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7 晩ごはんは、やさいまきまきを作ろう!
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日が傾く少し前、ミミに連れられて村人たちへのあいさつまわりに出た。
「おやおや、ミミちゃん。その人が親戚のキムランさんかい。村長から話は聞いとるよ。よろしくねぇキムランさん」
「どうも、キムランです。よろしくお願いします」
「これ持っていっとくれ。村に引っ越してきた祝いだよ」
「わー、いいんですか。ご馳走になります!」
こんな感じで、会う人会う人みんなオレの名前を知っている。村長《ゴルドさん》有能すぎじゃないか。
ちょっとあいさつ回りしただけなのに、大量に食材を抱えて帰ってくることになったぞ。
見たこともない食材の数々をテーブルに乗せる。
かぼちゃに似て非なる、硬い皮の紫色の野菜。ニオイは甘い。
球体の葉野菜。
500MLペットボトルサイズのビンに入っている黄色い液体。ミミ曰く、海ヒツジのミルク。
レクサスとかいう生き物のくん製肉。
他たくさんの根菜。
ミミが食材の山を前に、フンスと鼻息あらく腕を組む。
「ゆうはんはごーせーだ」
「ははは、そうだな。ごーせーだな」
見たことないものばかりで、調理方法が一切わからんけどな。どんな味がするのか、好奇心がビシビシ刺激される。
ああ、カメラがあったらこの光景を動画を撮りたい。
題して【実食! 異世界食材珍味の数々!】
一人ワクワクしているオレをよそに、ミミがヤシの実の殻を半分に割ったような器を2つと、紙袋を棚から取り出す。
「夕飯は何つくるんだ?」
「やさい、まきまき」
「野菜まきまき……なんだ、それ?」
「できたら、わかる。てをあらってから、てつだえ」
「おう」
オレにヤシの殻を一つ渡してきた。紙袋を逆さにすると、ぶわっと白い粉末が舞う。
「ここに、みずいれる。こねる。ほっぺのかたさになるまで」
「おっけー。捏《こ》ねるのな」
こねこねこねこね。
粉と水を合わせていくと、ボロっとしてたのにだんだんとモチモチしてきた。ミミがこまめに横から水を注いでくる。
表面つるっともっちりしたかたまりができあがる。
「出来たぞ、ミミ」
「これを、のばして、やく。やさいとニクとまいてたべる」
「へぇ~! こっちで言うケバブかタコスみたいなもんかな」
「けばぶかたこす? ってなんだ」
ミミは手際よく生地をゴルフボール大に分割して、粉をはたいためん棒でのばした。
魔法コンロで熱しておいたライパンに油を引いて投げ込む。
「あ~と、タコスってのはコレ、まきまき? みたいな皮に細かい肉と葉野菜と酸っぱい野菜とピリ辛タレをかける食べ物。オレのいた世界の、暑い国の料理なんだよ」
「ほー。キムランのくには、ぴりからいの、かけるのか」
あ、ミミのみけんにシワが。もしや辛いのキライなのかな。
乾いた音がしてきたら、くるりと木のターナーでひっくり返す。こんがり焼けた皮。裏も焼けたら皿に乗せる。
皮を焼き終わったフライパンに、細切りした根菜を入れて炒める。しんなりしてきたら皿にあける。
くん製肉を包丁で薄くそいで、塩を振る。葉野菜と炒めた野菜をお好みの量、生地にオン。
「やさいまきまき、できた」
「出来たー! イエーイ! キムランチャンネルのみんなみてるー!? やさいまきまき、できたよー!」
「キムラン、うるさい」
「わー、ごめーん」
うっかりユーチューバーとしてのクセが出てしまったい。
ていうかオレ、ミミの尻に敷かれてる気がするんだけど気のせい?
