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18話 片思い
しおりを挟む秘書を見る目が変わったスミは秘書に対して優しく接するようになっていた。
1週間後、スミが社長室にいると秘書が入って来た。
「社長、これ」
「何?」
秘書は封筒を渡した。
「招待状?」
中を確認すると同業者が集まるパーティーの招待状だった。
「再来週の金曜か…」
「何かあるんですか?」
「うん、パーティーみたい」
「じゃ、その日は社長の予定は入れないようにしておきますね」
「中田秘書も同行してね」
「え?僕もですか?」
「うん。同業者のパーティーだから挨拶して回らないとね。私に付いていればいいから」
「はい。わかりました」
「スーツは買ってあげるから」
「えっ…いいんですか」
「サイズもあるから一緒に行きましょ」
「やったー。嬉しいなー」
喜ぶ秘書の姿を見てスミは母性本能をくすぐられていた。
日曜日、2人はパーティー用のスーツを買いに出かけた。
「好きなの選んで」
「たくさんあり過ぎて選べません。社長が選んで下さい」
「そうねー」
店員が話しかけて来た。
「どのようなタイプをお探しですか?」
「パーティー用のスーツです」
「色は落ち着いた方がいいですか?それとも…」
「落ち着いた感じで」
「じゃあ、これなんかどうですか?彼氏さんはスタイルいいし細めのスーツで」
「いやっ…彼氏じゃ…」
「いいですねっ。これいいと思いますっ」
「じ…じゃあ…試着いいですか?」
「わかりました。こちらへどうぞ」
「はーいっ」
10分後、秘書が試着室から出て来た。
うわっ…似合ってる…
「いいじゃないですか。よくお似合いですよ」
秘書は照れながらスミを見ている。
「うん…いいと思う…」
「本当ですかっ」
「彼氏さんイケメンですし、俳優さんみたいですよ」
「あの…彼氏じゃ…」
「ありがとうございますっ」
もう…否定してよ…
「これですとサイズ直さなくても大丈夫そうですね」
「じゃ…このまま頂いていきます」
「じゃあ着替えて来ますね」
秘書が私服に着替え終わり、スーツを持って来た。
「じゃ、お会計お願いします」
「はい。38万円になります」
「カードで」
「えっ。38万円⁈」
すると秘書はスミのカードを取り上げた。
「何するの?」
「こんな高いとは思ってませんでした。もっと安いのでいいです」
「安い方よ。他のスーツ見てみて。もっと高いから」
「え…じ…じゃあ…他の店に…」
スミはカードを取り上げ店員に渡した。
「一括で」
「はっ…はい」
「恥かかせないで」
「でも…」
秘書は複雑な気持ちのまま店を出た。
スミはスーツが入っている紙袋を秘書に渡した。
「はい。当日ちゃんと着て来てね」
「社長…本当にいいんですか?もしあれだったらお金返します。一括じゃきついので分割でいいなら」
「中田秘書、こういう時は有難く頂くものよ」
「…でも」
「怒るわよ」
「わっ…わかりました。社長ありがとうございます‼︎」
「それでいいの。じゃ…ここで別れましょう」
「えっ?もう…ですか?」
「スーツを買いに来ただけだし、せっかくの休日でしょ?」
「社長は?パーティーに来て行く服は買わないんですか?」
「私はこれから買いに行く」
「じゃ、僕も一緒に行きます」
「えっ…いいわよ。1人で行くから」
「ご一緒させて下さい。お願いしますっ」
スミは仕方なく秘書を連れてドレスを選びに店に入った。
「いらっしゃいませ。どういったのをお探しですか?」
「パーティー用のドレスを…」
「かしこまりました。お客様でしたらこちらのドレスなんかお似合いだと思いますよ」
「あ…ちょっと胸元が開き過ぎかな…」
「僕もそう思いますっ」
「露出少なめがいいんですね」
「そうですね…」
しばらくスミは店内を見て回り、目に止まったドレスを手に取った。
「さすがお客様お目が高いですね。このドレスは世界で3着しかないんですよ。真っ白でお客様にお似合いだと思います」
「試着していいですか?」
「はい、こちらへどうぞ」
スミは試着しに行った。
「彼女さん、お綺麗だからお似合いでしょうね」
「はいっ。楽しみですっ」
「美男美女で羨ましいです」
「あの…僕たち恋人に見えますか?」
「はい。えっ?違うんですか?」
「いえ…違うく…ないですっ」
スミと恋人に見られて秘書は喜んでいた。
10分後、ドレスに着替えたスミが試着室から出て来た。
秘書はスミに見惚れて開いた口が塞がらなかった。
「すごくお似合いですよ‼︎サイズはいかがですか?」
「ピッタリです…」
「…すごく綺麗です…」
「そ…そう?じゃ、これ頂きます。着替えて来ますね」
スミが着替えている間、秘書は店員にドレスの値段を尋ねた。
「29万ですよ」
高っ…えっ…でも僕のスーツの方が高いのか…
何だか申し訳ないな…
スミが会計を済ませ店を出ると2人でカフェに入った。
「どうしたの?元気なさそうだけど」
「何か…申し訳なくて…」
「まだ言ってるの?」
「だって…」
「その分、しっかり働いてもらうからね」
「はい…いつかお礼しますからっ」
「わかったわ」
「それにしても社長…そのドレス似合ってました。それ着てパーティー行ったら注目の的ですよ」
「そんな事ないわよ」
「悪い男が付かないようにしっかりガードしますっ」
「オーバーね。業者のパーティーなのに」
「大事な社長ですからっ」
「それは…ありがとう」
「じゃあ僕、車取って来ますね。ここで待ってて下さい」
そう言うと秘書はパーキングに停めてある車を取りに行った。
カフェの前に車を停めてスミが後部座席に乗ろうとした。
「今日は仕事じゃないし助手席に乗って下さい」
「えっ…うっ…うん」
スミが助手席に座ると秘書は車を走らせた。
「もう直接家に送りますよ?」
「うん。お願い」
しばらく沈黙が続き、秘書が口を開いた。
「社長はどんな人がタイプですか?」
「えっ、いきなり何?」
「いや…ただ知りたいんで」
スミはシュンを思い出した。
シュンは私を守ってくれてた…
どんな時も…命懸けで…
「社長?」
「私を守ってくれる人…」
スミは小さな声で呟いた。
「え?何て言いました?」
「いや…何でもない。タイプとかないし…」
「そうなんですね。年下はアリですか?」
「年下?」
「10歳くらい下とか」
「何言ってんの?もう着くからここでいいわ」
「家の前まで行きますっ」
家の前に着き、スミが車から降りようとすると秘書はスミの手を握った。
「えっ…な…何?」
「あっ…すっ…すみません」
「じ…じゃ…また明日」
「はっ…はい。また明日…」
スミは急いで家に入って行った。
秘書はスミの後ろ姿をずっと見ていた。
社長…
僕…もっと頼れる男になりますから…
秘書じゃなく1人の男として見てもらえるように…
頑張ります…
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