81 / 215
西の国 ヴレンデール
081 ウサギは微笑み、彼は背を向ける
しおりを挟む
:::
遣獣業者はたいてい大きな組合に入っていて、一旦各地で捕獲された獣たちを一箇所に集め、そこで特性や性質ごとに分けてから、それぞれが最も需要があると思われる店舗に分配している。
当然アウレアシノンの店なら軍人向けの個体が集められる。
好戦的で気性が荒いもの、攻撃系の能力に優れたもの、あるいは厳しい規律を好むもの。そのほか特定の能力に特化していて、軍の特定の部隊で重宝されるようなもの。
それらがスニエリタに合っているとは考えにくい。
しかも厳しい父親が同伴だったのなら、とくに扱いの難しい個体に会わされていた可能性もある。
将軍の娘なのだから、手強くとも能力の高いものを遣いこなせるだろう、そういうものを勧めるほうが将軍の覚えもよいだろう、と店の人間が考えるからだ。
ただでさえ気弱なスニエリタが、人間を品定めするのに慣れた檻の中の猛獣と対峙したって、そりゃあ成功はしないだろう。
獣は彼女の萎縮を見抜く。本心から望んでいないことも、彼女自身が契約できないと思っていることも伝わって、この娘には自分を扱うのは無理だろうと判断する……その場にいなくても容易に想像がつく。
だいたいにして、店にいる獣とは戦う必要がない。予め捕獲されて檻に入れられているのだから。
だから彼らにはわかるわけがないのだ、スニエリタがどんなにきれいな紋章を描けるのかも、それを行う彼女がどんなに美しいのかも。
スニエリタは、今、必死でウサギと戦っている。
幾つも紋章を描いて、何度も招言詩を唱えて、それがほんの少しでもウサギを足止めする力にならないかと、試行錯誤を重ねている。
その後姿を見ながら、ミルンは思っていた。もしかしたらこの姿に惹かれたのかもしれない。
フィナナのクラブでひどい負けかたをしたあの日に、紋唱を行うスニエリタの凛とした姿に、もしかして見とれてしまったのかもしれない。
今のスニエリタにあのときのような迫力はないけれど、根源は同じはずだ。
タヌマン・クリャが彼女を人形に選んだのには理由があるはずだ。
誰でもいいのなら、ララキのいたイキエスとは違う国の、しかも行方不明になったら絶対に捜索されるような立場の娘を選ぶ必要はない。
貧民街の隅で燻っている身寄りのない孤児とか、もっと後腐れのない人材がいくらでもいる。
自殺未遂をしたことで乗っ取りやすくなったのかもしれないが、毎日世界中で何人も死んでいる。
紋唱術の素養があって、なおかつララキに頼られ信頼を得られる程度の実力があること、それが条件だったのではないか。
そもそもあのとき使っていた術と同じものをスニエリタは今でも使える。両手描きの技法も身につけている。
彼女が持ち得なかった技能など、一度も披露してはいなかった。
だから今のスニエリタにもできる。同じことが、できるようになる。
ミルンはそれを信じているから、今は敢えてこれ以上の手助けはしない。
それに獣を捕らえるのは自分でやったほうがいい。
「くっ……」
「スニエリタ、ずっと同じ術に相手が慣れてきたら、一度術を変えてみろ。そこで対応が遅れるのを狙え」
「はい、──嵐華の紋!」
横風から、上に吹き上げる縦の風。かつてミルンを苦しめた組み合わせだ。
まだまだ人間を持ち上げるほどの威力はないが、相手は小さくて軽いウサギだ、問題はない。
今までと違う風の向きに驚いてウサギが体勢を崩した、その瞬間。
「かっ──割葉の紋っ!」
逆に上から下へ、急激に風が吹き下ろされてウサギを押さえつける。
紋章が薄らぎ、暴れ蔦がふっと消えたのを見て、スニエリタはそ飛び込んだ。
彼女はしっかりとウサギを抱き締めると、続けて契約の紋唱を行う。
