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41話 福岡に行く決心
しおりを挟む翌朝、秘書はいつも通りにスミを迎えに来たが一言も喋らなかった。
会社に着いて中へ入ると、秘書は退職届をスミに渡した。
「えっ…これ」
「今月いっぱいで退職させて下さい」
「急にどうして?」
「社長の秘書を続ける自信がなくなりました。それ以上は聞かないで下さい」
「自信がなくなったって…」
「残り半月、頑張ります」
「本気なのね?」
「はい」
「わかった…」
「それでは失礼します」
スミは大体の理由がわかっていたので引き留めなかった。
土曜日、朝の便でスミは福岡に行った。
福岡空港に着くとタクシーに乗りそのまま糸島へ向かった。
都市から少し離れ海沿いの道路を走ると、一気に景色が変わった。
「運転手さん、窓開けてもいいですか?」
「どうぞ」
窓を開けると涼しい風が入ってきた。
すごく綺麗…
「お客さん、どちらからですか?」
「東京です」
「東京からですか?糸島は初めてですか?」
「いえ、学生の時に1度来た事があります」
「そうですか。いい所ですよね。海も山もあって」
「そうですね」
シュンがこの場所を選んだ理由がわかったような気がする…
スミは到着するまで風に当たりながら景色を見ていた。
14時過ぎ、シュンの父親から渡されたメモに書いてある住所の場所に辿り着いた。
スミはタクシーを降りると施設の前で立ち止まっていた。
ここが…シュンが始めた施設…
広い敷地では10人くらいの子供たちが遊んでいた。
シュン…中に居るのかな…
その時1人の男性がスミに近づいて来た。
シュンの秘書の岸田だった。
「スミさん?」
「岸田さんっ…」
「スミさんじゃないですかっ⁈」
「おっ…お久しぶりです」
「どうしてここに…⁈」
「ちょっと…シュンに話があって…シュンは居ますか?」
「社長はちょっと出てますがもうすぐ帰って来ると思います」
「そうですか」
「スミさん…お元気でしたか?」
「…はい。岸田さんもここに来てたんですね」
「はい。来週、僕だけ東京に戻る予定です」
「そうですか」
「あっ…戻って来ました」
「えっ…」
スミが後ろを振り向くと、シュンがこっちに向かって歩いて来ていた。
シュンはスミの姿に気づいて足を止めた。
ス…スミ…⁈
どうして…
「じゃ、僕は中へ入りますね」
秘書は気を遣って部屋の中に入って行った。
シュンはゆっくりとスミの方へ歩いて来た。
「あの…シュン…」
「驚いたよ…どうしてここに⁈」
「それは…」
「とりあえず中へ入って。着替えて来るから」
シュンは施設の中へスミを案内して着替えに行った。
しばらくするとシュンが戻って来た。
「お待たせ」
シュンはスミにお茶を出した。
「ありがとう…突然来て…ごめんね」
「ここ…専務に聞いたの?」
「ううん。シュンのお父様」
「父さん?どうして」
「うちの会社にお父様が来たの…」
「えっ…何で」
「シュンのこと心配してた…戻って来ないかも知れないって」
「だからって、どうしてスミに話すんだ…」
そこに施設のスタッフがやって来た。
「社長、お客様がお見えです」
「あっ…カイ君の親戚の方だよね」
「そうです」
「ちょっとお茶出して待っててもらって。すぐに行くから」
「わかりました」
「ごめんスミ…行かないと」
「うん…」
「今日帰るの?」
「博多にホテル取ってるから明日帰る」
「夕方からでもいいなら、そっち行こうか?」
「え…」
「…まだ話があるんでしょ?」
「…うん。いいよ。私ここで待ってるから」
「ここで?でも俺、出たりするけど…」
「子供たちと遊んでる…」
「…わかった。何かあったら岸田に言って」
シュンは待たせている来客の元へ行き、スミは外へ出て子供たちと遊んだ。
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