11 / 215
南の国 イキエス
011 国境の町ピテフ
しおりを挟む
:::
スニエリタのお陰で快適な空の旅になった。
一行はその日の昼下がりにはピテフの町に到着し、国境を越えるための手続きもできたし、夜は教会で寝かせてもらえることにもなった。いいこと尽くめだ。
ちゃんとした宿に泊まるスニエリタとはここで別れ、ふたりは教会へ。
夕食だけはどうにもならなかったが、ララキの持ってきた携帯食料で最低限の腹ごしらえをした。
ぱっさぱさの乾燥食料を川の水でふやかしたもので、味はお世辞にも鶏の餌より美味くないような代物だが、何もないよりはマシである。
ちなみにミルンの感想としては、これまでの人生で食べたもののなかでいちばん不味いとのこと。でもこれ、不味いかわりに水にさえ触れさせなければ十年くらい保つという超長期保存食料なのだ。
明日はきっとお金を稼いで美味しいものを食べよう、とふたりは固く誓った。ジェッケの夜が今はただ懐かしい。
「ところで改めて確認しとこう。俺は水属性の紋唱が得意だ。
遣獣はミーが炎の属性で、基本的には攻撃より守りに特化してる。アルヌは岩属性で、あの性格だから喧嘩っ早い。シェンダルは氷属性で冷静なやつだけど、ある意味こいつも性格に少し難がある」
「あたしはしいていえば炎属性が得意かな。プンタンは水属性。ほかに遣獣は持ってない」
「……おまえにも得意とかあるんだな、ちゃんと」
「失礼な。あのね、スニエリタに言われたんだけど、描くのは速いって」
胸を張りぎみに言うと、そりゃわかってるよ、という意外な返事が返ってきた。ミルンもそう思ってくれていたのか。
「速いかわりに何もかもがクッソ雑だけどな」
そしてスニエリタが言っていたのと同じ意味合いの言葉を何倍にも汚くして返された。おまえもそう思ってたんかい。
「むーっ……じゃあどういうとこ気をつければいい?」
「お、前向きだな。いいこった。
そうだな、まず線の太さを均一にするように心がけたほうがいい。こう、円を描いたときに出だしが太くて後半が細くなると、それだけで繋がりにくくなるだろ。円の破綻は初歩的だが起こりやすいミスだからな」
「なるほど。そういやスニエリタにも円が繋がってないって言われた」
「彼女けっこうしっかり見てるな。遣獣も立派なの連れてたし、ありゃマジでどっかのいいとこのお嬢さまなんだろうが、どこの学校で学んだんだろう。一回ちゃんと紋唱を使うところを見たかったな」
なんかやたらとしみじみとした口調でミルンが言う。
どうもミルンは彼女に心酔しているようだ。まあ、気持ちはわからないでもない。あれだけかわいくて、しかもたった二日でかなりいろいろ世話になってしまったのだから。
そういえばマヌルドの出身だと言ってたな、と思ったララキは、マヌルドの学校じゃないのとそのまま口にした。
ミルンが固まる。──マヌルドだって? 聞き返す声が少し震えているような気がした。
そういえば、彼の兄もマヌルドの学校に留学していたのだった。そしてそこで、何か嫌な思いをしたせいで失踪した、というか、終わりの見えない旅に出てしまったと考えられている。
そのせいか、ミルンは自分がマヌルドに行ったわけではないのに、マヌルドに対して強いコンプレックスがあるのかもしれない。
あるいは兄を探す旅の過程でマヌルドにも行ったのだろうか。
「マヌルド人なのか、スニエリタさん」
「うん、そう言ってたよ。マヌルドのどこらへんかまでは聞いてないけど。身なりよかったし都会の人っぽいよね」
「そうか。……俺が水ハーシ人だって言ったら、どんな顔したかな、彼女」
「どうだろ。すっごくいい人だし、ぜんぜん気にせず優しくしてくれるんじゃないかなあ」
だといいけどな、と呟くミルンは、まるで失恋でもしたみたいな顔をしていた。
ちょっとした夢が失われたようだった。これは黙っておいたほうが正解だったな、とララキは少しだけ反省した。
でも、それを言ったらララキだって、イキエス人のふりした"呪われた民"出身者なので、身元を明かしたら誰にどんな顔をされるかわかったものではない。