「せ……星光を湛えます大河の君、ペル・ヴィーラの名において命じます。あなたの紋章を映しなさい……そして、如何なるときもわたしの言葉を聞き、わたしの意思に応えるように……遣獣としての契約を結び、ここにあなたの名を明かしなさい……!」
ウサギはしばらくスニエリタの腕の中でもぞもぞしていた。小さな脚でシャツの胸元を引っ掻いて、まだ逃げる気を失ってはいない。
スニエリタはじっとそれに耐えながらウサギの答えを待つ。
しかしウサギが強力な後ろ足で腹部を蹴ると、あっと呻いて手を離してしまった。
急所にでも入ってしまったのかと思ったが、それよりずっと低いところを抑えながら、声にならない悲鳴を上げて蹲る。なぜか異常に痛そうにしている。
ミルンはすぐさま駆け寄ろうとして、なぜかウサギがその場から離れようとしないことに気づいた。
ウサギは彼女から飛び降りたところで立ち止まり、しかもそのままスニエリタのほうを振り返って、じっとようすを伺っているように見える。状況を探ろうとしているのか、鼻先がひくひく動いている。
たぶんこのウサギは、スニエリタのことを心配しているのだ。
ミルンはウサギの頭上に紋章のきらめきを見た。ウサギは前脚をちょっと伸ばして、スニエリタに尋ねた。
──大丈夫ですか?
「え……?」
『ごめんなさい、強く蹴ってしまって……血の匂いがしますけど、怪我してるんですか? 治しますか?』
「あ、いいえ、これは違うの、……ところで、あの、どうしてあなたは人の言葉で話せるの?」
『言葉が通じないと困るので契約しました。あ、私の名はフランジェです』
「えっ、……え? いいんですか?
わたし、強くもないし、上手でもないし、あなたのこと離してしまったのに、どうして契約を受けてくれたの?」
スニエリタは困惑しながらウサギに尋ねる。すると、ウサギは言った。
『あなたがとっても一生懸命だったから……それに、私が蹴ったせいで怪我をしたのだったら困るので、それを確認したかったんですけど……』
「そ……それだけ?」
『はい。それにあなたの術は優しいものばかりでした。荒っぽい人は苦手ですけど、あなたはそうじゃなさそうだと思ったので。
……ところでほんとうに大丈夫なんですか? すごく痛そうでしたよ、お腹』
「大丈夫です、ありがとう……あ、あり、がと……っ」
『え、え、なんで泣き出すんですか!? やっぱり痛むんですね!? ──きゃっ』
今度はウサギのほうが困惑したが、スニエリタはそれ以上何も言わずに彼女を抱き締めた。
フランジェと名乗ったウサギはしばらく腕の中であわあわしていたが、途中で意見を求めるようにミルンのほうを見てきたので、とりあえず頷いておいた。嬉し涙だから心配いらない、という意味を込めて。
通じたかどうかはわからないが。
そしてとりあえず不要になった壁を消しながら、スニエリタが泣きやむのを待った。
スニエリタとフランジェは招言詩を決めて一旦別れる。
ぴょこぴょこと走り去っていくウサギの後姿を、スニエリタは名残惜しそうに最後まで見送ってから、ようやくミルンのところに戻ってきた。泣き腫らした眼だが、表情は明るい。
よかったな、と言うと、こくりと頷く。ミルンも頷き返して、スニエリタの頭にぽんと手を置いた。
置いて、気づいた。無意識に頭を撫でようとしていることに。
弁解させてもらうなら完全に妹に対する感じでやってしまっているのだが、他意はないのだが、気づいてしまうとそれ以上何もできなくなってしまった。
無駄に数秒固まってから、どうしようもなくなって手を下ろす。
スニエリタはきょとんとしているが、それは撫でようとしたことではなく、手を下ろしたことに対してらしかった。
ララキの言葉が脳裏によぎる。
──どうでもいい男に頭を撫でられてあんな顔はしません!
