上 下
75 / 110

75話 絶対絶命

しおりを挟む

それから日は過ぎて行き裁判の2日前となった。
未だに証拠は掴めていない状況だった。
この日、専務と岸田秘書は本田弁護士と会っていた。


「一体どうしたらいいんだ」

「本田弁護士、何とかならないんですか⁈」

「相手の弁護士とも会って話したのですが地曽田社長がやってないと嘘をついてるって一点張りで…」

「クソーッ!嘘ついてるのは岡田の方なのに」

「保釈金払って釈放ってのも無理ですよね…」

「殺人未遂ですからね…無理です」

「裁判は明後日だ。ギリギリまで諦めずに頑張ろう」

「そうですね…」

「それと…地曽田社長から彼女さんに伝言を頼まれたんですが伝えてもらっていいですか?」

「はい。何ですか?」

「もし無罪にならなかったら待たないで欲しい。何年も刑務所に入ってる男のことなんか忘れて他にいい人見つけて幸せになって欲しい…と」

「え」

「、、、、」

「伝えておいて下さいね。では私もギリギリまで何とか頑張ります」


そう言うと本田弁護士は帰って行った。


「…社長らしいな」

「どうする?スミさんに伝えるか?」

「…伝えません」

「そうだな」


そしてギリギリまで頑張ったが結局証拠は見つけられず裁判当日となった。

早朝、岸田秘書の携帯が鳴った。
スミからだった。


「おはようございます」

「朝早くすみません」

「…いいえ」


岸田秘書は悔しさと疲労で暗い声をしていた。


「あの…私ちょっと用事が出来たので迎えに来なくて大丈夫です。自分で行きますので」

「…わかりました。用事って?」

「ちょっと…では後ほど」

「わかりました」


30分前に裁判所に着いた岸田秘書は専務の隣に座った。
少し離れた所には由希が座っていた。


「スミさんは?」

「用事があるから自分で来るそうです」

「そっか」


岸田秘書が被告人側の席を見ると本田弁護士が座っており、目が合って軽く頭を下げた。


「もう本田弁護士に任せるしかない」

「…もし最悪の結果になったら会社はどうなるんですかね…」

「今は…考えたくない…」

「…はい。祈るしかありませんね」


10分前になり裕二が入って来て原告側に座った。


「あいつ…涼しい顔しやがって」


裕二は岸田秘書に気付いてニヤリと笑った。


「あいつー!」


立ち上がる岸田秘書を専務が止めた。


「やめとけ!場所を考えろ」


岸田秘書は渋々座った。


「それにしてもスミさん遅いな」

「、、、、」


するとスミが思い詰めた顔をして入って来た。


「スミさんっ」

「スミさん?大丈夫ですか?」

「…はい」


スミは暗い表情で岸田秘書の隣に座った。


そして時間が近づき、手錠をかけられたシュンが警官に連れられて入って来た。


「…シュン」


スミは久しぶりに見るシュンの姿を目で追っていた。
一瞬目が合ったがシュンは表情を変えず、被告人席に座った。


「社長…」


シュンのやつれた姿を見て岸田秘書と専務は何とも言えない気持ちだった。


10時になり裁判が始まった。


原告側の言い分が終わり、被告人側の言い分となった。


「被告人は今回の罪を認めますか?」

「いいえ」


周りはざわついた。


「弁護人、冒頭陳述を」

「はい。そもそもナイフ自体、被告人の物ではありません。言い合いになって揉めた後、岡田氏は自ら自分の体をナイフで刺し被告人にナイフを持たせていたんです」

「意義あり‼︎」

「許可します」

「被告人は罪を逃れる為に嘘をついているんです。自分で自分を刺すなんて有り得ません」

「意義あり‼︎ではどうして事前にナイフがあったんですか⁈」

「岡田氏、答えて下さい」 

「ナイフは…たまたま置いてあったんです。ダンボールを開ける時に使ったので。それに自分で刺すなんてっ。そんな勇気ありません」

「岡田氏の言う通り自分で刺すはずありません。岡田氏は大手企業の次期社長です。婚約者もいて結婚も控えてるのに、そんな事するはずありません」

「被告人、原告側はこう言っていますが」

「全て嘘です」

「嘘ついてるのはそっちです」

「意義あり‼︎被告人は今までのしがらみがあって岡田氏を憎んでいます。殺したいという動機は充分あります」

「意義あり‼︎被告人はいくら憎んでいても間違った事は絶対しません。それに岡田氏も被告人を憎んでます。岡田氏は被告人を嵌めたんです。自作自演です‼︎」

「被告人、どうなんですか」

「…確かに殺したいくらい憎いです」

「どうしてそんなに憎いんですか?」

「大切な人を苦しめるからです。このまま刑務所に入ってるなら殺せばよかったです…」

「なぜですか」

「愛する人を守れないから…」


スミは胸が痛かった。


シュン…
私は今まで充分シュンに守ってもらった…
次は私が守らなくちゃ…
シュンに辛い思いはさせたくない…


「被告人側はやってないという証拠はありますか?」

「それは…ありません」


周りから被告側に野次が飛び始め、裁判官は一旦10分間の休憩にした。


「何か…もう見てられません」

「俺もだ…」


岸田秘書がスミを見るとスミは大きく息を吸っていた。


「スミさん…」


するとスミは何か吹っ切れたように立ち上がり、本田弁護士の元へ行くと一緒に外へ出て行った。


「スミさん、どうしたんだ⁈本田弁護士と出て行ったぞ」

「、、、、」


岸田秘書はスミが来た時から様子がおかしい事に気づいていた。


しばらくしてスミと本田弁護士が戻って来た。


そして10分経ち、再開された。


検察官の言い分が終わった後、シュンの立場が弱くなりいよいよ判決の言い渡しとなった。


もうダメだ…


岸田秘書と専務は心の中で思った。


「原告人は自分を刺す理由がない。被告人は無罪を主張するが証拠がない。よって…」


「待って下さい‼︎」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

処理中です...