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29話 悩んだ末

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え…どうしてシュンがいるの⁈


スミは秘書とシュンが座っている席にゆっくりと歩いて行った。


「こっち、座って下さいっ」

「わ…私、帰る」

「えー、どうしてですかっ。せっかく来てくれたのに」

「でも…」

「座って下さい」


え…


シュンから言われたスミは仕方なく座った。


「すみません。地曽田社長も一緒でした。でも顔見知りならいいでしょっ。これ社長のビールです。飲んで下さい」

「えっ…ええ…」


一気に気まずい空気になり、テルに変に思われないようシュンは頑張って明るく振る舞った。


「テル、俺たちの飲み物ないぞ。ワインをボトルで頼むか?」

「いいですねー」

「柳本社長もワイン飲みます?」

「えっ…はっ…はい」


店員を呼ぶとシュンは赤ワインと白ワインのボトルを頼んだ。


「白ワインも飲むんですか?」


シュンはスミが白ワインが好きなので頼んだのだ。


スミはシュンの顔を見れず、ただ黙って飲んでいた。


「社長っ?静かですね」

「えっ…そ…そう?」

「社員の相手して疲れたんでしょー?明日は休みだし飲みましょ。1軒目であまり食べてないんでしょ?」

「そうだけど」


するとシュンはスミの皿に焼きあがった肉を盛った。


「どうぞ」

「あっ…ありがとう…ございます」


ワインを注ぎ3人で乾杯した。


「何か嬉しいなー」

「どうして?」

「だって、兄貴のことも好きだし社長のことも好きだし。この2人とこうやって食べて飲んで…僕…今幸せですっ」

「わっ…私ちょっとお手洗いに行って来る…」

「はーい。すぐ戻って来て下さいねっ」


シュンはスミの後ろ姿を目で追っているとテルがシュンのグラスにワインを注いだ。


「兄貴っ、飲んで下さいっ。僕ばっかり飲んでるし」

「テル…酔ってるでしょ」

「ちょっとだけ。だって楽しいし」

「一応、家の鍵を預けといてくれる?」

「えっ、どうしてですか?」

「何か…介抱しないといけない様な気がするんだけど」

「僕もそう思いますっ。じゃ渡しておきますっ」


テルは家の鍵をシュンに預けた。


「テルが大丈夫そうだったら返すから。そうじゃなかったら家に送って鍵はポストに入れておくよ」

「わかりましたっ。それより兄貴っ、社長に僕のこと推して下さいねっ」

「、、、、」

「本当に社長のことが好きで好きでたまらないんですっ」

「テル…」


スミが戻って来た。


「あっ、社長お帰りなさーいっ」

「酔ってるでしょ…」

「はいっ。社長に酔ってますっ」

「…ったく」


スミが飲み干したグラスにシュンがワインを注いだ。


「あっ…」

「白で…よかったですか?」

「はっ…はい…」

「ちょっと!何で2人ともヨソヨソしいんですかー?」

「え?」

「あーっ、わかった‼︎お2人は以前何かあったんでしょーっ」

「…え」

「冗談ですよっ。冗談っ…」


そしてテルは酔い潰れ、テーブルに顔を伏せて寝てしまった。


あー…今日も介抱コースだな…


シュンがテルを見ていると、スミはワインを次々に飲み出した。
テルが寝てしまい再び気まずい雰囲気になった。
しばらく沈黙が続き、初めに口を開いたのはシュンだった。


「元気だった?」

「…うん。シュンは?」

「うん」

「…そっか」

「お母さんも…元気にしてる?」

「うん」

「会社も上手く行ってるみたいだね」

「おかげ様で」


2人ともぎこちない会話だった。


「それにしても驚いたよ。テルの家からスミが出て来た時は…」

「私も驚いた。それにパーティーにシュンがいた時も…」

「ドレス…すごく似合ってたよ」

「えっ…あ…ありがとう」

「スミ…」

「え?」

「テルは裏表なくいい子だよ」

「わっ…私たち別に付き合ってるとかじゃないから」

「付き合えばいいのに」

「え…」

「テルは本気だよ」

「…そ…そんなこと言われても…」

「俺はいいと思うけどな…」

「……え」


シュンがテルのことを思って無理をして言っているとはわからないスミは捻くれてワインを勢いよく飲んだ。


「そうねっ。イケメンだし、何たって若いしね~」

「そ…そうだね…」


一気に気まずい雰囲気ではなくなった。


「だいたい何でうちの秘書とここまで仲良くなってるのよっ」

「それは最初は専務が連れて来て…」

「専務も専務よ。私に言ってくれればいいのに。シュンの名前すら私の前では禁句になってるし…」

「ちょっと…スミ、酔ってる?」

「酔ってないっ‼︎」


酔ってるな…


「中田秘書だって私の10歳も下よ。部下だし有り得ない」

「年は関係ないだろ」

「そんなに私と中田秘書を付き合わせたいわけ?お母さんだってそうよ!」

「お母さんも…そう言ってるの?」

「そうよ。それに秘書は必要なかったのにお母さんが中田秘書を雇ったし」

「そっ…そっか。お母さんもテルのこと気に入ってるんだね。ならいいじゃん」

「何それ」

「こうしていると…」

「え?」


あの頃を思い出すな…


「いや…何でもない」


スミはワインをもう1本頼んだ。


「よく飲むなー」


結局1時間後、スミも酔い潰れて寝てしまった。


1人残ったシュンは会計を済ませた。
とりあえず2人をタクシーに乗せ先にテルを送った。


「次はどちらまで?」

「ちょっと待って下さい。スミ…スミ!」


スミは全く起きる気配がない。


スミの実家に送ってたとしても、お母さんには会えないからな…


「お客さん?」

「あっ…じゃ…Cホテルまでお願いします」

「わかりました」


スミの実家には送りづらいシュンは悩んだ挙句、会社が経営するホテルへ向かってもらった。






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