あんな顔ってどんな顔だよ、とそのときは思ったが、今となってはその表情を確かめる勇気はミルンにはない。
よくわからないが、……確かにスニエリタに嫌がられたと思ったことはなかった。たぶん。
撫でる行為自体をまったく意識せずにやっていたので、いちいち確かめていたわけではないが、さすがに拒絶されたら気づくと思……いたい。
それに今気づいたが、ララキにはやった覚えが一度たりともない。
無意識だったわりにしっかりミルンの中で線引きがされている。そりゃあララキに気づかれるはずである。
「あの、……ミルンさん?」
「ああ、いや、その、がんばったな」
「すべてミルンさんのおかげです。ありがとうございますっ」
こちらの気など知らないスニエリタの笑顔が眩しい。それを見てまた胸の奥がぎりぎりと痛むが、今度はミルンはその意味を間違えることはなかった。
込み上げてきた感情でいっぱいになって、それが胸を内側から押し上げているから、それで苦しいのだ。
肺が潰れそうになっているから、もう息をすることさえしんどい。
手が震える。目の前のそれに触れたくてわななく指を、ぐっと握りこんで抑える。
「……戻るか。けっこう待たせちまってる」
そう言って顔を逸らした。自分が今どんな顔をしているのか、何かが滲んでしまっていないかと不安になったからだ。
ララキはああ言うが、簡単なことではない。限りなく不可能に近い。
できもしないことを声に出して宣言できるほどミルンは向こう見ずではないし、それに自分の一方的な感情でスニエリタを振り回すわけにはいかない。
だからこの気持ちは伝えないし、知られないようにする。
改めてそう思った。これからは迂闊に触れないようにもっと気をつけよう。
紋唱車のところまで戻ると、ずっと待たされていたララキがスニエリタの顔を見て、ぱっと笑った。聞かなくても成功したとわかるくらい笑顔だからだ。
その後、ふたりは座席で延々とウサギの話をしていた。
ミルンはその声だけ聞いて、ああこの距離がちょうどいいな、と思っていた。
姿が見えなくても、楽しそうな声がする。スニエリタが笑顔でいることが伝わってくる。
それだけで満たされる気がすると、自分に言い聞かせているだけかもしれないが、今のミルンにはそれが精一杯だった。
→
遣獣業者はたいてい大きな組合に入っていて、一旦各地で捕獲された獣たちを一箇所に集め、そこで特性や性質ごとに分けてから、それぞれが最も需要があると思われる店舗に分配している。
当然アウレアシノンの店なら軍人向けの個体が集められる。
好戦的で気性が荒いもの、攻撃系の能力に優れたもの、あるいは厳しい規律を好むもの。そのほか特定の能力に特化していて、軍の特定の部隊で重宝されるようなもの。
それらがスニエリタに合っているとは考えにくい。
しかも厳しい父親が同伴だったのなら、とくに扱いの難しい個体に会わされていた可能性もある。
将軍の娘なのだから、手強くとも能力の高いものを遣いこなせるだろう、そういうものを勧めるほうが将軍の覚えもよいだろう、と店の人間が考えるからだ。
ただでさえ気弱なスニエリタが、人間を品定めするのに慣れた檻の中の猛獣と対峙したって、そりゃあ成功はしないだろう。
獣は彼女の萎縮を見抜く。本心から望んでいないことも、彼女自身が契約できないと思っていることも伝わって、この娘には自分を扱うのは無理だろうと判断する……その場にいなくても容易に想像がつく。
だいたいにして、店にいる獣とは戦う必要がない。予め捕獲されて檻に入れられているのだから。
だから彼らにはわかるわけがないのだ、スニエリタがどんなにきれいな紋章を描けるのかも、それを行う彼女がどんなに美しいのかも。
スニエリタは、今、必死でウサギと戦っている。