もっともこちらの場合はすでに滅んだとされている民族なので、そんなことを言ったところで信じてくれる人はそういないだろう。笑えない冗談扱いされて終わるのが落ちだ。
ともかくその日はミルンが意気消沈してしまったので、それ以上教わることもなく就寝の時間を迎えた。
なぜかミルンは気を遣い、ララキを扉に鍵がかけられる内側の部屋に寝かせ、自分は隙間風の入ってくる外側の部屋で寝ると申し出た。
一応女の子として扱ってくれたようだった。そういえばこの人男だったな、とあまりにも今さら思いながら、ララキはちょっと申し訳ない気持ちで扉を施錠する。ほんとうなら怪我人を温かい部屋に寝かせたほうがいいのに。
なかなか寝付けなくて、ぼんやりといろんなことを考えた。
アンハナケウのこと。
どうやって辿り着けばいいかは置いておいて、そこでクシエリスルの神々にどうやってシッカへの制裁を解くように嘆願すればいいだろう。どんな言葉で説得すれば聞き入れてもらえるのだろう。
ミルンのこと、というより彼のお兄さんのこと。
いったいマヌルドの学校でどんな目にあったのだろう。彼は今どこにいて、何を見て、……アンハナケウのことをどこまで掴んでいるのだろう。
もしこの旅の中で会えたなら、どうにかして協力してもらえないだろうか。神童とまで呼ばれた人ならきっと頼りになるはずだ。
そういえばどんな人なのかは聞いていない。ミルンはちょくちょく「あいつ」なんて言っているから、きっと仲がよかったんだろうけれど。
いつの間にか眠っていて、いつの間にか朝が来ていた。扉をノックする音で眼が醒めた。
服装をきちんと整えてから外へ出ると、教会の椅子に腰かけて待っていたミルンが、今日はどうする、と聞いてきた。
これまではララキが聞いてきた言葉だ。ほんとうに一緒に旅をするんだなと改めて思い、なんだか嬉しかった。
「手続きは済んでるから今日中ならいつでも国境は越えられる。先に金稼いだほうがいいんじゃないかと俺は思う」
「そうだね。……ああそっか、そりゃあ朝ごはんもないよね。乾燥草粥ならまだあるけど」
「あれは当分食いたくねえ……それくらいなら俺は朝飯抜きでいい」
味を思い出したのか、ミルンはげんなりとした顔で言った。そんなに嫌だったのか。
とりあえず国境越えの道筋を確認していると、ここの教会の祭司がやってきた。泊まらせてもらったお礼を言って、ついでに何か仕事がなさそうか聞いてみると、それならいいところがある、と返ってきた。
ここまでトラブルの連続だった旅が、なんだかスニエリタに会ってから幸運に恵まれている気がする。彼女はそういう風をも運んでいるのだろうか。
そこでララキはふとアンハナケウのおとぎ話の定型パターンを思い浮かべた──旅人に親切にしてあげたら実はその人の正体は神だった、というやつだ。
スニエリタさん女神説の誕生であった。
だが、親切にされっぱなしでこちらは何もしてあげていないのが気になる。あとですごい返礼を求められる落ちが待っているかもしれない。
ともかく祭司の案内で、ふたりは町中のとある建物へ連れていかれた。
どうやら室内には机がふたつほどあるようだが、そのほとんどは大量の書類で埋まっているので、もしかしたら影にもうひとつ隠れていてもおかしくない。
そんな雑然とした何かの事務所だった。書類の整理が追いついていないのか床にまで散らばっている。
人がいるようには見えなかったが、祭司は誰かに向かって呼びかける。──エッシェルさん、連れてきたよ、と。
すると書類の山ががたがた揺れて、その中からひょっこり人間の頭が飛び出したので、ララキは驚いて思わず一歩下がった。こんなに気配のない人間は初めて見た。
一方ミルンはララキほどは驚かず、人いたのか、と呟いた程度だった。
エッシェルという頭の寂しいおじさんは、この事務所の主であり、雑用をやってくれる人を探していたらしい。
「しかし二人も来てくれるとはね。うちはとりあえず一人いりゃあいいから、うーん……もう一人は広場で大道芸でもやったらどうだね」
「ああ……それあんまり儲からないんですよ」
ミルンが実感のこもった感じで返したところから、どうも彼にはそんなような経験があるようだ。
