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「埋(うず)められた過去」
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────,XX
「とうとうふたりだけになった、とか思ってるんじゃないでしょうね?」
からかうような声音で吐かれたその言葉に、少年は肩を竦めた。
冷たいベッドに横たわったその人の鼻は半透明のチューブに繋がれていて、不規則な呼吸を誤魔化すように、時折歯をちらつかせて笑う。
「わたしがいないからって仕事サボってイチャつかないように」
「するわけない。いくらなんでもこの状況で」
「……いや冗談だっての、だからもっと肩の力抜いて笑いなさい。あんたが落ちたらもう後がないんだから」
笑えるはずもなかったが、努めて口角を持ち上げて見せた。
それで少しでも相手の気に添えるのならそうしてやりたかったから。
後がないという言葉どおり、もうGHには片手すら余るほどの人数しか残っていない。
すでに班制度は解体されて久しく、もともとは別オフィスの所属だった面々が、本来とは違う席に身を置くことにすら慣れてしまっていた。
そうして最後の班長である彼女が倒れ、もはや残るは副官の少年と秘書の少女のみ。
少年は必然的に彼女の班長業務を引き継ぐことになる。
急なことではあったが、すでにこういう事態は予測されていて必要な申し伝えはとっくに済んでいる──それが今は、空しく悲しい。
「……ねえ、メイカは大丈夫?」
「だったら今ここに連れてきてるよ。無理そうだから置いてきた」
「あー……じゃあすぐ戻って。わたしに構う必要はないから」
「そうは言っても、……俺がいたって落ち着けるわけじゃないみたいだし、それに、ここに行けって言ったのもあいつなんだ。ナヅルが心細いだろうからって……」
「バカ、なんでそれを真に受けちゃうの」
口さがない元班長は呆れを隠さないで少年を叱る。
「それがあの子の悪い癖なのは知ってるでしょ! ……ああもう、なんで先に倒れたのがわたしなんだろう?
もうなんでもいいから早くメイカのところに戻ってあげなさい。そしてもうここには来ないこと。あなたがするべきなのはわたしを看取ることじゃなくて、この忌々しい機能の原因とトリガーを探し当てることと……生き延びることなんだからね」
点滴の管を繋がれた腕が、びしりと扉を指さした。
少年に、早くこの病室を出てするべきことを果たしに行けと言っている。
不安でないはずなのに、少女──ナヅルは一言もそれを口にはしなかった。
何度も昏倒を繰り返した挙句についには立てなくなり、もう医務部で死を待つだけの身体になってしまったのに、最後まで泣き言ひとつ漏らすことなく逝ってしまった。
どうしてそんなに強くいられるのだろうと不思議だったが、あとから思えば単純で、彼女にはそのときすでに心痛を打ち明けられる相手がいなかった。
ソアには必ず唯一無二の『支柱』となる同胞がいて、彼女はそれを早々に失ってしまっていたのだ。
だから残されたふたりを案ずることでその痛みを和らげていた、そうするしか正気を保つ術がなかったのだろうと、今なら理解できる。
そして、彼女が心配していたメイカはというと、日に日に小さくなっていった。
もともと小柄な身体が目に見えてやせ細っていくのを隣で見ていると、病が進行しないのが不思議なくらいだったが、むろんそんなはずもない。
メイカは自身の身体を蝕むいくつかの症状について、少年に黙っていただけだった。
人一倍気を遣う性質で、それゆえこちらに心配をかけたくなかったのだろう。
意図はわかる。
納得もしている。
だが、理解はできても心情が追い付かないことがあるのだということを、彼はそのとき思い知った。
「なんで言わなかったんだよ!」
「……そういう顔するって思ったから……。ごめんね」
「隠されたら対処のしようがないだろ! ああもうッ、くそ、……どうすれば……何を見れば……!」
ばさばさと音を立てて少年の手から書類が落ちる。
