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最終話 ありがとう
しおりを挟むホテルの部屋に入ると2人は黙って窓の外を見ていた。
日付が変わればユウキはいない…
もう何を話していいかわからないよ…
ユウキ…ずっと外を見て何を考えてるの…?
リオン…オレが現れたことは果たしてよかったのかな…
かえってリオンを苦しめることになったんじゃ…
ユウキが時計を見るといつの間にか22時を回っていた。
「リオン」
「え」
「外に出よっか」
「…うん」
2人は外に出て砂浜を歩いた。
周りには誰もいなくて波の音だけが聞こえていた。
「リオン」
「ん?」
「…リオン」
「何?」
「…呼んでみただけ。もう呼べなくなるから…」
「、、、、」
「座ろっか」
「…うん」
2人は砂浜に座った。
「ここも星がキレイに見えるね」
「…そうだね」
「リオンは今の会社でやっていけそう?」
「え」
「前の会社は酷かったでしょ?」
「ユウキはいつから私を見守ってたの?」
「リオンが前の会社で辛い思いしてた頃からだよ」
「…どうして」
「…リオンに幸せになってもらう為だよ。それに…オレのことずっと引きずってたろ?死に別れしたから…」
「…うん。ずっとユウキのこと忘れられなかった」
「リオン…オレはもういないんだ。前に進まないと」
「だから忘れさせるの?またこうやって再会して…もっと忘れられないよ」
「オレが現れない方がよかった?」
「わからない。ユウキとまた一緒に過ごせて幸せだったけど、またユウキはいなくなるじゃない」
「…ごめん」
「何とかならないの?このままずっと私の傍にいてよっ」
ユウキはリオンを抱きしめた。
「オレもそうしたいけど…あの世に戻る条件でこうして人間となって現れられたんだ」
「ユウキ…嫌だよ。離れたくない」
リオンは泣いてしまった。
「泣かないって言っただろ?」
ユウキは強くリオンを抱きしめた。
「…ユウキ…困らせて…ごめんね」
「リオン…オレはキレイに別れたかったんだ。リオンに引きずらせない為にも」
「、、、、」
「オレはもうこの世にはいないんだ」
「ユウキ…」
「この数日間リオンとやり残したこと出来て、ずっと一緒にいられて幸せだったし…あの日に戻った気分だった。それにあの日の計画が今日実現できたし。プロポーズは出来なかったけどもう悔いはない」
「…うん。私もユウキとやり残したこと出来て幸せだった…」
「もしオレが現れなかったら悔いが残ったままだったんじゃない?」
「…うん」
「お互い一緒にやりたかったことをこの数日間でやったんだ」
「…うん」
「だから、もうオレのこと引きずらないで前に進めるよね?」
「、、、、」
「リオン?」
リオンが小さく頷くとユウキはリオンの頭を撫でた。
ユウキがチラッと時計を見ると22時55分だった。
ユウキは深呼吸をするとリオンの手を引き立ち上がった。
「リオン…約束して」
「約束?」
「強くなるって。リオンは強く見られがちだけど本当は弱いだろ。前の会社でだって我慢してたし」
「、、、、」
「もうオレは助けられない…だから約束して。強くなるって」
「…わかった…」
リオンは声を震わせながら答えた。
「また泣いたなっ」
ユウキはリオンの涙を優しく拭った。
「リオン、見てあの星」
「…え」
「1番光ってるでしょ。オレ星になってリオンを見守ってるから」
「…ユウキ」
「あれより光ってる星を見たらオレだと思って」
「…わかった」
2人が再度時計を見ると2分前だった。
リオンは泣きながらユウキの顔を両手で触った。
「ユウキ…今までありがとう」
リオン…
ユウキも感情が抑えきれなくなった。
「もう…関係ない…なっ」
「えっ」
ユウキはリオンにキスをした。
しばらくして顔を離すとユウキの目からは涙が流れていた。
「ユウキ…」
「リオン…幸せな時間をありがとう」
「私も…幸せだった…ありがとう」
次第にユウキの体が透けていった。
その姿を見てリオンは涙が止まらなかった。
「リオン…愛してる」
「えっっ」
そうしてユウキは笑顔で消えていった。
リオンは立ちすくんで泣き喚いた。
思い切り泣いた後、空を見上げて星を見た。
ユウキ…愛してるって言ってくれて…ありがとう。
嬉しかった…
私…強くなるから…
そしてちゃんと前に進むよ…
ユウキ…一緒にいてくれて…
本当に…本当に…ありがとう…
その瞬間、夜空で1番光った星が流れた。
完
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