ゴールデンソルジャー

木村テニス

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「モンスターです! アインさん討伐を――」

「逃げるぞ」

「またかい!」

 つっこみスキルを会得したハーミアは、アインと共に地下洞窟を走る。

「ちょっとアインさん! 逃げないで戦ってくださいよ! 強いんでしょあなた!」

「俺は戦闘が嫌いだ」

「おい~! あんなどぎつい戦闘スタイルのくせに何言ってのこの人」

「そうだぞアイン、俺を使えよ! 我が刃は血に飢えておるぞ!」

「魔を切り裂くエクスカリバーさん、もっと言ってやって下さいよ。魔を切り裂くエクスカリバーさんの言うことならアインさんも聞くだろうし、そうですよね? 魔を切り裂くエクスカリバーさん?」

「うん。えっと、あの、魔を切り裂くは付けなくて大丈夫だからさ、えっ? そんなに? いじっちゃう位変かな? 魔を切り裂くって、ねぇ? なんで二人とも目を逸らすの? えっ、やばい! どうしよ! 恥ずかしい! 急に恥ずかしくなってきた! どうしよアイン」

「うるさい」

「お前もしかしてずっと俺の事恥ずかしい奴とか思ってた? ねぇ思ってたの? ちょっとなんかスゲーいたたまれないよ~俺。学校終わって帰ったら母ちゃんがエロ本整理してた位いたたまれないよ~この気持ち分かるだろ? アイン?」

「知らん」

「なんでだよ! 知れよ! その後の母と子の間に微妙な溝がってって、そっか。アインは親いないから、分からねぇか」

「だまれ」

「まぁ、俺が親代わりだしな——」

 
 肯定も否定もせず、魔を切り裂くエクスカリバーの言葉を無視して加速するアイン。
 置いてくな! と叫ぶハーミア。
 ハーミアには最後のフレーズが妙にひっかかったが、それを聞くほど二人の仲は深くは無い。

 右に左、時には真っ直ぐ進む洞窟内は巨大迷路さながらであり。
 行けども行けども、ゴールという名の洞窟内の主が陣取っている空間にはたどり着けない一行。

「ん~索敵にも反応無いし、どうなってんだここ?」

「そうですね。サトウさん」

「——ヨシオの方がいいな。ハミィちゃん。」


 自称エクスカリバー事、喋る剣サトウヨシオの提案で、愛称で呼ぶことになった一行。

「旅は道連れ世は情け。ってな! もっと仲を深める為に愛称で呼び会おうぜ!」

 ハーミア・イジーは呼ばれ馴れている愛称のハミィ。

 魔を切り裂くエクスカリバーは、自身で色々案を出したが、最終的には前世で呼ばれていたヨシオと言う名に決まった(※本人は納得していない)

 そしてアインは——。

「そういえばアイーンさん?」

「おい、女」

「愛称で呼び合うんだからハミィ。って呼んで下さいアイーンさん」

「そうだぞアイーン。俺だってヨシオで我慢してるんだから、アイーンって素直に呼ばれろよ。すげ~バカっぽい愛称だけど我慢しろよアイーン。プッ」

「お前達——次にアイーンと言ったら殺す」

「そういえばヨシオの話が聞きたいですね。この世界では剣だけど、前の世界では人間だったって本当ですか?」

「おい、無視をするな女」

「おお! ハミィはサトウヨシオ版転生したら剣だったのよ~ん。を聞きたいのか? これは語るも涙、聞くも涙の大スペクタクルだぞ」

「お前も無視をするな、二度とアイーンと呼ぶな」

 三人は洞窟内を歩きながら、時には走りながら会話を繰り広げる。

 といっても主にヨシオの一人語りである。
 転生前の世界の事情。
 時折入るヨシオTUEEEの自慢話。

 だがハミィにはどの話も興味深かった。この世界とは別の世界。

 車? 電車? 飛行機? スマートフォン? 秋葉原? 二次元? アニメ? 同人誌? 年二回の有明? チート? エゴサ?