これまでの実験のデータと取りまとめたそれは、何度読み返しても平坦な事実の羅列でしかなく、少しも状況を打開する助けにはならなかった。
そこにはメイカの体調についての記録もある。
数週前から彼女が頭重と不眠に悩まされていたことを、少年はその報告書で初めて知った。
自分に心配をかけまいとしただけだとわかっている、だから彼女を責めたいわけでは決してないのに、口から出てくる言葉はどれも不安で震えて荒いものになってしまう。
少年は焦っていた。
このごろは何を見てもイラついて仕方がなかったし、何も進められないまま一日を終えるたび、自分を殺したくなるほどの絶望感と無力感に苛まれる。
そうした情緒の問題もまた、先天性疾患の抱える症状のひとつだった。
「……泣かないで」
「泣いてなんかない……」
「大丈夫だから」
メイカはたびたび、彼女より一回りも二回りも大きな少年を抱き締めながら、あやすようにそう言う。
腕の長さはちっとも足りていないのに、なぜだかそうされると大きなものに包まれるような心地がした。
運命の歯車は、初めはたしかにふたりを定められた無残な死へと導いていたはずだ。
その状況を変えたのは小さなネズミだった。
比喩ではなく、当時はまだ臨床試験用にハツカネズミが飼育されていて、彼らに対する投薬実験のいくつかはGHからの提案で行われることもあった。
実際それで実用化に至った薬品もいくつかある。
日々の食事や定期的に行われる体内洗浄に使用される薬液など、ソアの身に関わるあらゆる場面で、そうしたマウス実験から生まれた安定剤と呼ばれる物質が使われている。
そのお陰である段階からのソアの生存率は確かに向上した──少なくとも多臓器機能不全の発生率は確実に下げられた。
そうした功績を持つネズミを相手に、少年は試行錯誤を繰り返していた。
まずネズミにもアマランス技術を適用できるようにして、ソア・マウスを生み出した。
それからマウスが増えては死んでいくのを観察し、その死因と発症の過程を改めて事細かに記録していった。
滅びゆく自分たちの姿を見つめ直すような辛い作業を何日も繰り返し、心は静かに疲弊していったが、同時に客観的な眼で見つめることによって新しい閃きを手にした部分もあった。
そしてようやく死なないマウスを見出だしたとき、たぶん少年はもう発狂しかけていたのだろう。
彼は踊るような足取りで実験室を後にした。
そしてまっすぐに相棒の待つオフィスへと帰る、その道中もしかすると鼻歌さえ唄っていたかもしれないが、そのあたりの記憶はもはやない。
覚えているのは部屋に戻るなり、愛する彼女を抱き締めたことだけだ。
「……どしたの? 今日はすごく機嫌がいいのね」
「ああ……やっと見つけたんだ、これでやっとおまえを……いや、もしかしたら、俺たちふたりとも」
言いかけて、その先は彼女の口の中に押し込んだ。
当時はオフィスにカメラはなかった。
あるのはいくつかのさほど精度の高くないセンサーだけで、だからこうしてキスを交わすくらいなら小細工も必要がない。
事務所に限らず、廊下や給湯室も、ソア自身の自室にも、彼らのプライバシーを脅かすものはまだなかったのだ。
メイカは驚きながらも黙ってキスを受け入れた。
なぜならもうずっと前から彼らは恋人同士で、これが初めてのことでもなかったからだ。
少年は敢えて説明をしないまま、その夜彼女の自室を訪ねた。
もう同期どころか下の世代でもほぼ全員が失われていたし、ひどい状況にラボも新しいソアの発芽を躊躇っていたため、同じ階に住んでいるソアはひとりもいない。
だから誰の眼も気にせず堂々と部屋に入れたし、彼女もそれを拒まなかった。
そして少年は、彼女を押し倒した。
「──え、な、なに……」
驚いて目を丸くしている彼女はまだ、何も知らない。
知らないのに身体はすっかり丸みを帯びて一人前の女性になろうとしていた。
だからその最後の一押しをするのだ、それが必要なこと、するべきことで、少年が苦難の果てに見出したたったひとつの方法だった。