町の広場で儲からない大道芸をする彼はちょっと見てみたい気がしなくもない。アルヌが火の輪をくぐったりするんだろうか。
ともかく一人で充分だというので、ミルンは出て行ってしまった。
雑用だったらララキでもできるだろ。俺は別で探してくるわ。……という捨て台詞を残して。
「相変わらず棘のある言いかたするね……まあいいけどさ、紋唱使う必要もなさそうだし。エッシェルさん、雑用って具体的に何すればいいの?」
「見てのとおりだよ。まずこの書類の山をどうにか片付けんのさ……」
なんだかエッシェルは遠い目をしていた。
この事務所は、昨日ララキたちが国境越えの手続きをした事務所の隣にある。よくわからないがその関係でこんなことになるらしい。
彼が説明してくれたところによると、手続きに使用した書類は一定期間隣の事務所で保管して、そのあとまとめてこちらに移されるので、エッシェルが改めて保管するか処分するかなどを決めているとのこと。
こんなに溜まってしまったのはエッシェルがここ最近しばらく体調を崩して休んでいたのと、他の業務に追われて書類整理を後回しにしてしまった結果らしい。
とにかくララキに出された指示としては、まず全部の書類を「特定のマスに判が捺してあるものとそうでないもの」に分ける作業だった。
しかもそれを手続きを受けた人の国籍別に並べる、色つきの付箋があるものとそうでないものも分ける、日付の古いものから順になるようにする、という作業が後から後から追加されていた。
エッシェルさんは指示を出すのがあまり得意でないらしく、最初に全部言ってくれればよいものを、いったい何回「あっ言い忘れてたけど」と言われたことか。たぶん誰かに手伝ってもらうことが普段あまりないからだろう。
とにかくララキはそんな調子で昼まで振り回され続けた。
→
スニエリタのお陰で快適な空の旅になった。
一行はその日の昼下がりにはピテフの町に到着し、国境を越えるための手続きもできたし、夜は教会で寝かせてもらえることにもなった。いいこと尽くめだ。
ちゃんとした宿に泊まるスニエリタとはここで別れ、ふたりは教会へ。
夕食だけはどうにもならなかったが、ララキの持ってきた携帯食料で最低限の腹ごしらえをした。
ぱっさぱさの乾燥食料を川の水でふやかしたもので、味はお世辞にも鶏の餌より美味くないような代物だが、何もないよりはマシである。
ちなみにミルンの感想としては、これまでの人生で食べたもののなかでいちばん不味いとのこと。でもこれ、不味いかわりに水にさえ触れさせなければ十年くらい保つという超長期保存食料なのだ。
明日はきっとお金を稼いで美味しいものを食べよう、とふたりは固く誓った。ジェッケの夜が今はただ懐かしい。
「ところで改めて確認しとこう。俺は水属性の紋唱が得意だ。
遣獣はミーが炎の属性で、基本的には攻撃より守りに特化してる。アルヌは岩属性で、あの性格だから喧嘩っ早い。シェンダルは氷属性で冷静なやつだけど、ある意味こいつも性格に少し難がある」
「あたしはしいていえば炎属性が得意かな。プンタンは水属性。ほかに遣獣は持ってない」
「……おまえにも得意とかあるんだな、ちゃんと」
「失礼な。あのね、スニエリタに言われたんだけど、描くのは速いって」
胸を張りぎみに言うと、そりゃわかってるよ、という意外な返事が返ってきた。ミルンもそう思ってくれていたのか。
「速いかわりに何もかもがクッソ雑だけどな」
そしてスニエリタが言っていたのと同じ意味合いの言葉を何倍にも汚くして返された。おまえもそう思ってたんかい。
「むーっ……じゃあどういうとこ気をつければいい?」
「お、前向きだな。いいこった。
そうだな、まず線の太さを均一にするように心がけたほうがいい。こう、円を描いたときに出だしが太くて後半が細くなると、それだけで繋がりにくくなるだろ。円の破綻は初歩的だが起こりやすいミスだからな」
「なるほど。そういやスニエリタにも円が繋がってないって言われた」
「彼女けっこうしっかり見てるな。遣獣も立派なの連れてたし、ありゃマジでどっかのいいとこのお嬢さまなんだろうが、どこの学校で学んだんだろう。一回ちゃんと紋唱を使うところを見たかったな」
