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56話 気持ちの変化
しおりを挟むシュンは柳本グループに行く前にスミの実家に行った。
勇気を出して玄関のチャイムを押した。
しばらくしてスミの母親が出て来た。
「地曽田さんっ」
「ご無沙汰してます」
「ど…どうしたの?」
「お母様…いえ…会長にお話がありまして」
「え?スミのことなら聞かないわよ」
「いいえ、仕事の件です」
「…仕事の件?」
母親はシュンをリビングに通した。
「もうあなたと会う事はないと思ってたわ」
「…すみません」
「で、仕事の件って?うちの会社が危機的状況って事は知ってる?」
「はい…」
「そうよね。株見たらわかる事よね」
「…うちと取引きさせて下さい」
「…え?地曽田グループと⁈」
「そうです。スミさんに話す前に会長の許可を頂きたくて来ました」
「なっ…何言ってるの?うちが地曽田グループと取引きするなんて。正気なの⁈」
「はい。うちが取引きして何とかしますので」
「…あなた…まだスミのこと…」
「…好きです」
「地曽田さん!」
「好きですが…想ってるだけで何も望みません。ただ…助けたいんです」
「、、、、」
「このままでは倒産しますよ」
母親は、シュンとはもう関わりたくない気持ちと助けてもらいたい気持ちが入り混じり複雑な心境だった。
「それに…スミさんのせいじゃありません。こうなったのは全て岡田裕二の仕業です」
「えっ、裕二さんが⁈」
「はい。汚い手を使って柳本グループを潰すつもりです」
「そんな…あの人は…何でもう釈放されてるの⁈」
「僕の前妻が保釈金を出しているんです。そして今、SS社の副社長をしています」
「SS社の⁈以前あなたの前妻と裕二さんは浮気してたみたいだけど、まだ繋がってたのね⁈あんな人がのうのうと過ごしてるなんて許せない‼︎SS社の副社長だなんて…」
「このまま行けばあいつは社長に就任しますので、その前に僕が引きずり下ろします」
「あんな人に会社を潰されてたまるもんですか」
「それに…お父様の為にも会社を潰してはいけません」
「、、、、」
「少し時間ががかかるかも知れませんが協力させて下さい。必ず何とかしますから」
母親はしばらく黙って考えて話し始めた。
「…地曽田グループが取引きしてくれるなら心強いわ…」
「じゃあ」
「…お願いするわ」
「ありがとうございます!それでは今から柳本グループに行って来ます」
「あの…地曽田さん…」
「はい」
「…あの人とは…上手くいってるの?もう知ってるんでしょ?」
「あ…僕、実家には帰ってません。今後もあの人がいる限り帰りません」
「そ…そうなの…」
「それでは失礼します」
「地曽田さん…ありがとう」
「え…はっ…はい…」
母親はシュンが車で行くのを見送った。
結局…また私たちを助けてくれるのね…
地曽田さんがスミと一緒になったらどんなにいい事か…
ごめんなさい…地曽田さん…
柳本グループに着いたシュンは早速スミのいる社長室へと急いだ。
「どうぞ」
…シュン…
「よっ!」
「どうしたの?」
「ちょっといいかな?」
「うん…座って」
2人はソファーに向き合って座った。
「スミ、うちの会社と取引きしよう」
「…え?取引きって…」
「柳本グループと取引きしたいんだ」
「なっ…何言ってるの?地曽田グループがうちと取引きだなんて…冗談でしょ」
「本気だよ。会社の為にも急ぎたい」
「もしかして…うちの会社の為…?」
「…そうだよ‼︎潰す訳にはいかないだろ」
「…でも、それは…母が反対すると思う…」
「会長にはここに来る前に会って了解を得て来たよ」
「えっ、ほ…本当に?お母さんが?」
「うん。だからスミ…いいでしょ?」
「、、、、」
「スミ、悩んでる暇はないんだよ。とりあえずうちと取引きすれば何とか持ち堪えられると思うから。完全に復活するには少し時間がかかると思うけど、それまで耐えてくれ」
「、、、、」
「スミ!」
「…わかった…ありがとう…」
「…ったくスミは。初めからそう言えばいいんだよっ」
確かに…10社以上と取引きするのと、地曽田グループと取引きするのは変わらない…
シュンの会社が取引きしてくれるだけでかなり心強い…
「シュン…本当にありがとう。必ず耐えてみせるから」
「うん。スミなら大丈夫」
スミは契約書にサインし、地曽田グループと柳本グループの取引き契約を交わした。
「近いうち、うちの会社に来て欲しいんだけど」
「…わかった」
「スミの携帯番号聞いてもいいかな?会社に連絡するより、直接携帯にかけた方が早いし」
「あっ…うん」
スミはシュンと同じように名刺に携帯の番号を書いて渡した。
「ありがとう。仕事の電話しかしないから安心して」
「…うん。あの…シュン」
「何?」
「うちの母親…驚いてたでしょ。何か嫌なこと言われなかった?」
「うん…大丈夫だよ」
「そ…そう…」
「じゃ、会社に戻るよ」
「うん。何から何まで感謝してる…シュンには頭が上がらない…」
「じゃあ…今度、接待してくれよ」
「あ…うん」
「じゃあね」
シュンは会社に戻って行った。
シュン…
本当に本当にありがとう…
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