「大丈夫だよメイカ、俺に任せて。たぶんそう時間はかからないから、きっと俺たちふたりとも助かるよ。仮に俺は間に合わなかったとしてもきみだけは大丈夫だ。死なせない……死なせるもんか……だから俺を信じてくれ」
「待って、……何を言ってるの……ねえ、リク、何する気……?」
「簡潔に言うと」
この当時、GHの女子の制服はキュロットではなくただのスカートだった。
「……妊娠するんだ。メイカが、俺の子を」
そのために必要な行為をする。
ただ、それだけ。
事細かに説明して同意を得るだけの精神的余裕が、少年にはなかった。
だからいきなり結論だけ投げつけた挙句にレイプした。
嫌がるメイカを組み敷いて、力ずくで押さえつけて衣類を奪い、けだもののような方法で彼女を抱いたのだ。
「やだ、やだッ、離して……! なんでこんな……こんなの……!」
「メイカを助けるためなんだ、ごめんな、痛いよな、苦しいよな、だけどわかってくれよ死なせたくないんだよ他に方法がないんだ、だから、……愛してる」
「あッ……い、やぁぁッ……」
初めは抵抗して泣き叫んでいたメイカも、しばらくすると大人しくなった。
突っぱねていた手足から力が抜け、明るかった瞳からも光が消え失せて、彼女は抜け殻のようになった。
少年は──リクウはかまわずメイカを犯し続けた。
口では愛を囁きながら、自分がどんなに残虐な行いをしているのか自覚もしていたが、なおも身体は甚振るのをやめなかったのだ。
なぜなら彼は狂っていたし、信じていた。
これこそが彼女を救う唯一の方法で、同時に己を救う最善の方法で、だから自分は間違ってなどいないのだと。
傷つけることはわかっていたし憎まれることも理解している、そのうえで選んだ道だった。
リクウにとってはメイカの存在こそが『支柱』なのだ。
彼女の生存なしに己の未来などありえない。
たとえ忌み嫌われて二度と近づくことが許されなくなってもいい。
ラボに知られたらどんな罰を受けるか知れないが、何があったとしてもメイカを失うよりはいい。
──もしかしたらただ単に、死ぬ前にメイカに触れたかっただけなのかもしれない、持て余した欲のはけ口に彼女を利用しただけなのかもしれない、だとしてももう後戻りはできないのだ。
凶行は一晩じゅう続いた。
メイカの涙が枯れたころには、リクウの魂も一緒に腐り堕ちたような気がした。
→
「とうとうふたりだけになった、とか思ってるんじゃないでしょうね?」
からかうような声音で吐かれたその言葉に、少年は肩を竦めた。
冷たいベッドに横たわったその人の鼻は半透明のチューブに繋がれていて、不規則な呼吸を誤魔化すように、時折歯をちらつかせて笑う。
「わたしがいないからって仕事サボってイチャつかないように」
「するわけない。いくらなんでもこの状況で」
「……いや冗談だっての、だからもっと肩の力抜いて笑いなさい。あんたが落ちたらもう後がないんだから」
笑えるはずもなかったが、努めて口角を持ち上げて見せた。
それで少しでも相手の気に添えるのならそうしてやりたかったから。
後がないという言葉どおり、もうGHには片手すら余るほどの人数しか残っていない。
すでに班制度は解体されて久しく、もともとは別オフィスの所属だった面々が、本来とは違う席に身を置くことにすら慣れてしまっていた。
そうして最後の班長である彼女が倒れ、もはや残るは副官の少年と秘書の少女のみ。
少年は必然的に彼女の班長業務を引き継ぐことになる。
急なことではあったが、すでにこういう事態は予測されていて必要な申し伝えはとっくに済んでいる──それが今は、空しく悲しい。
「……ねえ、メイカは大丈夫?」
「だったら今ここに連れてきてるよ。無理そうだから置いてきた」
「あー……じゃあすぐ戻って。わたしに構う必要はないから」
「そうは言っても、……俺がいたって落ち着けるわけじゃないみたいだし、それに、ここに行けって言ったのもあいつなんだ。ナヅルが心細いだろうからって……」
「バカ、なんでそれを真に受けちゃうの」
口さがない元班長は呆れを隠さないで少年を叱る。
「それがあの子の悪い癖なのは知ってるでしょ! ……ああもう、なんで先に倒れたのがわたしなんだろう?
