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第26話 登校
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「大学来てるの初めて見た…顔ちっさ」
「デビュー前に仲良くなっておけばよかった~」
俺はテストを受けるために久々に大学に登校していた。
オーディション番組に出る前はほぼ毎日通っていたのにここ最近はほとんど来れていなかった。オンライン授業や、登校しても別室で授業を受けていたため考えるとほぼ2ヶ月ぶりの登校だった。
デビューが決まったタイミングで大学を辞めることも考えたが、がんばって受験勉強して入学したこともあるし、合格が決まった時に喜んでくれた家族やお金を工面してくれた両親のことを思うと時間がかかっても卒業したい思いがあった。
しかし、さすがにこれは考え直した方がいいかもしれない。
どこから俺の今日の予定を知ったのか知らないが本日最後のテストを受け終わると講義室の出口あたりに女子生徒が出待ちをして長蛇の列を作っていた。
「この前のnana見ました!最高でしたー!あ、オーディションの時からずっと応援してて大好きです」
無遠慮に体に触ってくる人もいて、正直一刻も早く帰りたいがとびきりの営業スマイルで対応する。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「キャー!本当かっこいいです!写真撮ってもらってもいいですか?」
「ごめんなさい、写真は事務所に止められてて…」
写真は一応断るが、四方八方からシャッター音が聞こえてくるので無駄だろう。
ファンライブ前に撮影した雑誌nanaのグラビアがSNSでバズり、今俺は一躍時の人となっていた。
警備の人が離れるように呼びかけているが、集まった学生たちは聞く耳を持たず、どんどん人だかりが増えている。
どうしたものかと悩んでいるところで電話が鳴った。画面には佐藤さんというマネージャーさんの名前が表示されている。
「もしもし、佐藤さん?」
「瑠衣!電話つながってよかった。SNSみたけど大丈夫?」
「SNS?」
「見てない?大学の瑠衣が囲まれてる動画めっちゃ回ってる。かなり集まっちゃってる?抜けられなさそう?あ、そもぞ怪我はないか?」
佐藤さんはまだ若いマネージャーさんで、普段はほんわかした人だが、今は電話口でもかなり焦っているのが伝わる。
「一応今のところ大丈夫です。今日この後スケジュールどんな感じでしたっけ?ちょっとまだ帰れそうになくて…すみません」
「いやいや1人で行かせたこっちのミスだから!今迎えに向かってるからもうしばらく耐えてもらっていいか?」
「わかりました…ご迷惑おかけします」
電話を切ると、人が人を呼んでいるのか先ほどよりもさらに学生が集まっていて最早満員電車並みの混雑具合だ。
本来ならここまで人が来る前に抜けないといけなかったのに。こうなってしまった以上一旦佐藤さんが言っていたお迎えが来るまでは待機するしかなさそうだ。
「瑠衣、ファンミーティングでもしてんの?」
どうしたものかと悩んでいると、後ろから声がした。聞き慣れた声に振り返ると一年の時からの友人の姿が見えた。
「凛!」
「教授と話してて遅くなったけどなにこれ」
「ごめん、気づいたら出られなくなっちゃった」
凛は呆れ顔で大きくため息をついたあと、ぱっと俺の手首をつかんで歩き出した。凛は人混みをものともせず、俺を引っ張りながら半ば強引にどんどん前に進んでいく。
「こんなに集まられて出口塞がれたら迷惑なんで。通してね~」
凛はかなり長身なので圧に負けたのか、先ほどまでの混乱が嘘のように集まった女の子たちが道を開けていく。
「お前、すご」
「瑠衣が鈍臭すぎ」
凛とはぐれないようにピッタリ背中にくっついて人混みを進んでいく。
なんとか中の人混みを抜けて外に出ることができたがまだ佐藤さんから連絡はなく、無数の視線とスマホが向けられているのを感じる。
「走るよ」
