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15話 新たな人物

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スミが社長に就任して5ヶ月後、秘書を雇った。
スミより10歳年下のイケメンで今どきの男子だ。
スミは秘書はいらないつもりだったが、母親が毎晩泣いているスミに気付き、気を遣ってイケメン男子を雇ったのだ。
母親の指示で秘書にはスミの送り迎えを頼んでいた。


スミが会社を出ると秘書は会社の出入り口に停めていた車のドアを開け、スミを後部座席に乗せた。


「えっと…高田君だっけ?」

「中田です‼︎」

「あっ…ごめんなさい。中田秘書、明日から送り迎えはしなくていいよ」

「どうしてですか?」

「中田秘書のプライベートな時間を奪いたくないし…私バスに乗り慣れてるから」

「社長は優しいんですね。でも会長から頼まれてますから。そっちの方が会長も安心なんでしょう」

「帰ったら母には言うから」

「言わなくていいですよ。それに運転するの好きだしプライベートの時間っていっても帰ってダラダラするだけですから」

「そうなんだ」

「彼女もいないし」

「いないの?いてもよさそうなのに」

「僕…理想高いんでっ」

「あっ…そう…じゃ送り迎えはしてもらうけど、用事がある時は遠慮なく言ってね」

「わかりましたっ」


家に帰ったスミは、この日も寝付けずシュンのことを思っていた。
シュンと別れてからスミは不眠症になり、毎日安定剤を飲んでいたのだ。


シュン…元気にしてるかな…
専務に聞きたいけど…聞けない…
きっと元気にしてるよね…


シュンからもらった指輪を握りしめ深夜3時過ぎに眠りについた。


翌朝、秘書が迎えに来ると車に乗り会社に向かった。


「あの社長…今日の夕食なんですが…」

「夕食?」

「ご一緒してもいいですか?」

「え?」

「会長の指示なんです…」

「母の?」

「はい…カードも預かりました」

「外食ってこと?2人で?」

「はい…仕事のことも色々聞きたいし…お店は社長が行きたいところがあれば…」

「でも…」

「たまには気晴らしして来いって事だと思います。社長は一切口には出さないけど疲れてるでしょ?」

「えっ…どうして?」

「顔見たらわかりますよ。ちゃんと寝てますか?」


スミは鏡を見た。


うわ…クマがすごい…


「会長の指示ですので仕事だと思って行きましょう。何が食べたいですか?」

「…わかった。何でもいいから適当に決めといて」

「はいっ」


仕事が終わると秘書はスミを連れて小さな定食屋に入った。


「ここ、僕の行きつけなんです」

「そ…そうなの…」

「もしかして…こういう店は嫌でした?」

「う…ううん。全然」

「よかった。見た目は古いけど味は絶品なんですよ。特にサバの味噌煮定食がおすすめですよ」

「あら、いらっしゃい。今日は彼女連れ?」

「えっ…違いますよー。上司ですよ」

「そうなの?てっきり彼女だと思ったわ」


定食屋のおばちゃんはスミを見て微笑んだ。


「おばちゃん、サバの味噌煮定食ね!社長は?」

「じゃ…私も」

「はーい、サバ味噌2つね!」


しばらくして定食が運ばれてきた。


「食べましょ」

「うん」

「会長、いただきまーす」

「いただきます」


スミは一口食べるとあまりの美味しさに感動していた。


「美味しいでしょ?」

「うん。すごく美味しい」

「でしょー。よかった」


秘書は嬉しそうにスミに笑顔を向けた。


「これ、いくら?」

「680円です」
 
「えっ⁈そんなに安いの⁈」

「はい。安くて美味しいなんて最高でしょ?」

「そうだけど…母からカード預かったならもっと高いとこでもよかったのに」

「いいんです。ここは僕が奢りますから」


そう言うとスミにカードを渡した。


「会長に返しといて下さい」

「じゃ、カードで支払うね」

「どうせ…ここカード使えないですよ」

「そ…そうなんだ」

「はいっ」


この子…あまり欲がないのかな…
悪い人じゃない…むしろ謙虚でいい子だ…


スミはそう思いながら完食した。


「ごちそうさまでした。美味しかった」

「他はもういいですか?」

「もう、お腹いっぱいよ」

「そうですか。社長はお酒飲まれるんですか?」

「お酒?まぁ飲むけど最近は飲んでないな…」

「僕も最近飲んでないんです」

「そ…そう…」

「ちょっと飲みに行きません?この近くにバーがあるんです」

「え…車は?」

「代行呼びますから。行きましょ」

「う…うん」


会計を済ませた2人は定食屋を出てバーに行った。


「何飲みます?」

「えっと…じゃあ、ジントニック」

「じゃ、僕も」

「中田秘書はお酒強いの?」

「強くないです。すぐ酔うけど酒癖は悪くないですよっ」

「そうなの?」


秘書はグラスの半分を飲むと顔を真っ赤にしていた。
その間にスミは2杯目を頼んだ。


「社長は本当なら秘書を付けるつもりなかったんですよね?」

「うん。秘書っぽい人なら居るしね」

「黒川専務ですか?」

「えぇ」

「…そうですか。僕…必要ないですかね…」

「あっ…全然。中田秘書は頑張ってるし助かってるよ」

「本当ですか?嬉しいです」

「でもまだ若いのに秘書でいいの?営業職もあるけど」

「いいえ。秘書がいいんです。社長を支えたいんです」

「あ…ありがとう」

「社長のこと色々聞きました。前の旦那さんのこと…大変でしたね…」

「あ…う、うん」

「こんないい女を…」

「え?」

「僕…社長のこと…」










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