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24話 兄と弟

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翌日、秘書は予約した居酒屋でシュンが来るのを待っていた。


「ごめんね。待った?」

「いいえ。僕もさっき着いたばかりです」


2人は料理を注文した。


「こういうお店でよかったですか?」

「全然いいよ」

「よかった。すみません。急に…」

「いいけど、話したい事って?」

「それが…特にないんです。ただ地曽田社長とゆっくり飲みたいなぁと思って」

「え?そうなの?」

「とりあえず飲みましょっ」

「う…うん」


この子…人懐っこくていい子そうだな…


シュンはそう思いながら秘書を見ていた。

1時間後、秘書は少し酔いが回ってきた。


「地曽田社長はどうしてそんなにカッコいいんですか?」

「えっ?そんな事ないよ」

「いいえ。カッコいいし仕事出来るし…憧れます」

「酔ってきたな。でもありがと」

「僕…実はお酒弱いんですよ」

「知ってるよ」

「えっ、どうして」

「この前、酎ハイの薄め…頼んだでしょ」

「あっ…そうでしたね」

「今日は結構飲んでるけど大丈夫?」

「はい。今日は嬉しいから飲みたいんです」

「嬉しいって?」

「兄に似てるんです。地曽田社長が…」

「そうなの?へぇー、お兄さんいるんだ?」

「はい。事故で1年前亡くなりましたけど」

「え…」

「僕、親よりお兄ちゃんっ子だったんです。だから兄貴が亡くなってもしばらく受け入れられなかった…」

「…そうだったんだ…」

「兄貴は優しくていつも僕の味方してくれて…」


涙を流しながら話す秘書を見たシュンはハンカチを取り出すと黙って秘書の涙を拭った。


「すみませんっ」

「いいよ。思い出しちゃったんだね」

「地曽田社長が兄貴に似てるから一緒に居るようで嬉しいです」

「俺は1人っ子だから中田君みたいな弟が欲しかったよ」

「本当ですかっ?じゃ僕の名前、テルだからテルって呼んで下さい。兄貴からもそう呼ばれてたんで」

「わかった。そう呼ぶよ」

「僕は地曽田社長のこと、兄貴って呼んでいいですか?」

「兄貴⁈」

「はいっ」

「いいよ」


子犬のような目で見つめられ、シュンはそう言うしかなかった。


「やったー!兄貴っ」

「その代わり…そう呼ぶのは俺の前だけだよ。専務たちの前では呼んじゃダメだからな」

「わかりましたっ。じゃもう1回乾杯しましょっ」

「はい、乾杯」


更に1時間後、秘書はとうとう酔い潰れて寝てしまった。
シュンは秘書を起こそうとするが全く目を覚ます気配がない。
家もわからないまま仕方なくシュンは秘書を背負うとタクシーに乗り自分の家に連れて帰った。


クタクタになったシュンは秘書をベッドに寝かせてシャワーを浴びに行った。

その後、ベッドで寝ている秘書のことをしばらく見ていた。


兄貴に似てるか…
よっぽどお兄さんのこと愛してたんだな…
この子…いや…テルの勢いには負けるわ…
あまりにもいい子で素直で…
そういえば…忘れてた…
テルとスミは…
本当にそうなのか…?


シュンはテルに毛布を掛けて部屋を出た。


翌朝7時過ぎ、シュンはテルを起こしに行った。


「仕事だろ?起きて」

「えっ…ここは…?」

「俺ん家」


驚いたテルは飛び起きて時計を見た。


「うわっ、ヤバ…」

「送るから大丈夫だよ」

「8時には社長の家に行かないとっ」

「送迎してるの⁈」

「はい。1度家に車を取りに戻らないと。じゃ僕行きますっ!すみません。ご迷惑をおかけしましたっ」

「ちょっと待って。テルの家まで送るよ。そっちの方が早い」

「いいんですか⁈すみませんっ」


2人はバタバタと準備してテルの家に向かった。


「ここです。ありがとうございました。兄貴!」


テルは急いで家に入って行った。





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