人気欲しさにBL営業なんてするんじゃなかった

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第24話 本番

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そして数週間の時が経ち、7TEMPS初のファンコンサート本番を迎えていた。

場所は横浜。最大収容人数15000人。会場が決まった時はちゃんと埋まるのか不安だったが、チケットは即日完売だったという。

「どうしよう。めちゃくちゃ緊張する。口から心臓飛びでそう」

朝から緊張で何も喉を通らない俺をよそに隣の翔は呑気に弁当を食べている。

「オーディション中と違って失敗しても脱落しないから大丈夫」

「それはそうだけど…緊張するものはするだろ!なんでそんな平常心でいられるんだよ」

「自分より緊張してるやつがいると不思議と落ち着く」

俺は翔に冷たい目線を送りながら、近くにいた春くんに話しかける。

「春くん、緊張するよー」

「ははは、でも俺曲よりも間の途中のコーナーとかの方が緊張するかも…」

俺たちはまだデビューして間もないので自分たちの曲が少ない。そのため、曲の間にちょっとしたコーナーが予定されていた。

先ほどリハーサルをしたが、すごろく形式のゲームで、順番にサイコロを振り、降ったマス目に書いてあるミッションをこなしながら1番先にゴールした人が勝ちというものだ。

ミッションの内容は本番までわからないが、少しやってみた感じはそこまで大変なものではなかった。

「曲よりコーナーに緊張するの春くんっぽいなー」

「台本がないのが1番怖いよ…」

自分よりも緊張している人がいると落ち着いてくるというのは本当なのか、緊張している春くんをみていたら俺もだんだんと落ち着いてきた。

===

「みなさま今日は僕たちの1stファンライブにお越しいただき誠にありがとうございます!絶対最高の1日にするので楽しんでいってください」

そうしてついに始まったファンライブ。なんとか大きなミスなく練習どおりに進められていた。

セトリの半分が完了した段階で、コーナーが始まる。

すごろくの順番をじゃんけんで決めたところ、1番は咲人だった。

「やったー!じゃあサイコロ振ります」

出た目は3だ。

「3かー。このマスのミッションは…えーっと『メンバー1人をお姫様抱っこ』だって!楽勝だわー」

すると咲人は近くにいた大河をお姫様抱っこした。

「うわあ!危ないからいきなりやるな!」

「はい、成功~!大河軽いから会場走って回れそう」

そう言うと咲人は本当に大河を抱っこしたままステージの端まで行こうとする。

「ひぃ!咲人は疲れたら平気で俺のこと投げ捨てそうで怖いんだよ!早く降ろせ」

「そんなことしないし!」

ステージをしばらく走り回ると疲れたのか咲人は大河を解放した。その時咲人よりも大河の方が疲れているように見えたのはきっと気のせいではない。

「次は俺!」

悠馬くんがサイコロを振ると出た数字は5だった。

「5マス目のミッションは、『腕立て10回』。スタッフさん、このマスのミッション地味すぎますよー!それなら俺もお姫様抱っこがいいわ!」

文句を言いながら凄い勢いで腕立てをする悠馬くんの絵面はなかなかに面白かった。

===

そんな調子でそれぞれサイコロを振ってミッションをこなしていった。

俺はというと、『ファンの皆をときめかせる告白台詞』やら『メンバー全員からデコピン』などのミッションを引き、散々な目に遭ったのでこの場では割愛する。

そろそろすごろくも終盤で、次は翔の番だ。

「次のミッションは…」

翔はミッションが書いてある紙を見ているのになかなか読み上げない。痺れを切らした俺は紙を取り上げ代わりに読み上げた。

「『くじで当たったメンバーのほっぺにチュー』だって!」

「なんだよこのミッション!最悪だよ!」

他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもので、俺は気分よく翔を揶揄う。

「翔、照れんなってー。よかったじゃん」

「はぁ、お前覚えてろよ」

翔は見るからに嫌そうにくじを引き、その様子を皆が注目する。

「誰だった?」

翔は何も答えない。不思議に思い翔の手にあるくじを覗こうとすると、翔は急に俺の腕を引っ張り耳元で囁いた。

「お前」

そのまま俺はほっぺにちゅーされた。

『ギャー』

非常に不名誉なことに会場は間違いなくここまでで1番の盛り上がりを見せた。

いきなりのことで唖然としていると、横に来た颯太にひたすらほっぺを衣装の袖でゴシゴシと擦られる。

「…颯太、痛い」

プチ事件はあったものの、コーナーは春くんが一位でフィニッシュした。春くんは始まる前はあんなに緊張していたのに完璧な進行でまたも俺たちを助けてくれた。
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