アマツカミにお祈りして実食。
「やさいまきまきは、たいへん美味しゅうございます。火が通っていてもしゃきっとした野菜の歯ごたえがたまらん。そして肉。噛むごとに濃厚な肉汁が湧いてきてよだれがとまらない。なんだこれは。なんなのだ。美味すぎるっ!!」
「レクサスの、ニク。もりにいる、がおーってなく、すごくキバがおっきいモンスター。よく、くんせいでたべる」
「え……………え………??」
数日前オレを襲ってきたティラノ(仮)
あれが、レクサスというモンスターらしい。
あのバカでかいティラノ(仮)も仕留めて食うとか、異世界の食文化すげぇ。地球でいうなら一般市民が日常的にホオジロサメを仕留めて食ってるようなもんだぞ。
いろんなものに驚かされているうちに、村での初日は終わろうとしていた。
ミミのお父さんが使っていた部屋を、オレが使っていいと言われた。そこにある服も自由に着ていいって。
「いいのか? ミミのお父さんの大事なものだろう」
「つかわずすてる、とうさんよろこばない。だからキムラン、つかえ」
「んー、じゃあ、ありがたくもらうな」
日本にいたときのようなフカフカのベッドではない。木製のベッドに綿をつめた敷布団と掛け布団。簡素なものだ。
ミミのお父さんのものだから、大事に使おう。
この世界に来てはじめてのまともな寝床でまどろむ。
「キムランひとり、さびしかろう。いっしょにねてやる」
うとうとしてきたところで、まくらを抱えたミミが布団にもぐりこんできた。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。寂しいから」
「うむ」
実は自分でも驚くほど異世界に来たのを楽しんでしまっていて、今のところ寂しいとかホームシックなんかなっちゃいない。
でも、寂しかろう、なんて大人ぶるミミのほうがよほど寂しそうに見えて、「必要ない」なんて言えなかった。
何分もしないうちに、隣からは寝息が聞こえてくる。安らかな寝顔、目元には涙がひとすじこぼれる。
……そうだよな。ミミはまだ5才なのに天涯孤独になっちゃったんだもんな。さみしいよな。
オレにできることがあるなら、なにかしてやれたらいいな。
「おやおや、ミミちゃん。その人が親戚のキムランさんかい。村長から話は聞いとるよ。よろしくねぇキムランさん」
「どうも、キムランです。よろしくお願いします」
「これ持っていっとくれ。村に引っ越してきた祝いだよ」
「わー、いいんですか。ご馳走になります!」
こんな感じで、会う人会う人みんなオレの名前を知っている。村長《ゴルドさん》有能すぎじゃないか。
ちょっとあいさつ回りしただけなのに、大量に食材を抱えて帰ってくることになったぞ。
見たこともない食材の数々をテーブルに乗せる。
かぼちゃに似て非なる、硬い皮の紫色の野菜。ニオイは甘い。
球体の葉野菜。
500MLペットボトルサイズのビンに入っている黄色い液体。ミミ曰く、海ヒツジのミルク。
レクサスとかいう生き物のくん製肉。
他たくさんの根菜。
ミミが食材の山を前に、フンスと鼻息あらく腕を組む。
「ゆうはんはごーせーだ」
「ははは、そうだな。ごーせーだな」
見たことないものばかりで、調理方法が一切わからんけどな。どんな味がするのか、好奇心がビシビシ刺激される。
ああ、カメラがあったらこの光景を動画を撮りたい。
題して【実食! 異世界食材珍味の数々!】
一人ワクワクしているオレをよそに、ミミがヤシの実の殻を半分に割ったような器を2つと、紙袋を棚から取り出す。
「夕飯は何つくるんだ?」
「やさい、まきまき」
「野菜まきまき……なんだ、それ?」
「できたら、わかる。てをあらってから、てつだえ」
「おう」
オレにヤシの殻を一つ渡してきた。紙袋を逆さにすると、ぶわっと白い粉末が舞う。
「ここに、みずいれる。こねる。ほっぺのかたさになるまで」
「おっけー。捏《こ》ねるのな」
