上 下
18 / 110

18話 片思い

しおりを挟む

秘書を見る目が変わったスミは秘書に対して優しく接するようになっていた。
1週間後、スミが社長室にいると秘書が入って来た。


「社長、これ」

「何?」


秘書は封筒を渡した。


「招待状?」


中を確認すると同業者が集まるパーティーの招待状だった。


「再来週の金曜か…」

「何かあるんですか?」

「うん、パーティーみたい」

「じゃ、その日は社長の予定は入れないようにしておきますね」

「中田秘書も同行してね」

「え?僕もですか?」

「うん。同業者のパーティーだから挨拶して回らないとね。私に付いていればいいから」

「はい。わかりました」

「スーツは買ってあげるから」

「えっ…いいんですか」

「サイズもあるから一緒に行きましょ」

「やったー。嬉しいなー」


喜ぶ秘書の姿を見てスミは母性本能をくすぐられていた。


日曜日、2人はパーティー用のスーツを買いに出かけた。


「好きなの選んで」

「たくさんあり過ぎて選べません。社長が選んで下さい」

「そうねー」


店員が話しかけて来た。


「どのようなタイプをお探しですか?」

「パーティー用のスーツです」

「色は落ち着いた方がいいですか?それとも…」

「落ち着いた感じで」

「じゃあ、これなんかどうですか?彼氏さんはスタイルいいし細めのスーツで」

「いやっ…彼氏じゃ…」

「いいですねっ。これいいと思いますっ」

「じ…じゃあ…試着いいですか?」

「わかりました。こちらへどうぞ」

「はーいっ」


10分後、秘書が試着室から出て来た。


うわっ…似合ってる…


「いいじゃないですか。よくお似合いですよ」


秘書は照れながらスミを見ている。


「うん…いいと思う…」

「本当ですかっ」

「彼氏さんイケメンですし、俳優さんみたいですよ」

「あの…彼氏じゃ…」

「ありがとうございますっ」


もう…否定してよ…


「これですとサイズ直さなくても大丈夫そうですね」

「じゃ…このまま頂いていきます」

「じゃあ着替えて来ますね」


秘書が私服に着替え終わり、スーツを持って来た。


「じゃ、お会計お願いします」

「はい。38万円になります」

「カードで」

「えっ。38万円⁈」


すると秘書はスミのカードを取り上げた。


「何するの?」

「こんな高いとは思ってませんでした。もっと安いのでいいです」

「安い方よ。他のスーツ見てみて。もっと高いから」

「え…じ…じゃあ…他の店に…」


スミはカードを取り上げ店員に渡した。


「一括で」

「はっ…はい」

「恥かかせないで」

「でも…」


秘書は複雑な気持ちのまま店を出た。


スミはスーツが入っている紙袋を秘書に渡した。


「はい。当日ちゃんと着て来てね」

「社長…本当にいいんですか?もしあれだったらお金返します。一括じゃきついので分割でいいなら」

「中田秘書、こういう時は有難く頂くものよ」

「…でも」

「怒るわよ」

「わっ…わかりました。社長ありがとうございます‼︎」

「それでいいの。じゃ…ここで別れましょう」

「えっ?もう…ですか?」

「スーツを買いに来ただけだし、せっかくの休日でしょ?」

「社長は?パーティーに来て行く服は買わないんですか?」

「私はこれから買いに行く」

「じゃ、僕も一緒に行きます」

「えっ…いいわよ。1人で行くから」

「ご一緒させて下さい。お願いしますっ」


スミは仕方なく秘書を連れてドレスを選びに店に入った。


「いらっしゃいませ。どういったのをお探しですか?」

「パーティー用のドレスを…」

「かしこまりました。お客様でしたらこちらのドレスなんかお似合いだと思いますよ」

「あ…ちょっと胸元が開き過ぎかな…」

「僕もそう思いますっ」

「露出少なめがいいんですね」

「そうですね…」


しばらくスミは店内を見て回り、目に止まったドレスを手に取った。


「さすがお客様お目が高いですね。このドレスは世界で3着しかないんですよ。真っ白でお客様にお似合いだと思います」

「試着していいですか?」

「はい、こちらへどうぞ」


スミは試着しに行った。


「彼女さん、お綺麗だからお似合いでしょうね」

「はいっ。楽しみですっ」

「美男美女で羨ましいです」

「あの…僕たち恋人に見えますか?」

「はい。えっ?違うんですか?」

「いえ…違うく…ないですっ」


スミと恋人に見られて秘書は喜んでいた。


10分後、ドレスに着替えたスミが試着室から出て来た。


秘書はスミに見惚れて開いた口が塞がらなかった。


「すごくお似合いですよ‼︎サイズはいかがですか?」

「ピッタリです…」

「…すごく綺麗です…」

「そ…そう?じゃ、これ頂きます。着替えて来ますね」


スミが着替えている間、秘書は店員にドレスの値段を尋ねた。


「29万ですよ」


高っ…えっ…でも僕のスーツの方が高いのか…
何だか申し訳ないな…


スミが会計を済ませ店を出ると2人でカフェに入った。


「どうしたの?元気なさそうだけど」

「何か…申し訳なくて…」

「まだ言ってるの?」

「だって…」

「その分、しっかり働いてもらうからね」

「はい…いつかお礼しますからっ」

「わかったわ」

「それにしても社長…そのドレス似合ってました。それ着てパーティー行ったら注目の的ですよ」

「そんな事ないわよ」

「悪い男が付かないようにしっかりガードしますっ」

「オーバーね。業者のパーティーなのに」

「大事な社長ですからっ」

「それは…ありがとう」

「じゃあ僕、車取って来ますね。ここで待ってて下さい」


そう言うと秘書はパーキングに停めてある車を取りに行った。

カフェの前に車を停めてスミが後部座席に乗ろうとした。


「今日は仕事じゃないし助手席に乗って下さい」

「えっ…うっ…うん」


スミが助手席に座ると秘書は車を走らせた。


「もう直接家に送りますよ?」

「うん。お願い」


しばらく沈黙が続き、秘書が口を開いた。


「社長はどんな人がタイプですか?」

「えっ、いきなり何?」

「いや…ただ知りたいんで」


スミはシュンを思い出した。


シュンは私を守ってくれてた…
どんな時も…命懸けで…


「社長?」

「私を守ってくれる人…」


スミは小さな声で呟いた。


「え?何て言いました?」

「いや…何でもない。タイプとかないし…」

「そうなんですね。年下はアリですか?」

「年下?」

「10歳くらい下とか」

「何言ってんの?もう着くからここでいいわ」

「家の前まで行きますっ」


家の前に着き、スミが車から降りようとすると秘書はスミの手を握った。


「えっ…な…何?」

「あっ…すっ…すみません」

「じ…じゃ…また明日」

「はっ…はい。また明日…」


スミは急いで家に入って行った。


秘書はスミの後ろ姿をずっと見ていた。


社長…
僕…もっと頼れる男になりますから…
秘書じゃなく1人の男として見てもらえるように…

頑張ります…








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

処理中です...