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44 異世界でも猫は最強でした。

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 長閑な道を歩いていると、道沿いの草むらが大きく揺れた。ナオー、ナオーというなんだか聞き覚えがあるような鳴き声のあと、茶色い毛玉が飛び出してきた。

 コトリさんが顔色をかえ、オレたちを背に庇った。

「マズい、ツチネコだ! みんな下がれ、ここは私がやる!!」
「え、なになになに!?」



〈ナオーーん!!〉

 ………………猫だ。
 天に伸びる2つのトンガリ耳に、海老反りした背中。全身を土色の毛に覆われている。尻尾がないけれど、日本でもよく見る猫に酷似している。
 猫っぽいけど、サイズが馬かと思うほどデカい。
 大人のオレがまたがっても問題なさそうな大きさ。

 ツチネコは行く手をふさぎ、心地よさげに土の上にねころがってへそ天している。

〈みゃ~ん、みゃー?〉
「きゃ~ん! こんなにきゃわゆい生き物を斬れるわけがないじゃないか。なんてきゃわゆいんだ! ……くっ、殺せ。こんなきゃわゆい生き物を殺すくらいならやられたほうがましだ!」
「そんな、コトリが戦闘不能に。あたしもあんな可愛いの斬るなんて絶対むり! キムラン、出番よ! あんたこういうの平気っぽそうな顔してるし!」

 コトリさん、猫を前にクッコロ戦士となる。
 恋する乙女のように顔を赤らめ、両手で頬を覆っている。
 コトリさんに続いてユーイさんも負けた。

 屈強な戦士でも勝てないってそういうことか。
 アントニウスさんが言っていた「凶悪なモンスターとセットで出没することが多いから厄介なんだよ~」って本当に厄介だった。

「ごめ~ん。オレ真面目な日本人だから、動物愛護法違反で警察のお世話になるのは避けたいっていうか、無理ゲー?」

 異世界だから日本の警察いないけどさ。
 真っ裸で倒れていたり幼女に養われたりしているている時点で「おまわりさんこの人です!」って言われそうなのはツッコまないでほしい。

「ぼ、ぼくも戦いたくないです。ああ、ツチネコかわいいなぁ、すごくかわいい。撫でたらかまれるかな? 背中に乗ってみたいなぁ」

 ナルシェも秒で陥落した。

「キムラン、あれはたべられないのか」

 大人とナルシェがおちる中、ミミだけは通常運転だった。
 ミミ、恐ろしい子。
 いや、この世界の人みんなモンスターを食料とみなしているから、そう考えるのは自然なのか。

「みんなの様子を見ると、食べ物じゃないよ」
「そうか。なら、ここほれキムラン」
「ワオン! なんかオレ、正直じいさん……いや、ポチの気分になってきた」
「ポチってだれだ」

 なぜに掘るのか疑問に思いながらも、他にできることもない。みんながこんなだと前に進めないし。
 ミミに言われるまま、荷物の中にあるスコップ(焚き火消し用)で足元の土を掘り返す。
 掘り返すそばからミミが泥だんごを生成していく。ツルツル丸くてピッカピカ。
 人間の食べ物でなくてもミミかあさんの料理能力はピカイチのようです。

 その泥だんごをツチネコの前に並べていく。

「くえ。たんとくえ」
〈ナオーー〉

 ミミの言葉を理解したのかしていないのか、ツチネコは前足をきれいに揃えて泥だんごを食べはじめる。
 あ、ツチネコは名前の通り土を食べるんでしたね。忘れてた。

「のこさずたべた。いいこいいこしてやろう」
〈にゃーん〉

 ミミに撫で回され、ツチネコは従順になる。

「おすわり」
〈みゃ〉
「ふせ」
〈みゃ〉

 犬のように芸までこなす猫。
 どうやらうちのミミかあさんがツチネコを仲間にしたようです。
 ドラク○で言うところの魔物使いの才能でもあったのか、それとも単に餌付けに弱かったのか。
 ミミは満足げに腕組みしてこちらに振り返る。

「うむ。きょうからネコはポチだ。よかったな、キムラン。おとうとができたぞ。きょうからおにいちゃんだ」
「わーい、ウレシイナー。オレ、猫の兄弟ができたの初めてだよ……うう」



 日本のお父さんお母さん、お元気ですか。
 あなたたちの息子は、異世界で猫の弟(名前はポチ)ができました。
 
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