なんかやたらとしみじみとした口調でミルンが言う。
どうもミルンは彼女に心酔しているようだ。まあ、気持ちはわからないでもない。あれだけかわいくて、しかもたった二日でかなりいろいろ世話になってしまったのだから。
そういえばマヌルドの出身だと言ってたな、と思ったララキは、マヌルドの学校じゃないのとそのまま口にした。
ミルンが固まる。──マヌルドだって? 聞き返す声が少し震えているような気がした。
そういえば、彼の兄もマヌルドの学校に留学していたのだった。そしてそこで、何か嫌な思いをしたせいで失踪した、というか、終わりの見えない旅に出てしまったと考えられている。
そのせいか、ミルンは自分がマヌルドに行ったわけではないのに、マヌルドに対して強いコンプレックスがあるのかもしれない。
あるいは兄を探す旅の過程でマヌルドにも行ったのだろうか。
「マヌルド人なのか、スニエリタさん」
「うん、そう言ってたよ。マヌルドのどこらへんかまでは聞いてないけど。身なりよかったし都会の人っぽいよね」
「そうか。……俺が水ハーシ人だって言ったら、どんな顔したかな、彼女」
「どうだろ。すっごくいい人だし、ぜんぜん気にせず優しくしてくれるんじゃないかなあ」
だといいけどな、と呟くミルンは、まるで失恋でもしたみたいな顔をしていた。
ちょっとした夢が失われたようだった。これは黙っておいたほうが正解だったな、とララキは少しだけ反省した。
でも、それを言ったらララキだって、イキエス人のふりした"呪われた民"出身者なので、身元を明かしたら誰にどんな顔をされるかわかったものではない。
もっともこちらの場合はすでに滅んだとされている民族なので、そんなことを言ったところで信じてくれる人はそういないだろう。笑えない冗談扱いされて終わるのが落ちだ。
ともかくその日はミルンが意気消沈してしまったので、それ以上教わることもなく就寝の時間を迎えた。
なぜかミルンは気を遣い、ララキを扉に鍵がかけられる内側の部屋に寝かせ、自分は隙間風の入ってくる外側の部屋で寝ると申し出た。
一応女の子として扱ってくれたようだった。そういえばこの人男だったな、とあまりにも今さら思いながら、ララキはちょっと申し訳ない気持ちで扉を施錠する。ほんとうなら怪我人を温かい部屋に寝かせたほうがいいのに。
なかなか寝付けなくて、ぼんやりといろんなことを考えた。
アンハナケウのこと。
どうやって辿り着けばいいかは置いておいて、そこでクシエリスルの神々にどうやってシッカへの制裁を解くように嘆願すればいいだろう。どんな言葉で説得すれば聞き入れてもらえるのだろう。
ミルンのこと、というより彼のお兄さんのこと。
いったいマヌルドの学校でどんな目にあったのだろう。彼は今どこにいて、何を見て、……アンハナケウのことをどこまで掴んでいるのだろう。
もしこの旅の中で会えたなら、どうにかして協力してもらえないだろうか。神童とまで呼ばれた人ならきっと頼りになるはずだ。
そういえばどんな人なのかは聞いていない。ミルンはちょくちょく「あいつ」なんて言っているから、きっと仲がよかったんだろうけれど。
いつの間にか眠っていて、いつの間にか朝が来ていた。扉をノックする音で眼が醒めた。
服装をきちんと整えてから外へ出ると、教会の椅子に腰かけて待っていたミルンが、今日はどうする、と聞いてきた。
これまではララキが聞いてきた言葉だ。ほんとうに一緒に旅をするんだなと改めて思い、なんだか嬉しかった。
「手続きは済んでるから今日中ならいつでも国境は越えられる。先に金稼いだほうがいいんじゃないかと俺は思う」
「そうだね。……ああそっか、そりゃあ朝ごはんもないよね。乾燥草粥ならまだあるけど」
「あれは当分食いたくねえ……それくらいなら俺は朝飯抜きでいい」
味を思い出したのか、ミルンはげんなりとした顔で言った。そんなに嫌だったのか。
とりあえず国境越えの道筋を確認していると、ここの教会の祭司がやってきた。泊まらせてもらったお礼を言って、ついでに何か仕事がなさそうか聞いてみると、それならいいところがある、と返ってきた。
ここまでトラブルの連続だった旅が、なんだかスニエリタに会ってから幸運に恵まれている気がする。彼女はそういう風をも運んでいるのだろうか。