幾つも紋章を描いて、何度も招言詩を唱えて、それがほんの少しでもウサギを足止めする力にならないかと、試行錯誤を重ねている。
その後姿を見ながら、ミルンは思っていた。もしかしたらこの姿に惹かれたのかもしれない。
フィナナのクラブでひどい負けかたをしたあの日に、紋唱を行うスニエリタの凛とした姿に、もしかして見とれてしまったのかもしれない。
今のスニエリタにあのときのような迫力はないけれど、根源は同じはずだ。
タヌマン・クリャが彼女を人形に選んだのには理由があるはずだ。
誰でもいいのなら、ララキのいたイキエスとは違う国の、しかも行方不明になったら絶対に捜索されるような立場の娘を選ぶ必要はない。
貧民街の隅で燻っている身寄りのない孤児とか、もっと後腐れのない人材がいくらでもいる。
自殺未遂をしたことで乗っ取りやすくなったのかもしれないが、毎日世界中で何人も死んでいる。
紋唱術の素養があって、なおかつララキに頼られ信頼を得られる程度の実力があること、それが条件だったのではないか。
そもそもあのとき使っていた術と同じものをスニエリタは今でも使える。両手描きの技法も身につけている。
彼女が持ち得なかった技能など、一度も披露してはいなかった。
だから今のスニエリタにもできる。同じことが、できるようになる。
ミルンはそれを信じているから、今は敢えてこれ以上の手助けはしない。
それに獣を捕らえるのは自分でやったほうがいい。
「くっ……」
「スニエリタ、ずっと同じ術に相手が慣れてきたら、一度術を変えてみろ。そこで対応が遅れるのを狙え」
「はい、──嵐華の紋!」
横風から、上に吹き上げる縦の風。かつてミルンを苦しめた組み合わせだ。
まだまだ人間を持ち上げるほどの威力はないが、相手は小さくて軽いウサギだ、問題はない。
今までと違う風の向きに驚いてウサギが体勢を崩した、その瞬間。
「かっ──割葉の紋っ!」
逆に上から下へ、急激に風が吹き下ろされてウサギを押さえつける。
紋章が薄らぎ、暴れ蔦がふっと消えたのを見て、スニエリタはそ飛び込んだ。
彼女はしっかりとウサギを抱き締めると、続けて契約の紋唱を行う。
「せ……星光を湛えます大河の君、ペル・ヴィーラの名において命じます。あなたの紋章を映しなさい……そして、如何なるときもわたしの言葉を聞き、わたしの意思に応えるように……遣獣としての契約を結び、ここにあなたの名を明かしなさい……!」
ウサギはしばらくスニエリタの腕の中でもぞもぞしていた。小さな脚でシャツの胸元を引っ掻いて、まだ逃げる気を失ってはいない。
スニエリタはじっとそれに耐えながらウサギの答えを待つ。
しかしウサギが強力な後ろ足で腹部を蹴ると、あっと呻いて手を離してしまった。
急所にでも入ってしまったのかと思ったが、それよりずっと低いところを抑えながら、声にならない悲鳴を上げて蹲る。なぜか異常に痛そうにしている。
ミルンはすぐさま駆け寄ろうとして、なぜかウサギがその場から離れようとしないことに気づいた。
ウサギは彼女から飛び降りたところで立ち止まり、しかもそのままスニエリタのほうを振り返って、じっとようすを伺っているように見える。状況を探ろうとしているのか、鼻先がひくひく動いている。
たぶんこのウサギは、スニエリタのことを心配しているのだ。
ミルンはウサギの頭上に紋章のきらめきを見た。ウサギは前脚をちょっと伸ばして、スニエリタに尋ねた。
──大丈夫ですか?
「え……?」
『ごめんなさい、強く蹴ってしまって……血の匂いがしますけど、怪我してるんですか? 治しますか?』
「あ、いいえ、これは違うの、……ところで、あの、どうしてあなたは人の言葉で話せるの?」
『言葉が通じないと困るので契約しました。あ、私の名はフランジェです』
「えっ、……え? いいんですか?