凛は俺にしか聞こえないくらいの小さな声でそう言うと手を繋ぎ直し、一気に俺の手を引いて走り出した。
「デビュー前に仲良くなっておけばよかった~」
俺はテストを受けるために久々に大学に登校していた。
オーディション番組に出る前はほぼ毎日通っていたのにここ最近はほとんど来れていなかった。オンライン授業や、登校しても別室で授業を受けていたため考えるとほぼ2ヶ月ぶりの登校だった。
デビューが決まったタイミングで大学を辞めることも考えたが、がんばって受験勉強して入学したこともあるし、合格が決まった時に喜んでくれた家族やお金を工面してくれた両親のことを思うと時間がかかっても卒業したい思いがあった。
しかし、さすがにこれは考え直した方がいいかもしれない。
どこから俺の今日の予定を知ったのか知らないが本日最後のテストを受け終わると講義室の出口あたりに女子生徒が出待ちをして長蛇の列を作っていた。
「この前のnana見ました!最高でしたー!あ、オーディションの時からずっと応援してて大好きです」
無遠慮に体に触ってくる人もいて、正直一刻も早く帰りたいがとびきりの営業スマイルで対応する。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「キャー!本当かっこいいです!写真撮ってもらってもいいですか?」
「ごめんなさい、写真は事務所に止められてて…」
写真は一応断るが、四方八方からシャッター音が聞こえてくるので無駄だろう。
ファンライブ前に撮影した雑誌nanaのグラビアがSNSでバズり、今俺は一躍時の人となっていた。
警備の人が離れるように呼びかけているが、集まった学生たちは聞く耳を持たず、どんどん人だかりが増えている。
どうしたものかと悩んでいるところで電話が鳴った。画面には佐藤さんというマネージャーさんの名前が表示されている。
「もしもし、佐藤さん?」
「瑠衣!電話つながってよかった。SNSみたけど大丈夫?」
「SNS?」
「見てない?大学の瑠衣が囲まれてる動画めっちゃ回ってる。かなり集まっちゃってる?抜けられなさそう?あ、そもぞ怪我はないか?」
佐藤さんはまだ若いマネージャーさんで、普段はほんわかした人だが、今は電話口でもかなり焦っているのが伝わる。
「一応今のところ大丈夫です。今日この後スケジュールどんな感じでしたっけ?ちょっとまだ帰れそうになくて…すみません」
「いやいや1人で行かせたこっちのミスだから!今迎えに向かってるからもうしばらく耐えてもらっていいか?」
「わかりました…ご迷惑おかけします」
電話を切ると、人が人を呼んでいるのか先ほどよりもさらに学生が集まっていて最早満員電車並みの混雑具合だ。
本来ならここまで人が来る前に抜けないといけなかったのに。こうなってしまった以上一旦佐藤さんが言っていたお迎えが来るまでは待機するしかなさそうだ。
「瑠衣、ファンミーティングでもしてんの?」
どうしたものかと悩んでいると、後ろから声がした。聞き慣れた声に振り返ると一年の時からの友人の姿が見えた。
「凛!」
「教授と話してて遅くなったけどなにこれ」
「ごめん、気づいたら出られなくなっちゃった」
凛は呆れ顔で大きくため息をついたあと、ぱっと俺の手首をつかんで歩き出した。凛は人混みをものともせず、俺を引っ張りながら半ば強引にどんどん前に進んでいく。
「こんなに集まられて出口塞がれたら迷惑なんで。通してね~」
凛はかなり長身なので圧に負けたのか、先ほどまでの混乱が嘘のように集まった女の子たちが道を開けていく。
「お前、すご」
「瑠衣が鈍臭すぎ」
凛とはぐれないようにピッタリ背中にくっついて人混みを進んでいく。
なんとか中の人混みを抜けて外に出ることができたがまだ佐藤さんから連絡はなく、無数の視線とスマホが向けられているのを感じる。
「走るよ」
凛は俺にしか聞こえないくらいの小さな声でそう言うと手を繋ぎ直し、一気に俺の手を引いて走り出した。
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