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5 歓迎のスライムステーキ

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「ここ、わたしのいえ」

 ミミに連れられて、ゴルドさんちの2軒となりの家に入った。

「すきにつかえ、キムラン」
「あー、あのさ。行くあてもなかったし、オレとしては住まわせてもらえるのは嬉しいけど、勝手に決めちゃっていいの? ミミの親御さんに相談しなくていいのか?」
「おや、せんげつしんだ。わたししか、いない」

 ミミは顔色を変えずにとんでもないことを言う。

「あ……ごめん。………ミミ、一人なのか」

 5才かそこらの幼子が、たった一人で生きる。日本じゃ考えられない。
 なんて言っていいのかわからない気持ちが、胸の中でぐるぐるまわる。元の世界に帰る方法を探したい、という気持ちはあるけれど、それよりもミミをひとりぼっちにしておきたくない、という気持ちのほうが勝った。

「ひとり、ちがう。きょうから、ふたり。キムランいる」
「そうだな。オレがいるから二人暮らしだな」

 不安にさせないよう、ミミの言葉を肯定する。オレはうまく笑えているだろうか。

 ミミは棚をゴソゴソとさぐり、なにかを取り出した。まごうことなきフライパンだ。
 背が低くて調理台に届かないからか、踏み台を持ってきてそれに乗る。そしてフライパンを赤い石の上に置くと、ジュ、と鉄の焼ける音がした。

「これ、まほうぐ。あつい」
「へ~。この世界のコンロってわけか。すっげーーー! オレ、生の魔法を見たのは初めてだ」
「なまのまほう、ちがう。これ、ひのまほう」
「火の魔法な、わかった」

 フライパンがあたたまったところで、ミミが1メートル四方くらいの石の箱を開けた。同時に、中から白い冷気が漂ってくる。
 魔法のコンロがあるなら、こっちは魔法の冷蔵庫か。

「そんちょがくれた、すらいむのにくがある」
「スライムの肉……」
「ぷるぷる、おなかにやさしいヨ」

 溶解液で地面溶けてたけど……食えるのかあいつら。食ったら口の中溶けたりしないよな。

 オレの不安をよそに、ミミは半透明のぷるぷるを1センチほどの厚さに切り分ける。大きな木の葉にスライム肉を置いて、ピンクの顆粒をふりかける。調味料だな。
 調味料を振ったスライム肉をめん棒でペンペン叩く。

 熱々になったフライパンに油|(たぶん)をしいて、よく叩いたスライム肉を投入する。 ジュワ! しぶきがあがってスライムの水分が飛ぶ。
 半透明だったスライム肉は、火が通るにつれて白身魚のような、品のある白い色へと変わった。

 香りもバターソテーのよう。やべぇ、よだれが。
 木べらで器用にひっくり返して、きつね色に焼けた面が上に来る。両面よく焼けたら木皿に盛り付けて、完成。

 ミミはオレの反応をじっと見て、ドヤ顔になる。

「たべろ。あつあつが、うまい」
「ありがとうミミ。いただきまーす!」
「キムラン。いただきます、とは?」
「いただきますっていうのはだな、オレの世界でごはんを食べるときのあいさつだ」

 木を粗く削って作られたフォークをさす。ふわりとほぐれる白身。戦ったときのエゲツない弾力がうそのようだ。

「おおおお、口に広がるうすしお味。口当たりなめらか。腹が痛かったから、素朴な甘じょっぱいたべものは口にもやさしいな。口の中が幸せにみちあふれているぜ!!」

 オレの中のユーチューバーの魂が、このスライムの旨さを讃えろと叫んでいる。この世界にビデオカメラがあるなら、高画質録画して永久保存版にする。
 ミミはハルルのみつをコップに注いで、オレの前においてくれる。

「ごっごっごっ。プハー! スライム肉はハルルのみつとの相性も抜群だな!」
「キムラン、うるさい」
「わりーわりー。あまりのうまさに叫んじまった!」
「……そうか、うまいか」

 ミミは自分の分をオレの向かいに用意して、椅子に腰掛ける。それから目を閉じて、両手の平を胸に乗せて交差させる。

「きょうも、アマツカミのめぐみにかんしゃします」
「へー。じゃあオレも郷に入っては郷に従えってことで。今日もアマツカミの恵みに感謝します」

 ミミが作ってくれた歓迎のスライムステーキはとても美味しくて、2回もおかわりしてしまった。
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