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33話 さよなら

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「聞いていい?」

「何?」

「福岡で仕事って何するの?新しい事?」

「うん。児童施設だよ」

「えっ⁈どうして急に」

「スミはさぁ…もし道で親も居なくて住む所もない子供と出会ったらどうする?」

「それは…放っとけない。預かってくれる施設を探すかな…でも今いっぱいで預かり拒否するとこが多いらしいからな…」

「そうだよね。だからなんだよ」

「え?」

「だから、自分が施設作ればいいって思ったんだよ」

「シュン…」

「最近、うちの近くでそういう子に会って気付かされたんだ」

「え…家の近くってコンビニの辺り?」

「そうだけど」

「女の子?」

「うん」

「髪の長い子じゃない?」

「えっ、スミ…その子知ってるの?」

「前にコンビニの前で1人で飲んでた時にその子をよく見かけてた。コンビニの前に毎日来てるんじゃないかな。何度か話しかけたけど走って行っちゃうの。その子…親が居ないの⁈」

「うん。コンビニの前に行けば居るんだね」

「前はそうだったけど…最近シュンがそこでその子と会ったならきっと今も居ると思う」

「その子を福岡に連れて行こうと思ってたから探すつもりだったんだ。助かったよ」

「優しいね…」

「え…」

「いいと思う。頑張ってね」

「うん。ありがとう」


それからしばらく沈黙が続いた。


「音楽つけていい?」

「いいよ」


スミが音楽をつけると、2人でよく聞いていた曲が流れた。


「この曲…」

「あっ…CDそのまま入れっぱなしにしてたから。俺1人の時はあんまり音楽聞かないからさ」

「…うん」


2人は付き合っていた頃を思い出していた。


「お父さん…元気?」

「元気だよ」

「お母さんは…?」

「うん。元気だよ」

「そっか」


シュンはまだ知らないままだよね…
その方がいい…


「福岡には岸田さんも一緒に行くの?」

「うん」

「そっか。私、学生の時に福岡行った事あるけどいい所だよね」

「行った事あるんだね」

「うん。特に糸島ってとこ…海が綺麗でよかったな…」

「糸島に物件買ったんだよ」

「本当⁈いいじゃない!」

「うん」

「そっかぁ…いいな。私も行きたいなぁ」

「え…」

「あっ…いつかまた行ってみたいと思っただけよ」

「…スミ」

「えっ?」

「テルのことだけど」

「中田秘書のこと?」

「俺たちが前に付き合ってた事、話したから」

「、、、、」

「別に隠す事じゃないと思ったし、騙してるようで嫌だったんだ」

「中田秘書は知ってたと思うよ。私話したような気が…」

「そうなの?じゃ、あいつ知ってて今まで…」

「中田秘書のこと、本当に可愛がってるんだね」

「慕ってくるし、可愛いんだ」

「人懐っこいしね」

「焼肉店で話したこと覚えてないだろうから。もう一度言うけどテルはスミに本気だよ」

「え…」

「いいと思うよ」

「…シュン」

「受け入れたら?」

「そんなこと言われても…」

「歳の差なんか関係ないよ。上司と部下だから?いいじゃない。毎日一緒に居られるし」

「…シュン」

「ん?」

「私、ここで降りるよ」

「え?もうちょっとで着くよ」

「いい」


スミがシートベルトを外そうとするとシュンが止めた。


「家の前まで送るから」

「、、、、」

「気に触ったならごめん。スミが決める事だしね。もう言わない」

「私も…何か…ごめん」

「ただ、スミには幸せになって欲しいんだ」

「私は…」


シュンじゃないと無理なの…
だから誰とも付き合わない…


「今でも十分幸せよ」

「そっか…」

「…うん」


スミの家の前に着いた。


「着いたよ」

「あ…ありがとう」


もう会うことはない…
もう最後なんだ…


2人はそう思った。


「じ…じゃあ」

「うん…」

「スミ、元気で。さよなら」

「シュンも…さよなら」


そして2人は別れた。







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