができて、ユーイさんが楽しみにしている本屋もできていくんだろう。
一度くらい日本に帰りたいって思ってもいいだろうに、オレは村のみんなと暮らす日々がとっても楽しい。帰る方法でなく、村をもっと賑やかにする方法を考えている。
日本にいる父さん母さん、薄情な息子でごめんよ。
アントニウスさんやファクターみたいに、この世界に居場所を見つけてしまったから、まだ当分帰れないや。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
主人公を助ける実力者を目指して、
漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる