ゴールデンソルジャー

木村テニス

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「むっ。皆気を付けよ。空気がベタついている――これは近くにいるぞ!」

「何もないだろ」

「チッ! ノリが悪いなぁアインちゃんはよ~。緊張した空気を俺なりに和まそうとする優しさが分からんのか?」

「お前が黙れば全て解決する」

「さいですか――ん? お、おいアイン!」

「黙れ」

「ばっか! ちげぇって! 前見ろ、前!」

 ハミィを先頭に歩く一行。
 ヨシオを小突くために向いていた首を前へ向けアイン。
 そこには目的地であろう空間が広がっていた。

「随分と広いですね」

 ハミィの言うとおり目の前の空間は今までの一本道と明らかに違っていた。
 床、壁は変わらぬ作りだが。五十メートル程の長さが四方に広がり、天井も一際高い。
 ここがいわゆる主部屋。この洞窟内での終着点となる。

「なんてこった。こんなに早くボス部屋に辿り着くなんて。ハミィちゃんは天才か! おいアイン! ハミィちゃんは天才だぞ! 天才界の宝石箱やぁ~!」

「あぁ。そうだな」

 アインはヨシオの軽口に何も言わない。
 どうやら無愛想な少年も少なからず感動しているようだ。

(――感動している。この人達は今までどういう旅をしてきたのかしら?)

 ハミィは眉根を寄せ黒い剣士を見る。
 初見よりは幾分か柔らかい雰囲気となっているが、根底にある恐怖は消えてはいない。

 ハミィの視線に気付くと咳払いをして歩き出すアイン。
 二人はボス部屋の中に足を踏み入れ、一歩二歩と歩いた時に「あっ!」と声をだすヨシオ。

「今気づいたけどハミィちゃんは今すぐボス部屋から出ていった方がいいと思うぞ。もうすぐボスモンスターが――」

 ヨシオの声は低く獰猛な唸り声にかき消される。
 声の主はどこからか唐突に現れた。

「な、な、何ですかあれは!?」

 人喰い鬼オーガと呼ばれるモンスターである。
 人間の何倍もの体を揺らし、太い足で床を軋ませ、再度唸りを上げる。

 大人五人程の大きさの鬼は灰色の皮膚にボロを纏わせ、威風堂々と巨体を誇り、右手に持つ大鉈を振り回しアインらを威嚇。
 醜悪を張り付けた顔は見るものを竦ませる。
 現にハミィは腰が抜けその場にへたり込む。

「もうすぐボスモンスターと戦うから部屋から出てった方がいいぜと言おうとしたんだが、時既に遅し、残念無念。次週、ハミィ来世は悪役令嬢に転生を絶対見てくれよな!」

「な、何訳の分からない事を言っているんですか! ど、ど、どうするんですかあのモンスター!? 明らかに強そうですよ、ヤバイですよ! 助けて~神様~!」

「神なんていない! 救いを願うだけ無駄だ!」

 珍しく大声を出すアインはハミィを庇うように一歩前へと出る。

「ちょっ! アイーンまさか戦うんですか? 絶対勝てないですよ! に、逃げましょう、早く!」

「邪魔だ、どこかに隠れて——ん? 今、アイーンと言ったか?」

 首をぶんぶんと左右にふるハミィ。

「強そうだな。やれるかアイン?」

「問題無い」

 ヨシオの真面目な問いかけを簡潔に答えると、アインは柄を握る。

「無理はするなよ、お前がいないと俺を使える奴がいなくなる」

「無理しなくても、どんな相手だろうと——」

 今、この二人のやりとりには特別な雰囲気が広がる。
 それは決して割り込めない関係性が見て取れる。

「勝てるだろう? 俺とお前なら」

 ヨシオを鞘から引き抜き、本来の姿を晒す。

「それな!」

 アインの言葉にヨシオが高らかに答えた。
 姿を見せたヨシオの刃は金色の両刃に青と黒の模様が描かれている。
 持ち手部分同様随分と派手だが、その姿を見たハミィは自身の状況など忘れヨシオに見惚れていた。

 ――綺麗。

「伏せていろ。直ぐに終わる」

 ハミィに言うが早いかオーガ目掛けて駆け出すアイン。
 迫るアインにオーガは大鉈を振るう。
 数々の獲物を葬った一撃。
 並みの者ならその圧倒的な死の一振りに恐れて退く——が、アインはさらに加速しヨシオを豪快に叩き付ける。

 ——耳を塞ぎたくなる金属同士の音がボス部屋には響かなかった。

 鳴ったのは硬質が砕ける音。
 砕けたのは大鉈である。

「今のでいくら・・・だ?」

 戦闘中にも関わず、余裕があるアインの声。

「一振りで百ゴールド。対象破壊を上乗せして六百ゴールドだ」

 ヨシオの声に舌打ちしつつアインは体勢を整える。

スキル・・・でも使うか?」

「必要無い」

 流れるような動作で大鬼の懐に踏み込み下方から上方に一閃。
 鬼の右腕を軽々と斬り捨てる。
 鬼は耳障りな声を上げながらアインから距離をとる。
 持ち主から離れた右腕はビクビクと動き周り、周囲は青黒い血の池が生まれる。
 大の大人よりも太い腕を軽々と切るアイン。

「なっ——」

 ハミィが唯一言えたのはこの言葉だけ。
 後にはただ口をポカンと開け、アインの戦いを見るだけとなった。

 鬼は残った左腕でアインを叩き潰そうとするが、その動きは予想済み。とばかりに剣腹で受け流す。
 地面に叩き付けられた左腕は標的を捉えられず、石畳の床にヒビを入れるのみ。
 軽やかな足取りで丸太よりも太い左腕を足場にし走るアイン。
 目標は鬼の首。

 小賢しいとばかりに鬼は口を大きく開ける。
 人など簡単に丸飲みにできてしまう大きさだ。
 そこに並ぶ牙もまた間近で見ると直視できないほどに大きく、鋭く、死を連想させる。
 だがアインは焦らない。この程度の恐怖は彼の中では日常茶飯事の事だ。

 一際大きな音が鳴り、顎が閉じられる。
 そこにアインの姿は無い。
 跳躍し、反対側の右肩を足場にし、ヨシオを構えている。

「一撃だ」そう言われたヨシオは「がってん!」と返す。

 真横に一閃。
 鬼の首は静かにずれ、滑り、地面に落ちる。
 首が落ちたと同時に鬼の体も地面に倒れた。
 ものの数分で決着がつく。

「ほむほむ。締めて三千五百ゴールドだな」

 主を失った空間には晴れやかなヨシオの声が響いた。
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