高嶺の毒華は死に戻る

幽淋鶏

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2話

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ステラは取り敢えず、この異常な状況を受け入れることにした。

「むしろ、好都合じゃないか」

5年分の未来の情報を知っているというのは、とんでもないアドバンテージだ。今度こそあの王太子といけ好かない神子を出し抜いて、宰相になれるかも。

ステラの夢は宰相になることだった。宰相というのは王族を除き、人間が出世できる最高峰の立ち位置だ。宰相になってしまえば、国の大概の事は自分の独断と偏見で決めてしまうことができる。

ステラの出身家のサーペンタイト公爵家は大々的に商売を営んでいて、国有数の資産家だ。ステラが宰相になれば、外交下手なアストラル王国を大きく変え、大陸と言わず世界の国々と貿易をする資産大国にできるだろう。

ステラはそれを夢見て様々なことを画策し、失敗して、処刑された。

そのニの轍を踏んでたまるかと、ステラは瞳の青を決意で燃やし、計画を立て始める。

「ヴァイス」

「お側に」

ぬう、とステラの背後から現れたのはヴァイス。ステラが買った奴隷のアルファで、ステラの側仕えだった。人魚たちの住むシーライト王国出身で、鮫の人魚と人間のハーフ。2メートルを超す巨体に鋭い歯、頑強な体と無愛想な顔を引っ提げた、忠誠心の高い男だ。短く切り揃えた青銅色の髪が、本人の実直さを表しているかのようだった。

ステラはオメガだ。ヴァイスでなければ、ステラは一般の貴婦人やオメガがアルファの男を側仕えにしないように、ヴァイスを側仕えにはしなかっただろう。

「今日から1週間の予定を、一から順に説明して」

「はい」

ヴァイスは突然の主人の要望にも慌てることなく答え、それと並行してステラの身支度も整えていく。

オメガの命とも呼べる首のチョーカーを丁寧につけ、下着さえも手ずから身につけさせていくその様子は、深い信頼関係を感じさせた。

「殆どが商会関係の案件だね、サーペンタイト家が繁栄しているようで何よりだ。…ヴァイス、魔導省長のネメシス・イスキミートに面会の伺いを立ててくれる?名目は親睦を深めるお茶会で」

「かしこまりました」

すうっとヴァイスは消えていった。鮫の人魚の血が入っているからか、ヴァイスは空間を泳ぐように移動する。仕事が出来る男なので、ステラが朝食がわりのハーブティーを飲み終わる頃にはもう招待状を出し終わっているだろう。

魔導省はアストラル王国の一大勢力の一つだ。優れた魔導士たちが集まり、日々魔法の研究を行っている。

魔導士たちは流通と深く関わる転移陣を管轄下に置いているので、商売に関わる人間なら絶対に無視はできない。

転移陣が無ければ遠く離れた国の商人を一日で店頭に並べることはできないし、馬車や船を使って急な天候の乱れに怯えながら商売をする羽目になるだろう。店の倉庫に転移陣が一つあれば立派な大商会だと呼ばれるほどに、転移陣の存在は大きかった。

広く商売を手がけるサーペンタイト公爵家が魔導省の機嫌を取るために茶会を開いても、なんの不思議にも思われない筈だ。

だが、ステラの狙いは魔導省のご機嫌伺いなどでは無い。魔導省のトップ、魔導省長のネメシスを自分の手駒にする事だ。

魔導省長を意のままに操ることができれば、ステラの処刑はないも同然になる。それどころか、宰相になるという夢が限りなく確定事項になるのだ。

罪人の処刑は、魔導省の管轄だ。罪人を切るのも焼くのも、魔法省しだい。気に入らない罪人を僻地の開拓地に送り込むのも良し、逆に気に入った罪人を無罪放免にするも良し。魔法省が罪状と刑期を書いた薄っぺらい書類を提出するだけで、白は黒に、黒は白になる。こんな都合のいい力、狙わない方がおかしかった。

勝算はある。だが多少無茶をするので、あとは自分を信じるだけだった。

時計を見ると、もうそろそろ商人たちの面会の時間。キッカリ3分後、戻ってきたヴァイスと共に、ステラは執務室へと向かった。
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