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96話 悲しい対面

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警察署に着き霊安室に向かった。
近づくにつれ、あゆみの足取りは重くなりシュンの手をギュッと握っていた。
ドアの前に着くとシュンはあゆみの顔を見た。


「あゆみちゃん…着いたよ」

「ここに…お兄ちゃんが居るの?」

「そうだよ…」


するとあゆみはシュンの手を離しドアを開け1人で走って入って行った。


「あゆみちゃんっ」


あゆみは斉藤の体に被せてある布をめくった。
変わり果てた姿の兄に抱きつき号泣した。


「お兄ちゃんっ‼︎お兄ちゃんっ‼︎起きてよっ、あゆみが来たよっ‼︎」

「、、、、」


あゆみは自分の顔を斉藤の頬に当てた。


「どうしてこんなに冷たいのっ‼︎ねぇ…シュンお兄ちゃん、お兄ちゃん冷たいよ。温めてあげないと‼︎」

「…あゆみちゃん」


シュンは見ていられなかった。


「お兄ちゃん!どうして何も言ってくれないの⁈お兄ちゃんっ」


あゆみは何度も斉藤の体を揺さぶった。


「…お兄ちゃん…あゆみを置いて行かないで…お兄ちゃん…」

「あゆみちゃん…お兄ちゃんはこれからもずっとあゆみちゃんのこと見守ってるよ」

「お兄ちゃん…」


斉藤の頬はあゆみの涙でいっぱいだった。


それから1時間以上、あゆみは斉藤から離れなかった。


シュンとあゆみは霊安室を出てイスに腰掛けた。


あゆみは泣き疲れ憔悴しきってずっと下を向いていた。
そんなあゆみの背中をシュンは黙ってさすっていた。


「人って…いつかは必ず死ぬんだよ。長く生きる人もいれば事故や病気で若くして亡くなる人もいる」

「、、、、」

「お兄ちゃんは好きで亡くなったんじゃない」

「どうして…死んじゃったの?」

「それは…事故かも知れないし、事件に巻き込まれたかも知れない」

「そんな…」

「調べないとわからないんだ」

「、、、、」

「あゆみちゃん…司法解剖ってわかる?」

「うん…え…お兄ちゃん司法解剖するの?」

「しないと原因がわからない」

「嫌っ!お兄ちゃんが可哀想…」

「、、、、」

「お兄ちゃんを解剖するなんてっダメ!」

「あゆみちゃん…警察はお兄ちゃんを自殺とみなしてるんだよ」

「え…」

「お兄ちゃんが岡山に行く前の日に会ったけど、あゆみちゃんに会えるのを楽しみにしてたし、あゆみちゃんの為に仕事も頑張るって言ってた」

「お兄ちゃん…自殺なんかするはずない」

「うん。するはずないんだよ」

「お兄ちゃん…」

「だから調べないと…」

「…うん」

「え?」

「司法解剖…でしょ?」

「やってもらっていい?」


あゆみは涙を流しながら頷いた。


手続きを済ませ翌日、司法解剖をする事になった。


シュンはあゆみを家に連れて帰った。


「あゆみちゃん…明日一旦、岡山の病院に戻ろう」

「え…嫌…」

「もう少しだけ入院して治療を頑張ったら福岡に行こう。寂しい思いはさせないから」


シュンは1人になったあゆみを福岡の施設に連れて行くと決めた。


翌朝、シュンは一旦あゆみを岡山の病院に戻して15時過ぎに東京に着いた。
機内モードを解除すると岸田と本田弁護士から何度も着信が入っていたのでシュンは折り返し岸田に電話をかけた。


「もしもし社長っ?岡田が…」

「え⁈」







  
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