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76話 涙の判決

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「どうしましたか?」

「証人がいますっ‼︎」


証人って…誰だっ⁈


裕二は険しい顔に変わった。


「証人って…」


岸田秘書がスミの方を見るとスミは下を向いていた。


「証人とは?」

「ちょっと待って下さい。今さら証人ってもう遅いですっ‼︎判決をして下さい‼︎」


周囲がざわめき始めた。


「証人はここに居るんですか?」

「ドアの外に居ます」


裁判官は考え込んだ。


「裁判官、お願いします」

「いいでしょう。連れて来て下さい」


本田弁護士は急いでドアを開けて一旦外に出ると若い男と一緒に入って来た。


専務と岸田秘書は目を疑った。


証人として入って来たのは斉藤だったのだ。


「あ…あいつ‼︎どうして‼︎」


斉藤は尋問に立ち宣誓をした。


「良心に従って真実を述べ何事も隠さず偽りを述べない旨を誓います」

「スミさんっ…スミさんがあいつを?…スミさん」


スミは涙を流していた。


斉藤は裁判前日、スミに証拠になる事を全て話したのだ。
斉藤は証人になるとスミに言うがそうすると斉藤が捕まる事になる。
あゆみのことを思い、スミは思いとどまっていた。
そして当日、斉藤が裁判所に行くのを引き留める為に朝から会っていた。
結局、斉藤は裁判所までついて来たが最終的に証人として証言させるかどうかはスミに決めさせ、自身はずっとドアの外で待機していたのだ。
ギリギリまで悩んだスミは思い切って決断したのだ。


「それでは証人、全て真実を話して下さい」

「…はい」


斉藤が裕二を見ると裕二はすごい顔で睨んでいた。


「まず事件当日、警察に通報したのは僕です」

「では、その場にあなたは居たのですか?」

「いいえ。岡田社長にこう言われました。“俺からの着信があったら俺の部屋に警察を呼んでくれ”と。着信があったので僕が通報しました」

「おいっ‼︎何言ってる‼︎」

「原告人、どうして通報するように頼んだんですか?」

「そんなこと言ってませんっ」

「証拠があります」

「えっ…」


斉藤は携帯を開き、録音の会話を流した。
岡田とは言った言ってないのやり取りが多かったので念の為に会話を録音して残していたのだ。


裕二の弁護人は頭を抱えた。


「原告人はどうしてそんな事を証人に頼んだんですか?」

「それはっ…念の為です。地曽田は何して来るかわからないから…」

「地曽田さんはそんな人じゃないと思います」


シュンは斉藤を見上げた。


「証人は被告人と原告人とはどういう関係ですか?」

「地曽田さんのことは今日初めて会うのでよくわかりませんが、ある人から地曽田さんのこと聞いて人間性はよくわかりました。岡田社長は…僕はお金で雇われていました」

「お前っ‼︎」

「原告人は静かに。証人、続けて下さい」

「事件の何日か前、僕は岡田社長に仕事を与えられました。ある女性の顔を何度も殴るようにと。報酬は300万でした」


シュンはハッとした。


こいつがスミを…


「それで証人はどうされたんですか?」

「…実行しました」

「という事は証人、覚悟決めての証言ですね?」

「…はい」

「わかりました。話しを続けて下さい」

「はい。岡田社長は僕が殴った人に、岡田の指示でやったと言えと言われました」

「どうして」

「地曽田さんが自分の元に来るように仕向ける為です」

「被告人とその女性の関係は?」

「恋人です」

「被告人、間違いないですか?」

「…はい」

「岡田社長は地曽田さんを捕まらせる為に自作自演したに違いありません。だから僕に事前に通報させたし。それに傷口も浅かった。本当に殺す気ならもっと深く刺すはずです」

「お前っ!お前にいくら渡したと思ってるんだ‼︎俺を裏切る気かっ」

「岡田社長っ、そんなこと言ってはダメですよっ」

「最後に証人、今回は自分にとって不利になると知りながらなぜ証人になろうと思ったのですか?」

「僕含め、罪を犯してる人が普通に生活して何もやってない人が捕まってるからです。そのせいで周りが苦しんでるのを見て耐えられなくなりました」

「…わかりました。では弁護人、最後弁論を」

「被告人はやってないと主張しても聞き入れてもらえず無実の罪で服役しました。どうか賢明な判断を」

「それでは…判決の言い渡しをします。被告人は前に出て下さい」

「はい」


シュンは証言台に立った。


岸田秘書と専務は必死に祈った。


「新たな証言により被告人が岡田氏に対する殺人未遂事件について疑問を抱きます。よって…」


法廷は緊張が走った。


「刑の執行を停止します。主文被告人は無罪とし刑務所から釈放します」


シュンは力が抜けその場にしゃがみ込んだ。


岸田秘書と専務は抱き合って喜んだ。


由希は裕二に幻滅し出て行った。


「クッソー‼︎斉藤っ‼︎お前っ、殺してやるっ‼︎」


裕二が斉藤の方に向かおうとすると取り押さえられた。


「離せっ‼︎俺は悪くないっ‼︎悪いのはあいつらだっ‼︎」

「詳しくは署でお聞きします」

「クッソーッ!!」


暴れる裕二を3人がかりで押さえ付け連れて行った。


そして斉藤も警官に連れられスミの横を通った。
スミは申し訳ない気持ちで泣いていた。
斉藤は立ち止まってスミに声をかけた。


「泣かないで下さい」

「ごめんね…ごめんね…」

「あゆみのいい兄でいる為にも…しっかり罪を償って来ます」


続けて斉藤は笑顔で言った。


「ありがとうございます」


そして斉藤は連れて行かれた。


スミはその場に泣き崩れた。


本田弁護士はシュンを起こし上げ、急展開した理由を話した。
それを聞いたシュンはスミの元へ行き、スミを力一杯抱きしめた。


「スミ…辛い決断をさせてしまったね…」

「シュン…」

「ごめんね」

「ううん…よかった…本当に…よかった」

「スミ…ありがとう」






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