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16話 同情
しおりを挟む嘘でしょ…まさか…
「社長のこと…」
「酔ってるでしょ⁈」
「尊敬してます…」
「えっ?あっ…ありがとう」
想像と違ったのでスミは安心した。
それから1時間以上過ぎた。
「そろそろ帰ろうか」
「は…はい。じゃ代行呼びますね」
秘書は運転代行を呼び、2人で後部座席に座った。
「では運転手さん、よろしくお願いします」
「はい」
秘書は酔ったせいかウトウトしていた。
「大丈夫?そんなにお酒弱かったなんて」
「久しぶりに飲んだせいもあります」
すると秘書はスミに寄りかかって寝てしまった。
「ちょっ…ちょっと、中田秘書?」
スミは秘書の体を揺さぶるが起きる気配がない為、家に着くまで秘書に肩を貸していた。
「こちらですね」
「はい。私が先に降ります」
スミは秘書を起こした。
「えっ…」
「私ここで降りるから、自分の住所ちゃんと言ってね」
「あ…はい…」
「じゃ、お疲れ様」
スミは車を降りると家に入って行った。
「ただいま」
「おかえり。何食べたの?」
「サバの味噌煮定食」
「え?何それ」
スミの母親は笑い出した。
「はいカード。使ってないから」
スミは母親にカードを返した。
「中田秘書って…可愛いわね。もっと高いとこに行けばよかったのに」
「でも美味しかったよ。たまには定食屋さんもいいね」
「スミが満足したならいいけど」
「お母さん、私に気を遣ったんだろうけど今後はこういう事しないでね。中田秘書にも気を遣わせてしまうから」
「スミ…中田秘書っていい子でしょ」
「そうだね」
「どう?」
「どうって?」
「彼女いないみたいだし」
「お母さん、何言ってるの?秘書だよ‼︎」
「いいじゃない。お互い独身なんだから」
「やめて。有り得ない」
「中田秘書が有り得ないの?」
「そんなんじゃなくて…誰とも付き合う気ないから」
「いつまで想ってるのよ‼︎彼のことが忘れられないんでしょ?」
「え…」
「あなたが毎晩泣いてるの知ってるのよ。ちゃんと寝てるの?お母さんはスミのことが心配なのよ」
「お母さん…」
「会社の事もスミには本当に感謝してる。正直ここまでスミが出来る子だとは思ってなかった。頑張ってくれてありがたいけど…家では何?毎日泣いてるし、いつまで辛い思いするの?」
「そんな簡単に…忘れられないよ…」
「それはわかるけど…誰もいないより支えてくれる人がいる方が忘れられると思うわよ。いつかは忘れないと‼︎」
「…わかってる」
お母さんに気付かれてたんだ…
確かにお母さんの言う通り…
いつかは忘れないといけない…
お母さんにも心配かけちゃダメだ…
スミはこの日、シュンのことを考えず薬にも頼らず眠った。
翌朝、家を出ると秘書ではなく専務が迎えに来ていた。
「おはようございます」
「おはようございます。え?どうして専務が?」
「それが…中田秘書のお母様が亡くなられたとの事でしばらく休みです」
「え⁈そうなんですか?いつ亡くなられたんですか?」
「昨夜みたいです」
「昨夜?そ…そうですか…」
「今朝、中田秘書から連絡がありまして…社長にも直接連絡すると言ってましたが私が伝えておくからと言いました」
「わかりました。お葬式はいつですか?」
「今日がお通夜で明日がお葬式です」
「じゃあ、供花と弔電の手配をお願いします」
「かしこまりました」
昨夜って…もしかしたら私と飲んでた時に連絡が入ってたのかな…
中田秘書…酔って気付かなかったとか…
「斎場はどこですか?」
心配になったスミは仕事が終わると急いで家に帰って喪服に着替え斎場へ行った。
斎場に着くとお通夜は終わっていた。
スミがご焼香に行くと親族らしき人が挨拶に来た。
秘書を探すが見当たらなかった。
スミが斎場を出ると駐車場の隅にしゃがみ込んでいる人の姿が目に入った。
近寄って行くと中田秘書だった。
「中田秘書?」
スミの声に気付き顔を上げると秘書は泣いていた。
「、、、、」
スミは何も言えず隣にしゃがみ込んだ。
「社長…来てくれたんですね」
「…大丈夫?」
「、、、、」
スミは優しく秘書の背中をさすった。
「母は病気だったんです。余命宣告はされてて覚悟はしてたんですが…まさかこんな急に亡くなるとは」
「もしかして昨日飲んでた時に連絡があったんじゃ?」
「はい…着信に気付かず今朝わかりました」
「えっ…ごめんなさい。飲みに行ったばっかりに」
「…いいえ。僕が誘った訳だし…」
「でも…それで看取れなかったんでしょ」
「連絡受けて行ってたとしても間に合わなかったと思います…」
「…あの…聞いていい…?病気って…」
「膵臓ガンです。父も…僕が小さい時にガンで…」
「え…」
「…僕、1人になっちゃいました」
「中田秘書…」
「社長…抱きしめてもらってもいいですか?」
「え?」
「ダメ…ですか…?」
スミは秘書を抱きしめた。
「思い切り泣いていいよ…」
「社長…」
秘書は声を出して泣いた。
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