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21 オリビア、ナルシェのためのピッティパンナ

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「お願いだから姉さんは料理しないで。料理は僕がするから!」

 これがうちのナルシェくんの口グセ。お姉ちゃんは悲しいです。
 なんてひどい言われようかしら。
 ビリーさんたちは美味しいって言ってくれるのに。

 今日はナルシェくんや村の男の人たちがオーパーツを集めに行く日。疲れて帰って来るだろうから、栄養たっぷりで美味しいものを作ってあげたいな。

 綿の糸を紡ぎながら、同じく糸紡ぎの作業に熱中しているユーイに相談する。ユーイはわたしと年が近いし、一番相談しやすい。

「ねぇ。ユーイ。ナルシェくんはお夕飯に何を作ったら喜んでくれるかな」
「何もしないのが一番のプレゼントよ」

 ユーイは淡々と言う。

「ええ~……」
「ユーイの言うとおりだよ、オリビア。アンタ糸紡ぎの腕はいいんだから、料理はナルシェに任せとけばいいのさ」

 村長の奥さまであるネリスさんにまで言われてしまう。みんなもウンウンとうなずく。ドロシーおばあちゃんだけは、そんなことないよと首を横に振った。

「勉強ができない子たちだって、ゆっくり時間をかけて教えればわかるようになるんだよ。オリビアががんばれば、食べられるものを作れるようになるかもしれないじゃないか」
「ありがとう、ドロシーさん。わたし、ナルシェくんのためにお夕飯作ります!」
「オリビア、よく考えて。ぜんっぜん褒められてないよ。むしろ料理下手くそって言われてるよ」

 とにかくやればできるってことよね。わたし、がんばる!

「あー、この子は聞いてないね。昔から都合のいいことしか耳に入らないんだから、もう。ユーイ、一緒に帰って手伝っておやり。下手なもん食わされたらナルシェが気の毒だからね」
「そうね。……オリビア、あたしも一緒に夕飯を作るわ。ナルシェくんの為を思うなら、一人で作っちゃダメ」

 ドロシーさんに言われて、ユーイがわたしに念押す。ほんとうは一人でもできるってところをナルシェくんに見せたいけれど、ユーイはこうと決めたら譲らない。お夕飯はユーイと一緒に作ることになった。



 そして仕事あがり、ユーイと一緒に我が家のキッチンに立つ。ユーイは横目でわたしを見て頭をかく。

「もー、オリビアったら。あれだけお夕飯お夕飯言っていたくせに、何作るかすら決めてなかったの?」
「え、えへへ。何か作りたいな~、とは思っていたのよ?」
「まあいいわ。今ある食材から作れるものを考えましょう」
「えーとね、コケトリスのたまごと野菜たくさん、あとレクサスの燻製があるわ」

 魔法冷蔵庫と食材棚を確認して、ユーイに伝える。

「ならピッティパンナがいいね。オリビア、一つずつ手順を書いて、作り方を覚えておきなさいな。やり方さえ間違えなければ貴女でも作れるから。いい加減、炭生成女王のあだ名は返上したいでしょ」
「す、炭生成女王じゃないもん!」
「貴女がそうやって自覚ないから、ナルシェくんが苦労するのよ」

 ため息まじりにユーイが言う。
 棚からボールネギと丸イモ、ニンジャを取り出して、私の前に置く。

「これを細かく切って。小指の先くらいの大きさになるようにね」
「わかったわ」

 いつもナルシェくんからダメって言われてるけど、わたしだって美味しいものを作れるんだから。
 まずは丸イモに包丁を突き立て……。

「ちょ、オリビア駄目!!」
「え?」
「まずは洗って皮むきなさい。泥と皮付きのまんま切ってどうするつもり!」

 怒られちゃった。
 気を取り直して、井戸水を汲んできて丸イモとニンジャ、ボールネギを洗う。
 皮をむいていたら、丸イモが半分以下のサイズになっちゃった。あんなにあったのにな。

