上 下
41 / 110

41話 福岡に行く決心

しおりを挟む

翌朝、秘書はいつも通りにスミを迎えに来たが一言も喋らなかった。
会社に着いて中へ入ると、秘書は退職届をスミに渡した。


「えっ…これ」

「今月いっぱいで退職させて下さい」

「急にどうして?」

「社長の秘書を続ける自信がなくなりました。それ以上は聞かないで下さい」

「自信がなくなったって…」

「残り半月、頑張ります」

「本気なのね?」

「はい」

「わかった…」

「それでは失礼します」


スミは大体の理由がわかっていたので引き留めなかった。


土曜日、朝の便でスミは福岡に行った。

福岡空港に着くとタクシーに乗りそのまま糸島へ向かった。

都市から少し離れ海沿いの道路を走ると、一気に景色が変わった。


「運転手さん、窓開けてもいいですか?」

「どうぞ」


窓を開けると涼しい風が入ってきた。


すごく綺麗…


「お客さん、どちらからですか?」

「東京です」

「東京からですか?糸島は初めてですか?」

「いえ、学生の時に1度来た事があります」

「そうですか。いい所ですよね。海も山もあって」

「そうですね」


シュンがこの場所を選んだ理由がわかったような気がする…


スミは到着するまで風に当たりながら景色を見ていた。


14時過ぎ、シュンの父親から渡されたメモに書いてある住所の場所に辿り着いた。

スミはタクシーを降りると施設の前で立ち止まっていた。


ここが…シュンが始めた施設…


広い敷地では10人くらいの子供たちが遊んでいた。


シュン…中に居るのかな…


その時1人の男性がスミに近づいて来た。
シュンの秘書の岸田だった。


「スミさん?」

「岸田さんっ…」

「スミさんじゃないですかっ⁈」

「おっ…お久しぶりです」

「どうしてここに…⁈」

「ちょっと…シュンに話があって…シュンは居ますか?」

「社長はちょっと出てますがもうすぐ帰って来ると思います」

「そうですか」

「スミさん…お元気でしたか?」

「…はい。岸田さんもここに来てたんですね」

「はい。来週、僕だけ東京に戻る予定です」

「そうですか」

「あっ…戻って来ました」

「えっ…」


スミが後ろを振り向くと、シュンがこっちに向かって歩いて来ていた。

シュンはスミの姿に気づいて足を止めた。


ス…スミ…⁈
どうして…


「じゃ、僕は中へ入りますね」


秘書は気を遣って部屋の中に入って行った。


シュンはゆっくりとスミの方へ歩いて来た。


「あの…シュン…」

「驚いたよ…どうしてここに⁈」

「それは…」

「とりあえず中へ入って。着替えて来るから」


シュンは施設の中へスミを案内して着替えに行った。


しばらくするとシュンが戻って来た。


「お待たせ」


シュンはスミにお茶を出した。


「ありがとう…突然来て…ごめんね」

「ここ…専務に聞いたの?」

「ううん。シュンのお父様」

「父さん?どうして」

「うちの会社にお父様が来たの…」

「えっ…何で」

「シュンのこと心配してた…戻って来ないかも知れないって」

「だからって、どうしてスミに話すんだ…」


そこに施設のスタッフがやって来た。


「社長、お客様がお見えです」

「あっ…カイ君の親戚の方だよね」

「そうです」

「ちょっとお茶出して待っててもらって。すぐに行くから」

「わかりました」

「ごめんスミ…行かないと」

「うん…」

「今日帰るの?」

「博多にホテル取ってるから明日帰る」

「夕方からでもいいなら、そっち行こうか?」

「え…」

「…まだ話があるんでしょ?」

「…うん。いいよ。私ここで待ってるから」

「ここで?でも俺、出たりするけど…」

「子供たちと遊んでる…」

「…わかった。何かあったら岸田に言って」


シュンは待たせている来客の元へ行き、スミは外へ出て子供たちと遊んだ。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

【完結】好きな人に身代わりとして抱かれています

黄昏睡
恋愛
彼が、別の誰かを想いながら私を抱いていることには気づいていた。 けれど私は、それでも構わなかった…。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...