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40話 お父さんの為と言い聞かせて
しおりを挟む社長室から出て来たシュンの父親の元へ秘書が近づいて行った。
「あの…すみません」
「え?」
「地曽田さんって…もしかして地曽田社長のお父様ですか?」
「そうだけど、君は?」
「僕は地曽田社長と仲良くさせてもらってる中田テルと言います。ここの秘書をしています」
「そうなのか」
「よろしかったら少し時間ありますか?コーヒーでもいかがですか?」
2人は社内の休憩室へ行った。
それから1時間後、秘書はスミが居る社長室に戻った。
「社長っ…ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「さっきまで兄貴のお父さんと話してました」
「え?中田秘書が?どうして」
「聞きました」
「何を…?」
「兄貴と社長はお互い好きなのに仕方なく別れた事…」
「え…」
「理由は教えてくれませんでしたが…理由はどうであれ、どうして好きなのに別れたんですか⁈」
「それは…」
「おかしいと思ってたんです。昨日だって社長、空港に行ったでしょ⁈」
「えっ…何で…わかったの?」
「わかりますよ。すごい勢いで会社出たみたいだし。まだ好きなんですね」
「、、、、」
「兄貴も平気なフリしてるけど社長のこと…」
「どうにもならないのよ。私たちは一緒になっちゃいけないのよ」
「どうしてですか?」
「…色々あるのよ」
「納得出来ません。お互い好きならいいじゃないですかっ」
「そんな簡単じゃないのよ」
「え…」
「もう…放っといて…お願いだから」
「…社長の気持ちわかっていたら僕、告白なんかしてませんでした…失礼します」
秘書はそう言い捨てて社長室を出て行った。
どうしろって言うのよ…
どうしろって…
この日の夜、スミは実家に帰り久しぶりに母親と飲んでいた。
「スミから飲もうだなんて珍しいわね」
「うん」
「何かあったの?」
「…今日ね、シュンのお父様が会社に来たの」
「えっ、どうして⁈」
「シュン…別れた理由を知ったみたい…」
「えっ…それで、あの女とは大丈夫なの⁈」
「ううん。シュンは継母とはもう無理みたい。それにシュン…福岡に行ったから」
「福岡に?どうして」
「新しく事業する為に行ったみたいだけど、もう戻って来ないかも…」
「そ…そう…」
「だからお父様に頼まれた。私が福岡に行ってシュンに帰って来るように伝えてって…」
「それで…スミはどうするの?」
「…断った」
「そうね。それでいいのよ」
「、、、、」
「辛い思いして別れたのに、また会ったら余計に辛くなるでしょ」
「お母さんには話してないけど実は何度かシュンに会ってるの…」
「えっ⁈会ったって…どうして⁈」
「たまたまなんだけどね」
「まっ…まぁ…同じ都内に居れば会う事もあるでしょうね…でも地曽田さんは福岡に行ったのなら、もう会う事もないわね」
「お母さん…」
「え?」
「もし…もしだよ…シュンがこのまま家に戻らなかったら、私とシュン…また…」
「何言ってるの⁈スミ!忘れたの?あの女がしてきた事。例え地曽田さんが戻って来なくても継母は継母でしょ」
「…そうだけど」
「地曽田さんが継母と縁を切ったとしてもあちらのお父様はどうなるの?お父様のことは見捨てたりしないでしょ」
「、、、、」
「スミ、あなたまだ地曽田さんのこと」
「…ごめん。お母さん」
「じゃあもう好きにしなさい。お母さんはあなたと縁を切るから!」
「お母さんっ」
「、、、、」
母親は頭を抱えた。
「お母さんの気持ちも考えずごめんなさい。これ以上は望まないから…好きな気持ちは心にしまっておく…」
「私の方こそ…ついムキになってごめんなさい。自信がないのよ。地曽田さんを見るとあの女の顔が思い浮かぶから…苦しかった過去が蘇ってくるのよ」
「…うん」
「ごめんね。あなたたちは何も悪くないのにね…」
「お母さん…1つだけ許してもらいたいんだけど」
「何?」
「シュンは全てを知ってきっと自分を責めてると思う。それにお父様の体の事も心配だから断ったけど…やっぱり…」
「、、、、」
「福岡に行って来ていい?」
母親は黙ってお酒が入ったグラスを見つめていた。
「今さら何もないから。特にシュンは知ってしまった以上ヨリを戻すなんてこと出来ないと思うから」
「…ちゃんと帰って来るのよ」
「お母さんっ…」
「確かに地曽田さんの性格だと、ヨリを戻すなんて事しないわよね。スミを信じるわ」
「シュンのお父様の為に行って来るだけだから心配しないで」
「…わかったわ」
スミは2日後の土曜日に一泊で福岡に行く事にした。
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