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第22話 挫折

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次の日からはひたすらファンライブのために練習漬けの毎日を過ごしていた。

たまにTikTokに動画をあげたりインスタライブをしたりするが、基本的には朝から晩までずっと歌とダンスの練習をしている。

「瑠衣、3曲目の2番のパート部分テンポ遅れがちだから気をつけて」

「瑠衣くんダンスブレイクの腕の角度合ってないからあとで確認しといてね」

「瑠衣ー!さっき合わせた曲のラスサビ立ち位置半歩ズレてたよ」

先生達からの怒涛の指摘ラッシュに俺の頭はパンク寸前である。

「瑠衣くん、大丈夫?」

今にもショートしそうな俺を見かねて颯太が話しかけてくれる。

「…大丈夫じゃない」

「ここ乗り切れば大丈夫だよ。指摘もそれぞれ細かいところばっかりだし」

颯太の励ましの言葉が逆に苦しい。

「俺のせいで何度もやり直しになってごめん」

自分ができないことでチーム全体に迷惑をかけるのが申し訳ないし、気を使わせてしまっていることでどんどん情けない気持ちになってくる。

「この後個人練習するなら付き合うよ」

時計の針はもう10時を回っていた。

「いや颯太明日も学校だろ?帰って寝た方がいいよ」

すでに迷惑かけまくりなのに、これ以上負担にはなりたくなかった。

「大丈夫だよ。一緒にやった方が早く終わるし」

颯太はすでにシューズの靴紐を結び直している。

「いや何時間かかるかわかんないから付き合わせられない」

こうなった颯太が頑固なのはよく知っているが、俺も譲る気はない。

「どうせ瑠衣くんが帰ってくるまで寝れない」

「うっ」

「瑠衣くんが徹夜するなら寝ないで学校行く」

これまでも俺が練習後疲れてレッスン室で寝てしまい、宿舎に帰らなかった日があった。その時颯太は本当に寝ずに俺の帰りを待っていたのだ。

「…わかった、教えて」

結局俺が折れる形になった。
颯太を早く寝かせるためにも、気合を入れてできるだけ早く終わらせないと。

先生から指摘があったところを中心に颯太に教えてもらう。一つずつ見本を見せながら教えてくれるので非常にわかりやすい。

颯太のダンスは背が高い人が陥りがちなバタバタ感が一切なくスマートで美しい。多分生まれ持った体幹とリズム感に加えてしっかりと筋肉がついているからこそできる芸当だ。

「俺も練習しまくったらいつか颯太みたいに踊れるようになるのかなー」

ほぼ無意識に呟いていた。すると颯太は動きを止めて考え始めた。

「うーん」

「いや、冗談だよ!」

なんとなく言ってみただけなのに颯太がやけに真面目に捉えるので焦ってしまう。

「俺さ、練習生の時先生からいつも『お手本通りでつまらない』って指摘されてたんだ。その時は全然意味わからなかったけど、今は本当にその通りだなって思うんだよね。だから俺だって瑠衣くんと同じように全然できてない。今もこれからも練習中だよ。」

何事も完璧にこなすように見える颯太も壁にぶち当たったり成長中だったりする。言われてみると当たり前のことだけど意外だった。

「それに瑠衣くんのダンスは癖がなくて軸がぶれなくて、綺麗だと思う。…キレは全然足りないけど」

颯太はなにをさせても俺よりずっと上手だけど、少し照れながらも励ましてくれる姿を見ると年相応のかわいい高校生だなと思う。

「颯太、ありがとう」

そこから俺は颯太に教えてもらいながらみっちり2時間練習に励んだ。
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