もうなんでもいいから早くメイカのところに戻ってあげなさい。そしてもうここには来ないこと。あなたがするべきなのはわたしを看取ることじゃなくて、この忌々しい機能の原因とトリガーを探し当てることと……生き延びることなんだからね」
点滴の管を繋がれた腕が、びしりと扉を指さした。
少年に、早くこの病室を出てするべきことを果たしに行けと言っている。
不安でないはずなのに、少女──ナヅルは一言もそれを口にはしなかった。
何度も昏倒を繰り返した挙句についには立てなくなり、もう医務部で死を待つだけの身体になってしまったのに、最後まで泣き言ひとつ漏らすことなく逝ってしまった。
どうしてそんなに強くいられるのだろうと不思議だったが、あとから思えば単純で、彼女にはそのときすでに心痛を打ち明けられる相手がいなかった。
ソアには必ず唯一無二の『支柱』となる同胞がいて、彼女はそれを早々に失ってしまっていたのだ。
だから残されたふたりを案ずることでその痛みを和らげていた、そうするしか正気を保つ術がなかったのだろうと、今なら理解できる。
そして、彼女が心配していたメイカはというと、日に日に小さくなっていった。
もともと小柄な身体が目に見えてやせ細っていくのを隣で見ていると、病が進行しないのが不思議なくらいだったが、むろんそんなはずもない。
メイカは自身の身体を蝕むいくつかの症状について、少年に黙っていただけだった。
人一倍気を遣う性質で、それゆえこちらに心配をかけたくなかったのだろう。
意図はわかる。
納得もしている。
だが、理解はできても心情が追い付かないことがあるのだということを、彼はそのとき思い知った。
「なんで言わなかったんだよ!」
「……そういう顔するって思ったから……。ごめんね」
「隠されたら対処のしようがないだろ! ああもうッ、くそ、……どうすれば……何を見れば……!」
ばさばさと音を立てて少年の手から書類が落ちる。
これまでの実験のデータと取りまとめたそれは、何度読み返しても平坦な事実の羅列でしかなく、少しも状況を打開する助けにはならなかった。
そこにはメイカの体調についての記録もある。
数週前から彼女が頭重と不眠に悩まされていたことを、少年はその報告書で初めて知った。
自分に心配をかけまいとしただけだとわかっている、だから彼女を責めたいわけでは決してないのに、口から出てくる言葉はどれも不安で震えて荒いものになってしまう。
少年は焦っていた。
このごろは何を見てもイラついて仕方がなかったし、何も進められないまま一日を終えるたび、自分を殺したくなるほどの絶望感と無力感に苛まれる。
そうした情緒の問題もまた、先天性疾患の抱える症状のひとつだった。
「……泣かないで」
「泣いてなんかない……」
「大丈夫だから」
メイカはたびたび、彼女より一回りも二回りも大きな少年を抱き締めながら、あやすようにそう言う。
腕の長さはちっとも足りていないのに、なぜだかそうされると大きなものに包まれるような心地がした。
運命の歯車は、初めはたしかにふたりを定められた無残な死へと導いていたはずだ。
その状況を変えたのは小さなネズミだった。
比喩ではなく、当時はまだ臨床試験用にハツカネズミが飼育されていて、彼らに対する投薬実験のいくつかはGHからの提案で行われることもあった。
実際それで実用化に至った薬品もいくつかある。
日々の食事や定期的に行われる体内洗浄に使用される薬液など、ソアの身に関わるあらゆる場面で、そうしたマウス実験から生まれた安定剤と呼ばれる物質が使われている。
そのお陰である段階からのソアの生存率は確かに向上した──少なくとも多臓器機能不全の発生率は確実に下げられた。
そうした功績を持つネズミを相手に、少年は試行錯誤を繰り返していた。
まずネズミにもアマランス技術を適用できるようにして、ソア・マウスを生み出した。
それからマウスが増えては死んでいくのを観察し、その死因と発症の過程を改めて事細かに記録していった。
滅びゆく自分たちの姿を見つめ直すような辛い作業を何日も繰り返し、心は静かに疲弊していったが、同時に客観的な眼で見つめることによって新しい閃きを手にした部分もあった。
