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17話 忘れないと…
しおりを挟むそれから5日間は専務がスミの運転手となった。
6日後の朝、スミが家を出ると秘書が待っていた。
「社長、おはようございます」
「おはよう…」
「休んでご迷惑をおかけしました」
「いいのよ。少しは落ち着いた?」
「はい。今日からまた頑張ります」
「無理しなくていいからね」
「大丈夫ですっ」
この子…元気に振る舞ってるけど…
本当は寂しいはず…
お父さんもいなかったなんて…
スミは秘書を見る目が変わった。
会社に着いて社長室に入り、スミが脱いだコートをハンガーに掛けようとすると秘書がコートを取った。
「あ…ありがとう」
「あっ…」
秘書はスミの背後に回るとブラウスの襟に触れた。
「えっ?」
コンコン…
「失礼します」
突然専務が入って来た。
2人の姿を見た専務は慌てて下を向いた。
「襟がめくれてますよ」
「あっ…ありがとう」
襟を直してあげると秘書はスミから離れた。
「専務、どうしましたか?」
「あの…えっと…あれ?何だったかな…」
「え?」
「すみません。何の用だったか忘れました…思い出したらまた改めます」
そう言うと専務は出て行った。
「何か誤解されちゃいましたかね…」
「大丈夫よ」
そしてこの日、専務は久しぶりにシュンと飲む約束をしていた。
仕事を終えた専務は地曽田家に行った。
「会長はいらっしゃるんですか?」
「隣の家にいるよ」
「ご挨拶した方がいいですよね」
「いいよ。食事中だろうし」
「…そうですか」
「ウイスキーでいい?」
「はい」
「はい、どうぞ」
「いただきます」
しばらく2人は静かに飲んだ。
「あの社長、色々と手助けして下さってありがとうございました」
「俺はそんな…」
「いえ、社長のおかげです。会社も順調に上向きに行ってますし」
「それはよかった」
「…社長も頑張っています」
「そっか…」
「あの本のおかげだって言ってましたよ。毎日繰り返し読んでるみたいです」
「…そっか」
「社長…失礼なこと聞いていいですか?」
「何?」
「ずっと1人でいるつもりですか?」
「、、、、」
「社長?」
「うん…女は作らない」
「それは…まだ…」
「…そうだよ」
専務は深く息を吐いた。
「どうやったら忘れられるんだろ…」
「それは…新たな恋愛しか…」
「それしかないよね…でも好きにならないと付き合えない…」
「あの…今うちの会社に秘書の男の子がいるんですが…」
「へぇー」
「スミさんといい感じかも知れません」
「…え」
はっきりした事ではないが、専務はシュンの為に思ったことを口に出すとシュンの顔色が変わった。
「そ…そうなんだ…」
「多分ですが…」
「若いの?」
「スミさんより10歳下です」
「10歳下?マジか…」
「心配するような人じゃありません。素直でいい子です」
「…そう」
シュンは平気なフリをしていたが内心ショックを受けていた。
「だから社長も…」
「よかったよ。いい人が現れたなら。俺はスミが幸せならそれでいいし…」
「社長…」
「さぁ、飲もう!」
「はっ…はい」
長年シュンを見て来た専務は無理に笑っているシュンに気付いていた。
それからスミの話は一切せず、たわいもない話をして2時間が経ち専務は帰って行った。
シュンはしばらく1人でソファーに座りスミのことを考えていた。
もう…忘れないとな…
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