そこでララキはふとアンハナケウのおとぎ話の定型パターンを思い浮かべた──旅人に親切にしてあげたら実はその人の正体は神だった、というやつだ。
スニエリタさん女神説の誕生であった。
だが、親切にされっぱなしでこちらは何もしてあげていないのが気になる。あとですごい返礼を求められる落ちが待っているかもしれない。
ともかく祭司の案内で、ふたりは町中のとある建物へ連れていかれた。
どうやら室内には机がふたつほどあるようだが、そのほとんどは大量の書類で埋まっているので、もしかしたら影にもうひとつ隠れていてもおかしくない。
そんな雑然とした何かの事務所だった。書類の整理が追いついていないのか床にまで散らばっている。
人がいるようには見えなかったが、祭司は誰かに向かって呼びかける。──エッシェルさん、連れてきたよ、と。
すると書類の山ががたがた揺れて、その中からひょっこり人間の頭が飛び出したので、ララキは驚いて思わず一歩下がった。こんなに気配のない人間は初めて見た。
一方ミルンはララキほどは驚かず、人いたのか、と呟いた程度だった。
エッシェルという頭の寂しいおじさんは、この事務所の主であり、雑用をやってくれる人を探していたらしい。
「しかし二人も来てくれるとはね。うちはとりあえず一人いりゃあいいから、うーん……もう一人は広場で大道芸でもやったらどうだね」
「ああ……それあんまり儲からないんですよ」
ミルンが実感のこもった感じで返したところから、どうも彼にはそんなような経験があるようだ。
町の広場で儲からない大道芸をする彼はちょっと見てみたい気がしなくもない。アルヌが火の輪をくぐったりするんだろうか。
ともかく一人で充分だというので、ミルンは出て行ってしまった。
雑用だったらララキでもできるだろ。俺は別で探してくるわ。……という捨て台詞を残して。
「相変わらず棘のある言いかたするね……まあいいけどさ、紋唱使う必要もなさそうだし。エッシェルさん、雑用って具体的に何すればいいの?」
「見てのとおりだよ。まずこの書類の山をどうにか片付けんのさ……」
なんだかエッシェルは遠い目をしていた。
この事務所は、昨日ララキたちが国境越えの手続きをした事務所の隣にある。よくわからないがその関係でこんなことになるらしい。
彼が説明してくれたところによると、手続きに使用した書類は一定期間隣の事務所で保管して、そのあとまとめてこちらに移されるので、エッシェルが改めて保管するか処分するかなどを決めているとのこと。
こんなに溜まってしまったのはエッシェルがここ最近しばらく体調を崩して休んでいたのと、他の業務に追われて書類整理を後回しにしてしまった結果らしい。
とにかくララキに出された指示としては、まず全部の書類を「特定のマスに判が捺してあるものとそうでないもの」に分ける作業だった。
しかもそれを手続きを受けた人の国籍別に並べる、色つきの付箋があるものとそうでないものも分ける、日付の古いものから順になるようにする、という作業が後から後から追加されていた。
エッシェルさんは指示を出すのがあまり得意でないらしく、最初に全部言ってくれればよいものを、いったい何回「あっ言い忘れてたけど」と言われたことか。たぶん誰かに手伝ってもらうことが普段あまりないからだろう。
とにかくララキはそんな調子で昼まで振り回され続けた。
→
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
集団転送で異世界へ。 ~神の気まぐれによって?異世界生活~
武雅
ファンタジー
永遠の時に存在する神ネレースの気まぐれによって? その創造神ネレースが管理する異世界に日本から30000人が転送されてしまう。
異世界に転送される前になぜか神ネレースとの面談があり、提示された職業に自分の思い通りの職業が無かったので神にダメ元で希望を言ってみたら希望の職業と望みを叶えられその代償として他の転送者よりも過酷な辺境にある秘境の山奥に送られ元の世界に戻りたい以前に速攻で生命の危機にさらされてしまう!