そしてようやく死なないマウスを見出だしたとき、たぶん少年はもう発狂しかけていたのだろう。
彼は踊るような足取りで実験室を後にした。
そしてまっすぐに相棒の待つオフィスへと帰る、その道中もしかすると鼻歌さえ唄っていたかもしれないが、そのあたりの記憶はもはやない。
覚えているのは部屋に戻るなり、愛する彼女を抱き締めたことだけだ。
「……どしたの? 今日はすごく機嫌がいいのね」
「ああ……やっと見つけたんだ、これでやっとおまえを……いや、もしかしたら、俺たちふたりとも」
言いかけて、その先は彼女の口の中に押し込んだ。
当時はオフィスにカメラはなかった。
あるのはいくつかのさほど精度の高くないセンサーだけで、だからこうしてキスを交わすくらいなら小細工も必要がない。
事務所に限らず、廊下や給湯室も、ソア自身の自室にも、彼らのプライバシーを脅かすものはまだなかったのだ。
メイカは驚きながらも黙ってキスを受け入れた。
なぜならもうずっと前から彼らは恋人同士で、これが初めてのことでもなかったからだ。
少年は敢えて説明をしないまま、その夜彼女の自室を訪ねた。
もう同期どころか下の世代でもほぼ全員が失われていたし、ひどい状況にラボも新しいソアの発芽を躊躇っていたため、同じ階に住んでいるソアはひとりもいない。
だから誰の眼も気にせず堂々と部屋に入れたし、彼女もそれを拒まなかった。
そして少年は、彼女を押し倒した。
「──え、な、なに……」
驚いて目を丸くしている彼女はまだ、何も知らない。
知らないのに身体はすっかり丸みを帯びて一人前の女性になろうとしていた。
だからその最後の一押しをするのだ、それが必要なこと、するべきことで、少年が苦難の果てに見出したたったひとつの方法だった。
「大丈夫だよメイカ、俺に任せて。たぶんそう時間はかからないから、きっと俺たちふたりとも助かるよ。仮に俺は間に合わなかったとしてもきみだけは大丈夫だ。死なせない……死なせるもんか……だから俺を信じてくれ」
「待って、……何を言ってるの……ねえ、リク、何する気……?」
「簡潔に言うと」
この当時、GHの女子の制服はキュロットではなくただのスカートだった。
「……妊娠するんだ。メイカが、俺の子を」
そのために必要な行為をする。
ただ、それだけ。
事細かに説明して同意を得るだけの精神的余裕が、少年にはなかった。
だからいきなり結論だけ投げつけた挙句にレイプした。
嫌がるメイカを組み敷いて、力ずくで押さえつけて衣類を奪い、けだもののような方法で彼女を抱いたのだ。
「やだ、やだッ、離して……! なんでこんな……こんなの……!」
「メイカを助けるためなんだ、ごめんな、痛いよな、苦しいよな、だけどわかってくれよ死なせたくないんだよ他に方法がないんだ、だから、……愛してる」
「あッ……い、やぁぁッ……」
初めは抵抗して泣き叫んでいたメイカも、しばらくすると大人しくなった。
突っぱねていた手足から力が抜け、明るかった瞳からも光が消え失せて、彼女は抜け殻のようになった。
少年は──リクウはかまわずメイカを犯し続けた。
口では愛を囁きながら、自分がどんなに残虐な行いをしているのか自覚もしていたが、なおも身体は甚振るのをやめなかったのだ。
なぜなら彼は狂っていたし、信じていた。
これこそが彼女を救う唯一の方法で、同時に己を救う最善の方法で、だから自分は間違ってなどいないのだと。
傷つけることはわかっていたし憎まれることも理解している、そのうえで選んだ道だった。
リクウにとってはメイカの存在こそが『支柱』なのだ。
彼女の生存なしに己の未来などありえない。
たとえ忌み嫌われて二度と近づくことが許されなくなってもいい。
ラボに知られたらどんな罰を受けるか知れないが、何があったとしてもメイカを失うよりはいい。
──もしかしたらただ単に、死ぬ前にメイカに触れたかっただけなのかもしれない、持て余した欲のはけ口に彼女を利用しただけなのかもしれない、だとしてももう後戻りはできないのだ。
凶行は一晩じゅう続いた。
メイカの涙が枯れたころには、リクウの魂も一緒に腐り堕ちたような気がした。
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