 知らない単語。知らない知識。知らない世界にハミィは目を輝かせ、うんうん。と興味深そうに話を聞く。

 多少ヨシオの趣味が過多ではあるがそこは一旦置いておこう。
 盛り上がるハミィとヨシオ。
 そして話はヨシオが死に、この世界に転生して剣だった所まできた。

「なるほど、まぁ。ヨシオさんの死はどうでもいいとして、生まれ変わって剣というのはどういう経緯なんですかね?」

「うん。それは俺も分からねぇな、でもハミィちゃんはちょいちょい口が悪くなるの直らないの? 人の死因をどうでもいいとか酷くない?」

「まぁまぁ。で! 剣に生まれ変わって、どうなったんですか?」

「剣に生まれ変わったら真っ暗な場所にいたんだよ。そこでアインと出会って、まぁ色々あって、今に至る。って感じかな」

「なんだか随分とざっくりというか急に投げやりな説明ですね」

「ふっ。良い男にはそれなりの秘密ってぇのがあるのさ。俺の過去に触れると火傷じゃすまないぜ」

「やっぱり魔を切り裂く。という謳い文句がある剣は違いますね」

「まだいじる~!」

 アインは二人のやりとりにげんなりしつつ真っ直ぐ歩いて行く。
 ヨシオとの会話中だったハーミアは、あら? と首を傾げた後に足を止めた。

「真っ直ぐ歩くと同じ道に戻りますけど、いいんですか? というかさっきから同じ所をぐるぐると回ってると思うんですか?」

 足を止めキョロキョロと辺りを見るアインは「そうなのか?」とハミィに聞き返す。

「はい。ここは一度というか二度程通ってますよ。アイ——アインさんがずんずん進むので、わざとそうしてるんだと思ってたんですが」

「違うぞハミィちゃん。俺らは道に迷ってる最中だ。というか洞窟に入ったときから道に迷い続けてる。アインは方向音痴だからすぐ迷うんだよ。だから人生も方向音痴みたいな所がなきにしもあらずだ」

「お前は存在自体が迷ってるけどな」

「ふっ。悠久の放浪者と呼んでくれ」

「格好良く無いぞ」

「じゃ、じゃあ。ここからは私が行き先を指示しますね。私考古学を専門しているので、こういった古い建物を歩く心得はあるので!」

 軽口の応酬を受け流しながら、テキパキと方針を決めるハミィ。
 最期には人差し指をピシッと立てる姿がなかなかにあざとくも見える。
 胡乱げな目をするアインにハミィは微笑む。

 ――ありゃりゃ? この感じだとアイーンはまだ私の事を信用してなさそうだな——。
 微笑みながらも冷静に分析するハミィは——仕方無いか——。と自身に言い聞かせ説明をする。

「まず一旦戻ります。正確にはここに来るまでに右、右、左で来た順序の所まで戻ります。その場所をいつも左に曲がっているのを知っていましたかアインさん? なので右に行きます。あの左右の通りは右側の壁が広く、左側の天井が少し下がっていました。アインさんは無意識に広い方を選んで歩いていた筈です。その回数は三回。心理的揺さぶりがこの洞窟内にあるのかは謎ですが——とりあえずは左側の狭い方に進んでみましょう!」

「お、おう。ゴイスーだなハミィちゃん。全然気付かなかったぜ」

「文献を読み漁ったおかけで変な特技がついちゃいましたけどね。信用してもらえましたか?」

 ハミィは再度人差し指を立てアインに訪ねる。
 高い洞察力に少々面を食らったアインは肯定する。

「大したもんだ」

 短い文言ではあるが。好評価をするアイン。
 うるさいだけの女だったハミィに少しだけ興味を抱く。

 だがアインは知らない。
 ハミィが心の中でアイーンと呼んでいることを。
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