こねこねこねこね。
粉と水を合わせていくと、ボロっとしてたのにだんだんとモチモチしてきた。ミミがこまめに横から水を注いでくる。
表面つるっともっちりしたかたまりができあがる。
「出来たぞ、ミミ」
「これを、のばして、やく。やさいとニクとまいてたべる」
「へぇ~! こっちで言うケバブかタコスみたいなもんかな」
「けばぶかたこす? ってなんだ」
ミミは手際よく生地をゴルフボール大に分割して、粉をはたいためん棒でのばした。
魔法コンロで熱しておいたライパンに油を引いて投げ込む。
「あ~と、タコスってのはコレ、まきまき? みたいな皮に細かい肉と葉野菜と酸っぱい野菜とピリ辛タレをかける食べ物。オレのいた世界の、暑い国の料理なんだよ」
「ほー。キムランのくには、ぴりからいの、かけるのか」
あ、ミミのみけんにシワが。もしや辛いのキライなのかな。
乾いた音がしてきたら、くるりと木のターナーでひっくり返す。こんがり焼けた皮。裏も焼けたら皿に乗せる。
皮を焼き終わったフライパンに、細切りした根菜を入れて炒める。しんなりしてきたら皿にあける。
くん製肉を包丁で薄くそいで、塩を振る。葉野菜と炒めた野菜をお好みの量、生地にオン。
「やさいまきまき、できた」
「出来たー! イエーイ! キムランチャンネルのみんなみてるー!? やさいまきまき、できたよー!」
「キムラン、うるさい」
「わー、ごめーん」
うっかりユーチューバーとしてのクセが出てしまったい。
ていうかオレ、ミミの尻に敷かれてる気がするんだけど気のせい?
アマツカミにお祈りして実食。
「やさいまきまきは、たいへん美味しゅうございます。火が通っていてもしゃきっとした野菜の歯ごたえがたまらん。そして肉。噛むごとに濃厚な肉汁が湧いてきてよだれがとまらない。なんだこれは。なんなのだ。美味すぎるっ!!」
「レクサスの、ニク。もりにいる、がおーってなく、すごくキバがおっきいモンスター。よく、くんせいでたべる」
「え……………え………??」
数日前オレを襲ってきたティラノ(仮)
あれが、レクサスというモンスターらしい。
あのバカでかいティラノ(仮)も仕留めて食うとか、異世界の食文化すげぇ。地球でいうなら一般市民が日常的にホオジロサメを仕留めて食ってるようなもんだぞ。
いろんなものに驚かされているうちに、村での初日は終わろうとしていた。
ミミのお父さんが使っていた部屋を、オレが使っていいと言われた。そこにある服も自由に着ていいって。
「いいのか? ミミのお父さんの大事なものだろう」
「つかわずすてる、とうさんよろこばない。だからキムラン、つかえ」
「んー、じゃあ、ありがたくもらうな」
日本にいたときのようなフカフカのベッドではない。木製のベッドに綿をつめた敷布団と掛け布団。簡素なものだ。
ミミのお父さんのものだから、大事に使おう。
この世界に来てはじめてのまともな寝床でまどろむ。
「キムランひとり、さびしかろう。いっしょにねてやる」
うとうとしてきたところで、まくらを抱えたミミが布団にもぐりこんできた。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。寂しいから」
「うむ」
実は自分でも驚くほど異世界に来たのを楽しんでしまっていて、今のところ寂しいとかホームシックなんかなっちゃいない。
でも、寂しかろう、なんて大人ぶるミミのほうがよほど寂しそうに見えて、「必要ない」なんて言えなかった。
何分もしないうちに、隣からは寝息が聞こえてくる。安らかな寝顔、目元には涙がひとすじこぼれる。
……そうだよな。ミミはまだ5才なのに天涯孤独になっちゃったんだもんな。さみしいよな。
オレにできることがあるなら、なにかしてやれたらいいな。
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