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83話 初めて見るシュンの姿

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レストランで待っているスミ。
約束の時間から1時間以上経っていた。
シュンの携帯に何度も電話をかけてみたが全然繋がらなかった。


シュン…どうしちゃったんだろ…
仕事…長引いてるのかな…
でもそれなら連絡してくれるはずなのに…


すると岸田秘書から電話がかかってきた。


「もしもしっ」

「あっ…岸田ですが今、社長と一緒ですか?」

「えっ…いいえ。会社には居ないんですか?」

「はい。今日社長と会われるんですよね?」

「そうですけど…約束の時間から1時間以上経ちますが来なくて。携帯も繋がらないんです。何か知ってますか⁈」

「18時半頃、社長の携帯が鳴って急いで出て行かれたんです。随分慌てた様子だったし心配で…スミさんに連絡してみたんですが社長とはまだ会ってないんですね…どうしちゃったんだろ…」

「私、もうちょっと待っています。来たら教えますね」

「…わかりました。僕も連絡ついたら教えます」


電話を切った後、事件の日のことを思い出しスミは心配になった。


ラインを送っても全く既読にならなかった。


23時を過ぎ、スミの元へ店員が近づいて来た。


「すみません。ラストオーダーの時間なんですが…」

「あっ…すみませんっ。もう出ます」


スミは店を出て再度ラインを開いた。


まだ既読になってない…
きっとシュンに何かあったんだ…


その時シュンから電話がかかって来た。


シュン!!


「もしもしっシュン!」

「、、、、」

「シュン⁈何があったの⁈今どこ⁈」

「…スミ…連絡…遅れて…ごめん」

「…どうしたの?」

「…父さんが…父さんが…」


シュンは声を震わせながら言った。


え…


「亡くなっ…た…」

「お父様が…?」

「、、、、」

「シュ…シュン?今どこ⁈」

「…家」


スミは電話を切り急いでタクシーを捕まえてシュンの実家へ向かった。


シュンの実家に着きスミがチャイムを鳴らすと継母が涙を流しながら出て来た。


「ス…スミさん…」

「あ…あの…シュンは…」


久しぶりに顔を合わせた2人はぎこちなかった。


「どうぞ」


スミは継母に連れられ和室へ入った。
そこには父親の横に座って下を向いているシュンがいた。


「…シュン」

「スミ…」


スミはシュンの隣に座った。


「父さん…スミが来てくれたよ…」


シュンは父親の顔に掛けてある白い布を取った。


スミは涙を流しながらシュンの父親の顔をじっと見た。


「眠っているみたいでしょ…」

「…う…ん」

「心筋梗塞で…今日…容体が急変して…」

「、、、、」

「こんな事になるなら…もっと父さんに会いに帰ればよかった…」

「シュン…」

「父さんにとって息子は俺だけなのに…俺は酷い息子だよ…」


スミはシュンを抱きしめた。


「そんなこと…お父様は思ってないよ」

「…でも」

「そんなこと言ったらお父様が悲しむよ」


シュンはしばらく黙ったまま父親をずっと見つめていた。


「そういえば…」

「え…」

「ちょっと一緒に来て」


2人は父親の部屋に行った。


「どうしたの?」


シュンは父親の机の引き出しを開けた。


「父さんが息を引き取る前に言ってたんだ。机の2番目って…」


その言葉を思い出したシュンは2番目の引き出しを開けた。
中にはシュン宛の手紙が入っていた。


「これ…」

「えっ?」


シュンの父親は何かあった時の為にシュンに手紙を書いていたのだ。


「シュンへの手紙…?」

「、、、、」


シュンは手紙を読み始めた。



これを読んでいるという事は、もう私がこの世に居ないという事だな。
シュン、今から書く事は私が今までお前に言ってきた事だ。

素直である事、礼儀正しくある事、
自分に嘘をつかず裏切らない事、
勇気を持つ事、失敗を恐れず挑戦する事、
人に優しく思いやりを持つ事、
目標に向かって出来ることを考えやり遂げる事、
人に左右されない強い意志を持つ事。


お前は私の知る限り全部出来ている。
こんな立派な息子に育ってくれてありがとう。
ただ一つだけお前に謝りたい事がある。
それは今の母さんと再婚した事だ。
お前を苦しめる事になって本当にすまなかった。
これからはお前の好きに生きなさい。
この家の財産の3分の1は母さんに、残りは全部シュンに捧げる。

スミさんのお母様が許してくれるかわからないが、もう私はこの世に居ないんだ。
母さんとも他人になれる。
人生一度きりだ。だから悔いのないように生きなさい。
父さんはいつでもお前を見守っている。
私の息子でいてくれてありがとう。


自慢の私の息子へ    シュンの父より



手紙を握りしめシュンは泣き崩れた。


そんなシュンの姿を初めて見たスミは、ただ黙ってシュンの背中を優しくさすってあける事しか出来なかった。





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