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43 アントニウスさんが振る舞うローマの料理、イェンタークルム

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 朝風呂を終えて部屋に戻ると、アントニウスさんがオレたちを呼びに来た。

「朝食を用意している。ローマの料理、口に合うといいけど」
「え、ほんと!? やったー! オレ、ローマ料理食べるの初めてだ」

 思わずガッツポーズしちゃう。
 日本にいたとき、そういう異国情緒あふれるレストランに入ったことはなかった。食べ歩き系ユーチューバーではないから、あんまり変わり種系の店に入らなかった。
 まさか異世界でローマ料理を食べる日が来るとは、人生何が起こるかわからない。



 食堂に行くと、女性陣はもう席についていた。
 テーブルの中央には平たくて円形のパンがあり、ケーキを切るような感じで真ん中から放射線状に8等分にされている。
 小さなかごが人数分置かれていて、そこには見たことない果物が盛られている。

 待てをされたワンコよろしく、ミミがテーブルについてよだれを垂らしながらこちらを見た。

「キムラン、ナルシェきたか。おそかった。わたしのおなかはさっきからずっとないている」
「あはは。ごめんごめん。朝風呂楽しんでた」
「呑気ねぇ」
「気持ちはわかるぞ、キムラン殿」

 ミミの両隣でユーイさんが肩をすくめ、コトリさんがウンウンと頷いている。

「キムランが絶対入れってすすめるから昨夜入ってみたけど、テルマエってすごいのね~。汗がきれいに流れるし、血行が良くなって肌がスベスベよ。ほら」

 自慢気に手の平と甲を見せてくるユーイさん。たしかに三人とも、いつもより血色がいい。

「テルマエの良さを分かってくれて嬉しいね。村に帰ったら宣伝しておくれよ。もっとたくさんの人に拡めたいんだ」
「もちろんだよ! オレ絶対みんなに自慢するもん。トマリエにしかないテルマエ最高! ってさ」

 とくにビリーあたり、オリビアさんを誘って来ればいいと思う。

「ローマ料理もここだけだからね。食べてみて」
「おう! アマツカミの恵みに感謝します!」

 手にとって見ると、パンは表面が白っぽくツヤツヤと照りがある。オリーブオイルに似た青い香りが鼻に届く。

「この匂いはカドの実オイル……。しかも搾りたてですね」
「塩を降ったり、カドの実の果肉部分食べると美味しいよ」
「ふむふむ。ムグ。………………うま!!」

 村では甘い系のパンがメインだったが、これは塩味が最大限活かされたパンだ。
 ナンの仲間かな。薄切りのカドの実を巻いて口に運ぶと、甘みと塩味と仄かな酸味が混じり合う。
 カドの実の果肉ってなんかアボカドに似ていて、スプーンですくい取るとバターみたいに滑らかだ。
 飲み込むときにオイルの香りが鼻を抜けていく。

「アントニウスさん、これ、このパンめっちゃうまいです! さいっこう!」
「この平たいパン、ぼくも作ってみたいです。差し支えなければレシピを聞いてもいいですか?」
「わたしも。つくりたい」

 パンひとつでこんなに盛り上がれるオレたち、とことん食うの好きだよね。コトリさんのこと食欲魔人とか言えない。
 アントニウスさんも嬉しそうだ絵顔で作り方を説明してくれる。

「これはイェンタークルムというね。中麦粉を……」


 こうしてテルマエを堪能し、ローマ料理をたくさん食べ、再び旅路についた。

「ここより北はツチネコが出るから気をつけて」

 と、アントニウスさんが別れ際に忠告をしてくれた。
 ツチネコってなんか響きがツチノコっぽい。小学生の時、未確認生命体UMAのガイドブックで読んだぜ。捕まえたら懸賞金もらえないかな。

 歩きながら、多分このメンバーの中で一番モンスターに詳しいコトリさんに聞く。

「コトリさん。アントニウスさんが言っていたツチネコってなに?」

 剣の柄を強く握り、コトリさんは深刻そうな顔をして言う。

「……ツチネコはとても恐ろしいやつだ。名前の通り土を喰らう。どんな屈強な戦士も出会った途端、戦意を失う。キムラン殿も、ツチネコを見たら気をつけろ」
「ェェエエ工。オレ、化けキノコを倒すのも一苦労なのに。あれより強いなんて勝てる気しない」

 レクサスを一撃必殺するコトリさんにそう言われるなんて、どんなオソロシイ子なの、ツチネコ。
 出会いたくないやつに限って遭遇する法則は地球も異世界も同じようだ。

 トマリエを出発して2時間あまりで、オレたちはそのツチネコとエンカウントしてしまった。
 
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