神が面白半分で決めた事象を達成するとその順位により様々な恩恵を授けるとのこと。
「とりあえず町を目指せ!村ではなく町だ!!」とそれ以外特に神ネレースより目的も与えられず転送された人々は・・
主人公は希望の職業を要求した代償としていきなり森を彷徨いゴブリンに追われることに。
神に与えられた職業の能力を使い、チートを目指し、無事に異世界を生き抜くことを目指しつつ自分と同じ転送された人々を探し現実世界への帰還を模索をはじめる。
習慣も風俗も法律も違う異世界はトラブルだらけで息つく暇もなく、転送されたほかの人たちも暴走し・迷走し、異世界からの人々をめぐって国家単位で争奪戦勃発!?
その時、日本では謎の集団集団失踪や、令和のミステリーとして国家もマスコミも世間も大騒ぎ?
転送された人々は無事に元の世界にかえれるのか、それとも異世界の住人になって一生をおえるのか。
それを眺め娯楽とする神の本当の目的は・・・。
※本作は完結まで完成している小説になりますので毎日投降致します。
初作品の為、右も左も分からず作った作品の為、ですます調、口調のブレが激しいですが温かい目でお読み頂ければ幸いでございます。
【完結】トリマーだった私が異世界という別の場所で生きていく事になりました。
まりぃべる
恋愛
私、大橋れな。小さな頃から動物が好きで、念願のトリマーの職に就いて三年。そろそろ独立しようかと考えていた矢先、車に轢かれたと思う。だけど気が付いたら、全く知らない場所で、周りの人達も全然違う感じで、外国みたい。でも言葉は通じるの。いやこれはどうやら異世界に来ちゃったみたい。
私はきっと前の世界では命を落としたのだから、ここで生きていけるのならと、拾われたエイダさんと共同生活する事になった。
エイダさんの仕事を手伝いながら、自分がやりたかった事とは多少違っても皆が喜んでくれるし、仕事が出来るって有意義だと思っていた。
でも、異世界から来た人は王宮に報告に行かないといけないらしい。エイダさんとは別れて、保護下に置かれる為王宮内で新しく生活をするのだけれど、いつの間にか結婚相手まで!?
☆現実世界でも似た名前、地域、単語、言葉、表現などがありますがまりぃべるの世界観ですので、全く関係がありません。緩い世界ですので、そのように読んでいただけると幸いです。
☆現実世界で似たような言い回しの、まりぃべるが勝手に作った言葉や単語も出てきますが、そういう世界として読んでいただけると幸いです。
☆専門の職業の事が出てきますが、まりぃべるは専門の知識がありませんので実際とは異なる事が多々出てきますが、創作の世界として読んでいただけると助かります。
☆動物との触れ合いは少ないです。
☆完結していますので、随時更新していきます。全三十二話です。
転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。
全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。
そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。
人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。
1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。
異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります!
【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】
始まりは最悪でも幸せとは出会えるものです
夢々(むむ)
ファンタジー
今世の家庭環境が最低最悪な前世の記憶持ちの少女ラフィリア。5歳になりこのままでは両親に売られ奴隷人生まっしぐらになってしまうっっ...との思いから必死で逃げた先で魔法使いのおじいさんに出会い、ほのぼのスローライフを手に入れる............予定☆(初投稿・ノープロット・気まぐれ更新です(*´ω`*))※思いつくままに書いているので途中書き直すこともあるかもしれません(;^ω^)
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる