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4話
しおりを挟む茶会当日は、月からの祝福を受けているような良い夜だった。空には蜂蜜色の満月が煌めき、深い藍色の夜空を照らしている。
サーペンタイト家の庭園は、普段より数段飾り付けられた姿でそこにあった。
薔薇が咲き誇るアーチには色取り取りのカンテラが掛けられて幻想的な光を灯し、淡い儚げな花々が足元に広がっている。
地面の小道には薄青く見事な彫刻をされた、大理石のタイルが整然と並んでいた。
茶会用の天幕は熱砂のヴェールで出来ており、独特の紋様や銀糸の房飾りが目に美しい。
中には上等なクッションや絨毯が敷き詰められ、皿には各地の珍味が並ぶ。
ここまで豪華な茶会が出来るのは、大陸広しと言えどもサーペンタイト家くらいなものだろう。
「見事ですな」
「恐縮です。かの魔導省長、ネメシス様に褒められたとなれば、私も鼻が高い」
ネメシスは30代前半の美丈夫だった。薄紫の髪を下の方で一つに括り、薄い唇に酷薄な笑みを浮かべている。チェーンの付いた眼鏡が様になっており、切れ長の目は理性の光が宿っている。相対したものが皆一様に、トグロを巻いた蛇を思い浮かべる。そんな男だった。
ネメシスは玻璃の杯で酒を飲みながら、上機嫌に笑う。
「いやはや、サーペンタイト家の財力には驚かされるばかりです。このような素晴らしい茶会にお招き頂いたこと、深く感謝しております」
「こちらこそ、ネメシス様に喜んで頂けて心が喜びに打ち震えております。その酒が気に入られたようなら、同じ系統の何本かと一緒に後日贈らせていただきますね」
「おお、これは有難い。…して、今日の花々は此方かな?」
「ええ」
ネメシスの瞳がきゅうと狭まるのを、ステラは眼鏡のレンズ越しに眺めた。ネメシスの前には大きな箱が2つ。一つは結晶花と呼ばれる珍しい花が株ごと入ったもの。もう一つは胡鳥蘭の保存液漬け。どちらもただ金を持っているだけでは得られない、幻の花だった。
「おお、これはこれは。全くもって素晴らしい。結晶花に胡鳥蘭とは…。ええ、これを見て確信いたしました。サーペンタイト家はこれから先、何者にも阻まれることなく、つつがなく商売を成長させていかれるのでしょうな」
貢物はお気に召したらしい。普段なら言わない「成長」と言う言葉を使うあたり、相当な便宜を図ってくれる気になったようだ。
「実は、もう一つ花があるのですよ」
「ほう。ぜひ拝んでみたいものですな」
警戒心が切れ長の目に覗く。だが欲は抑えられないようで、警戒心は直ぐに欲望に沈んだ。
「ネメシス様なら、そうおっしゃってくださると信じておりました」
ステラは妖しげに、うっそりと微笑んだ。そして、するりと指先をネメシスのものと絡める。
「…何を」
「美しい花々が、見たいのでしょう?」
「な」
とろりと笑みを浮かべるステラは、薔薇が見る悪夢のように美しかった。今日のステラは豊かな黒髪を繊細に編み上げ、眦に扇状的なラインを引いている。熱砂風の透ける布の服を優雅に着こなしたステラは、なるほど、大輪の花と称しても誰も文句を言えないだろう。
細い指先が、ゆっくりと見せつけるように衣装を剥いでいく。
はだけた服の隙間から、真白い肌と淡い桃色をした胸の飾りがのぞいた。
「お待ちを」
「何か…?」
蠱惑的な雰囲気を醸し出しながら、ステラは脳内で様々な計算を巡らせていた。さて、この男は堕ちてくれるだろうか。
「…その役目は、俺に譲って頂きましょうか。なに、美しい花は手ずから仕込みをしたいタチでして」
ネメシスの瞳に欲情の炎が宿った。アルファのフェロモンが空間を満たしていく。
かかったな、のステラは内心ほくそ笑んだ。だが、それを表情に出すような馬鹿はしない。
カシャン、と音を立てて、酒杯が床に落ちた。平民の給料10年分が粉々になったが、それを気に止めるものはいなかった。
ネメシスは乱暴にステラを引き寄せると、ねちっこいキスをした。ステラの小さな舌を舐めしゃぶり、口腔を悉く犯していく。
「んっ、う……っ」
骨ばった大きな手で、ネメシスはステラの衣服を剥ぎ取っていく。脱ぎやすいようにと意図して作られたその服は、あっさりと剥がれ落ちた。
ネメシスは無防備になった胸の飾りを遠慮なく指で転がし、潰し、気まぐれに引っ掻いた。
「ああっ…」
たまらずステラが嬌声をあげる。ステラからもまた、オメガのフェロモンが漂っていた。ラズベリーのような甘酸っぱい匂いに当てられ、ネメシスの行動はさらに大胆になる。
ステラの、既に濡れそぼったそこにネメシスは指を突き立てた。
「ん、ん、んぅ、やぁ…っ」
「何が、イヤですか。貴方から誘ったんでしょう…?それにほら、もうこんなにぬかるんでいる」
ステラの蜜壺からは次から次へと蜜が溢れ出していた。ネメシスの指先が肉襞をなぞるたび、ステラは切なげな喘ぎ声を漏らす。
「あっ、なに、して…!」
ステラの太腿に顔を埋め、ネメシスは自身の舌を蜜壺に押し込んだ。
「そ、んなとこ舐めたら、あ、あ、あぁっ…や、おかし、それ、だめ…あっ…ひうぅ」
ステラの声には、既に泣きが入っていた。堕とすだのなんだの言っていても、ステラは公爵家。性的な事は経験が少なかった。
「可愛らしいですね、貴方は…。もうそろそろ、入れますよ」
ネメシスはズボンをくつろげ、猛った性器を蜜壺に当てがった。
「ふふ」
「…何を笑ってらっしゃるんですか?」
瞳を涙で潤ませながら、ステラは小さく、くすくす笑った。その姿は大層なまめかしい。幾星霜を生きた九尾の狐でさえ真似できぬ、黒百合の艶姿だった。
「高くつきますよ、私は」
「そうですか。いくら払えば良いんです?」
間髪入れずネメシスは言った。海千山千、狡猾な魔導省長の姿はそこになく、あるのは罠に嵌った哀れな男が一人だけ。
「貴方の、この先の人生を丸ごと」
「上等です」
獣の目だった。ギラついた視線がステラを見据える。
「あっ…あぁっ……」
張り詰めた肉棒がステラの中を穿った。暴力的な質感にステラは涙をこぼして感じ入る。吐精して硬さを失った性器がふるりと揺れた。
「あ、つい。あ、なか、あつ…っ…あっ、んっ、ううっー」
肉の擦れる音が天幕に響く。外のヴァイスには全て聞こえているだろうな、とステラはぼんやりした頭で考えた。
「っ考え事ですか、随分と余裕ですね」
ネメシスの動きが激しさを増す。息も荒くなっており、達する時が近いことを如実に知らせている。
「はぁ…」
ステラのなかにドロドロと白濁した液体が出された。火傷しそうに熱いそれは、ステラの奥深くを満たした。
涼やかな風が天幕を揺らし、花の香を連れてきた。冷たく甘やかな風は、2人の脳に若干の冷静さを取り戻させる。
「ネメシス殿」
ステラはネメシスに抱きつき、可憐な唇を耳に寄せた。
「これで貴方は、私のモノだ」
ネメシスは何も言わない。ただ魅入られたように、ステラをぼうっと見つめていた。熱に浮かされたその目は病的で、深くステラに囚われていることを感じさせた。
魔導局長、ネメシスはステラに堕ちた。
ステラの運命は、この出来事で大きく変わっていくことになる。
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