わたし、強くもないし、上手でもないし、あなたのこと離してしまったのに、どうして契約を受けてくれたの?」
スニエリタは困惑しながらウサギに尋ねる。すると、ウサギは言った。
『あなたがとっても一生懸命だったから……それに、私が蹴ったせいで怪我をしたのだったら困るので、それを確認したかったんですけど……』
「そ……それだけ?」
『はい。それにあなたの術は優しいものばかりでした。荒っぽい人は苦手ですけど、あなたはそうじゃなさそうだと思ったので。
……ところでほんとうに大丈夫なんですか? すごく痛そうでしたよ、お腹』
「大丈夫です、ありがとう……あ、あり、がと……っ」
『え、え、なんで泣き出すんですか!? やっぱり痛むんですね!? ──きゃっ』
今度はウサギのほうが困惑したが、スニエリタはそれ以上何も言わずに彼女を抱き締めた。
フランジェと名乗ったウサギはしばらく腕の中であわあわしていたが、途中で意見を求めるようにミルンのほうを見てきたので、とりあえず頷いておいた。嬉し涙だから心配いらない、という意味を込めて。
通じたかどうかはわからないが。
そしてとりあえず不要になった壁を消しながら、スニエリタが泣きやむのを待った。
スニエリタとフランジェは招言詩を決めて一旦別れる。
ぴょこぴょこと走り去っていくウサギの後姿を、スニエリタは名残惜しそうに最後まで見送ってから、ようやくミルンのところに戻ってきた。泣き腫らした眼だが、表情は明るい。
よかったな、と言うと、こくりと頷く。ミルンも頷き返して、スニエリタの頭にぽんと手を置いた。
置いて、気づいた。無意識に頭を撫でようとしていることに。
弁解させてもらうなら完全に妹に対する感じでやってしまっているのだが、他意はないのだが、気づいてしまうとそれ以上何もできなくなってしまった。
無駄に数秒固まってから、どうしようもなくなって手を下ろす。
スニエリタはきょとんとしているが、それは撫でようとしたことではなく、手を下ろしたことに対してらしかった。
ララキの言葉が脳裏によぎる。
──どうでもいい男に頭を撫でられてあんな顔はしません!
あんな顔ってどんな顔だよ、とそのときは思ったが、今となってはその表情を確かめる勇気はミルンにはない。
よくわからないが、……確かにスニエリタに嫌がられたと思ったことはなかった。たぶん。
撫でる行為自体をまったく意識せずにやっていたので、いちいち確かめていたわけではないが、さすがに拒絶されたら気づくと思……いたい。
それに今気づいたが、ララキにはやった覚えが一度たりともない。
無意識だったわりにしっかりミルンの中で線引きがされている。そりゃあララキに気づかれるはずである。
「あの、……ミルンさん?」
「ああ、いや、その、がんばったな」
「すべてミルンさんのおかげです。ありがとうございますっ」
こちらの気など知らないスニエリタの笑顔が眩しい。それを見てまた胸の奥がぎりぎりと痛むが、今度はミルンはその意味を間違えることはなかった。
込み上げてきた感情でいっぱいになって、それが胸を内側から押し上げているから、それで苦しいのだ。
肺が潰れそうになっているから、もう息をすることさえしんどい。
手が震える。目の前のそれに触れたくてわななく指を、ぐっと握りこんで抑える。
「……戻るか。けっこう待たせちまってる」
そう言って顔を逸らした。自分が今どんな顔をしているのか、何かが滲んでしまっていないかと不安になったからだ。
ララキはああ言うが、簡単なことではない。限りなく不可能に近い。
できもしないことを声に出して宣言できるほどミルンは向こう見ずではないし、それに自分の一方的な感情でスニエリタを振り回すわけにはいかない。
だからこの気持ちは伝えないし、知られないようにする。
改めてそう思った。これからは迂闊に触れないようにもっと気をつけよう。
紋唱車のところまで戻ると、ずっと待たされていたララキがスニエリタの顔を見て、ぱっと笑った。聞かなくても成功したとわかるくらい笑顔だからだ。
その後、ふたりは座席で延々とウサギの話をしていた。
ミルンはその声だけ聞いて、ああこの距離がちょうどいいな、と思っていた。
姿が見えなくても、楽しそうな声がする。スニエリタが笑顔でいることが伝わってくる。
それだけで満たされる気がすると、自分に言い聞かせているだけかもしれないが、今のミルンにはそれが精一杯だった。
→
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる