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35話 少しでもいい環境を
しおりを挟む翌朝、シュンは女の子を探しに行った。
コンビニの近くで座り込んでいるのに気付き、女の子の方へ歩み寄った。
「何してるの?」
女の子は黙ったままシュンを見上げていた。
「お腹空いてない?お兄ちゃん家この近くだからご飯食べに行く?」
女の子は頷いてシュンについて行った。
シュンの家に入り、女の子の為に買っておいた服を取り出した。
「これに着替えよう。気に入ってくれたらいいな」
女の子は汚れた服を脱ぎ新しい服に着替えようとした。
その時、シュンは女の子の体を見て驚いた。
「ちょっ…ちょっと待って‼︎どうしたのこれ⁈」
女の子の体はアザだらけだった。
「誰がこんな事を‼︎」
「…おじいちゃん」
「え?おじいちゃんって…」
「ミリのおじいちゃん」
「おじいちゃんと一緒に居るの?」
「うん」
「ミリって君の名前?」
「うん」
「じゃあ…ミリはおじいちゃんから叩かれたりしてるの?」
「うん。だから家に帰りたくないの」
この子…住む家はあったんだ…
しかも虐待されてたなんて…
シュンは着替えと食事を済ませるとミリを会社に連れて行った。
「社長っ…この子は⁈」
「福岡に連れて行く子。悪いけど見ててくれる?」
「えっ…社長どこか行かれるんですか?」
「この子…住む所がないと思ってたけど祖父と住んでるみたいだから話に行って来る。一緒には住ませておけない」
「ど…どうしてですか?」
「虐待されてるから」
「え…」
「じゃ、行って来る」
ミリの家は会社に向かう途中に教えてもらっていた。
ミリの家に着きチャイムを鳴らそうとするが壊れていて鳴らなかったのでシュンはドアを叩いた。
「すみません!誰か居ますか⁈」
玄関が開き、家の中から70歳くらいのミリの祖父らしき男が出て来た。
「何だ?」
「あの…突然すみません。お孫さんのことでお話しがあり伺いました」
「ミリのこと?」
「はい。そうです」
「ど…どうぞ入って下さい」
「お邪魔します…」
家の中はゴミだらけだった。
「適当に座って下さい」
「はっ…はい…」
「ミリがどうしたんですか?あなたは一体誰ですか?」
福祉の人か警察が来たのかと思った祖父は内心ビクビクしていた。
「私はこの近くに住む者です」
「会社員か?」
「ま…まぁ…」
安心した祖父は態度が急変した。
「何だ?何の用だ⁈」
「ミリちゃんを引き取りたいんです」
「なっ、何だと⁈お前…引き取りたいってどういう事だ⁈」
「近々児童施設を始めるんですが、ミリちゃんをそこで伸び伸び過ごさせたいんです」
「施設だって…?ダメだ。ミリだってここから離れたくないはずだ」
「そうですか?ミリちゃんは帰りたくないって言ってますけど」
「そんなの嘘だ‼︎そんな事したら誘拐になるからな‼︎」
「だから…勝手なこと出来ないのでお話しに来ました」
「だからダメだ。ミリはどこだ⁈」
「私の会社に居ます」
「お前の会社だって…?勝手に連れて行って、警察呼ぶからな‼︎」
「どうぞ。呼ぶなら呼んでもらって構いませんよ。その前に自分がミリちゃんにしてる事わかってますか?」
「えっ…」
「虐待ですよ。あんな小さな子を虐待するなんて絶対に許せません」
「そ…それは」
「一体どうして…お孫さんでしょ?」
「…娘がいけないんだ。私の娘が…ミリを置いて自ら命を絶ったりしたから…俺に面倒なこと押し付けやがって」
「ミリちゃんのお母さんが…?」
「そうだよ。誰の子かもわからず勝手に産みやがって、生活が苦しくなって娘は…俺も自分の生活で精一杯なのに孫の面倒まで見れないに決まってるだろ‼︎」
「だからって暴力はダメでしょ…」
「俺を睨む顔が娘にそっくりなんだよ。これからも気付けば殴ってると思う…」
「じゃ…尚更ここへは帰せませんね」
「、、、、」
「娘さんは楽を選んで自ら命を絶ったかも知れませんが…娘さんでしょ?そんな父親の姿は望んでないと思いますよ」
「…俺だって苦しいんだ…」
「働く気はあります?」
「あるけど働き口がないんだよ‼︎」
「私が何とかします」
「えっ、本当か?」
「はい。だからミリちゃんの為にもしっかりして下さい」
「じゃあ…それまで…それまでミリのことを…」
「お預かりします」
「…よろしくお願いします…」
「わかりました。落ち着いたら会いに来てあげて下さい」
「どこで施設を始めるんですか?」
「福岡です」
「え…福岡…そ…そうですか。でもミリにとってはここで過ごすよりいいと思います」
話がまとまりシュンは会社に戻って行った。
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