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最終章
107話 最後の言葉
しおりを挟む警察署に着くとシュンは今日の出来事を色々と聞かれた。
一通り話し終えると裕二が眠る霊安室に向かった。
シュンは冷たくなった裕二の横に立ち、しばらく裕二を見つめていた。
「岡田…初めから死ぬつもりだったんだな。最後の最後まで逃げやがって…お前はとことん卑怯な奴だ。でも…お前が最後に言った言葉は本心だったって事はわかったよ。次に生まれ変わった時はまともに生きろ。そして人を心から愛し、愛される人間になるんだ…」
シュンは裕二に向かってそう呟いた。
その時、勢いよくドアが開いて女性が入って来た。
取り乱したその女性は裕二の母だった。
「裕二ーっ‼︎」
母親は泣き叫び裕二に抱きついた。
シュンは静かに霊安室を出てドアの前に立っていた。
しばらくして、ふらつきながら出て来た裕二の母をシュンは支えた。
「大丈夫ですかっ⁈」
「え…あっ…あなたは?」
「…地曽田と申します」
「ち…地曽田さんって…」
裕二の母親は床に手をついて頭を下げた。
「え⁈なっ、何されてるんですかっ⁈」
「裕二が酷いことをして迷惑かけてすみませんでした」
「顔を上げて下さい‼︎」
「いいえ。裕二のして来た事は決して許される事じゃありません。全て母親である私の責任です」
「そんなっ…もういいですから‼︎」
シュンは裕二の母親を抱え起こしてイスに座った。
裕二の母親はずっと下を向いていた。
「…私にとっては…いい子なんです」
「、、、、」
「母親想いで優しい子でした…」
裕二の母親は再び涙を流し、シュンはハンカチを渡した。
「息子さんの為にもお母様が元気で長生きして下さい。息子さんもそう望んでると思います」
「、、、、」
「お母様?」
「…わかりました。いつかあの世であの子に会ったら強く叱ってやります…」
「そうですね…」
シュンが時計を見ると時刻は既に22時を回っていた。
「送りますよ」
「私は…もうちょっとあの子の側にいます…」
「…わかりました」
裕二の母親は再び霊安室に入り、シュンはスミがいる病院に向かった。
病院の中に入ると待合室にスミの母親が座っていた。
シュンはスミの母親の隣に座った。
「地曽田さんっ」
「ご心配おかけして申し訳ありません」
「大変だったわね」
「…はい。スミさんには会いましたか?」
「ええ。話は聞いたわ。裕二さんも亡くなったそうね…何て言ったらいいか…でもあなたも命懸けだったみたいで…スミを助けてくれて本当にありがとう」
「こんな形になりましたけど…全て終わりました」
「そうね…」
「あの…スミさんから聞かれましたか?」
「驚いたわ…まさか妊娠してたなんて」
「すみません…」
「流産しなくて本当によかった」
「え…」
「地曽田さん、よかったわね‼︎」
「はいっ‼︎」
スミの母親の言葉を聞いてシュンはホッとした。
「私もお婆ちゃんになるのね」
「そうですね」
「子供が出来たからって一緒にならなくてもいいのよ。私が孫の面倒みてもいいし」
「え?」
「何?スミと籍入れたいの?」
「…ダメですか?」
「ダメ」
「え…」
「冗談よ」
「じゃあ…」
「スミのこと頼むわよ」
「は、はいっ‼︎ありがとうございます!」
「プロポーズはまだなんでしょ?スミは受け入れるかしらねぇ」
「どっ…どういう事ですか?」
「何かスミ、怒ってたわよ。自分を置いて逝かれそうになったって」
「あ…なるほどですね…」
「スミはしつこいわよ」
「はい…ちゃんと話します」
「そうね」
「あの…お母さん…」
「何?」
「来週末、福岡に行こうと思ってるんですがスミさんも一緒に連れて行ってもいいですか?」
「来週末ってクリスマスね。いいわよ。行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
それからシュンは病室に入ったがスミは眠っていた。
疲れが溜まっていたシュンもそのまま朝まで眠った。
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