「……はぁー、一緒に来てよかったわ。危うくナルシェくんが泥まみれの料理を食べることになるところだった」

 ユーイはユーイで、レクサスの燻製を一口よりも小さいサイズに切り分けていく。

 火魔法コンロで鍋を温めたら、鍋に海ひつじのミルクを固めたものを溶かして、そこに切った野菜とレクサスの燻製を投入する。

「いい、オリビア。絶対鍋から目を話すんじゃないわよ。焦げないように少しずつヘラで混ぜて。ボールネギが透明になって、お肉が茶色くなったらすぐにコンロからおろして」
「う、うん」

 炒めている間ずっと横でユーイが睨んでくる。怖いよ。

「ど、どうかなユーイ。もういいと思うんだけど」
「まだ火が通っていないから駄目」
「ええ~?」 
「ええ~、じゃない! 半端なことしたらお腹壊すんだからね! まともに火を通せたかと思ったら黒焦げにするし。ちょうどいい具合ってのを覚えなさい」

 ユーイの目が怖いよ。教わる立場のわたしはうなずくしかない。そのあとじっくり弱火で炒めて、ようやくお許しをもらえた。塩を振って、お皿に盛り付ける。

「これで完成!」
「じゃないわよ。次、これ焼くわよ」

 ユーイがフライパンとたまごを出す。お野菜とレクサスの燻製を炒めただけで終わりじゃなかった。

「油をしいて、焼くの。さすがにたまごを割るくらいはできるよね?」
「え、ええと………えへへ」

 割ろうとすると、いつも殻がたくさん入っちゃうのよね。ユーイの視線が冷たいよう。

「あたしがやるから見てて」

 ユーイは華麗な手際でたまごをフライパンに割り入れた。そして白くてフツフツと美味しそうに焼きあがる。黄身はまだ少しトロトロ。
 それをさっき盛り付けた炒めものに滑り落とす。
 最後にスパイスとお塩を振る。

「これで出来上がり。ちゃんと覚えなさいね」
「うん。ありがとう、ユーイ!」

 見るからに美味しそうなお料理。これならナルシェくんも喜んでくれるよね。
 嬉しくて、ユーイの手を取って振り回していたら、ナルシェくんが帰ってきた。

「ただいま、姉さんって、あれ、ユーイさん。いらしてたんですね。こんばんは」

 礼儀正しく挨拶するナルシェくんに、ユーイは今日一番の笑顔を見せる。

「おかえり、ナルシェ。ほら見て。オリビアが貴方のためにがんばったのよ。味はあたしが保証するわ」
「え、えええ!? これ姉さんが!? 僕、立ったまま夢でも見ているのかな」

 むむむ、ひどい言われよう。

「ふーんだ。そんなこと言うならナルシェくんは食べなくていいわ。ミミちゃんとキムランさんにあげるから」
「……本当に姉さんが?」

 怪しむナルシェくんに、ユーイが深くうなずいてみせる。

「あたしも少し手伝ったけどね。食べてみなさいな。びっくりするわよ」

 ようやくわかってくれた。ナルシェくんはテーブルについて、お祈りをする。それから自分の小皿に料理を取り分ける。
 美味しいって言ってくれるかな。
 ナルシェくんの動き一つ一つから目が離せない。

 スプーンですくい取って、たまごの黄身を潰して野菜とからめて口に運ぶ。じっくり味わって目を見開いた。

「おいしい! すごいや。姉さんがこんなに美味しいものを作れるなんて」
「そ、そうかな。よかった……」

 生まれてきて今日までの中で一番緊張したかもしれない。ナルシェくんがニコニコしながら食べてくれることが、こんなにも嬉しいのね。

「なーるほど、そういうことね。料理だけでなくそっちも頑張りなさいな、オリビア」

 ユーイがポンとわたしの背中を叩いて、意味のわからない言葉を残して帰っていった。
 



 翌朝、お豆やお魚を増やしたらもっと美味しくなるかなと思って入れてみたら真っ黒くなっちゃって。
 ナルシェくんからはまたしばらく料理禁止令を出されちゃった。

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