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14話 陰ながらの助け
しおりを挟むシュンとスミが別れてから1ヶ月が過ぎた。
2人で住んでいたマンションは引き払い、それぞれ実家に戻った。
スミは柳本グループの社長になった為、一から覚えなけれはいけない事が山のようにあり毎日が大変だった。
おかげでシュンのことを考えずに済んだ。
専務はスミが会うと気まずい為、地曽田グループに戻るように言ったが、スミがまだ未熟な事もあり専務の希望でもうしばらく柳本グループで働く事になった。
シュンもスミを忘れる為、仕事を増やして休まずに働いていた。
2人に共通しているのは…
一切笑わなくなったことだった。
2人のことが気になっていた専務は、この日の仕事終わりにシュンを飲みに誘った。
専務が約束の店に入るとシュンは先に飲んでいた。
「社長!」
「あ…お疲れ!先に飲んでるよ」
「は…はい」
2人が飲み始めて1時間ほど経った頃ようやくシュンの口からスミの名前が出た。
「スミは頑張ってる?」
「…はい。頑張ってますよ」
「そっか」
「社長、未だに信じられません。2人が別れたなんて…」
シュンは勢いよくウイスキーを飲んだ。
「社長…」
「俺がもっとスミを気遣ってやれていれば…」
本当の別れた理由を知らないシュンは自分を責めていた。
「でも…あんなに好き合ってたのに…」
「もうこの話はやめよう。スミが元気でやってるならそれでいい…」
「ただ、いきなり会社を任されてるので大変そうです…」
するとシュンはバックから本を取り出して専務に渡した。
「これは?」
「俺からって言わずにスミに渡しといて。トップとしての心構えとかやり方とかわかりやすく載ってるから。俺も色々な本読んだけどこの本が1番為になったから」
「…わかりました」
「今…会社で困ってる事は?」
「取引先です。増やさないといけないのにそこまで回らず、話が進まないまま止まってる企業もあるくらいです」
「そっか…」
「ところで…岸田から聞きましたが、社長ずっと休まれてないんでしょ?気持ちはわかりますが少しは休まれた方が…」
「気が楽なんだよ。働いてた方が」
「わかりますけど…でも」
「専務、スミを頼むよ。慣れるまで時間かかるだろうから、しっかりサポートしてあげて」
「はい…」
それからしばらく飲んで2人は帰った。
翌日からシュンは取引先を回りながら何件も紹介をもらっていた。
そして自分の名前を伏せた上、柳本グループとして新規で営業に回った結果、2週間後には柳本グループの取引先が一気に増えた。
スミが社長室で仕事をしていると専務が入って来た。
「社長、いい流れで軌道に乗って来ました」
「よかったです。専務のおかげです。こんなに取引先を増やしてくれるなんてさすがです」
「いえ…私は何も…」
専務は、助けてくれたのはシュンだという事をわかっていたがスミには言えなかった。
「今後は私が取引先にご挨拶回りしますね」
「社長はそこまでしなくても…初めの挨拶程度でいいんですが」
「この前、専務からもらった本を毎日繰り返して家で読んでるんですけど、トップはまず自分が動いて背中を見せるって書いてありました」
「え…」
「いくつか赤い線を引いてたけど、そこの部分が心に響きました」
「そ…そうですか」
「だから自分が動かないと。ありがとうございます。かなり為になってます」
「いいえ…」
シュンの本だという事を言えずに専務は複雑な心境だった。
「本屋に行ってもビジネスの本がたくさんあり過ぎて何がいいかわからなくって…もらった本だけで充分役に立ちそうです」
「それは…よかったです」
「これからも色々教えて下さいね」
「はっ…はい」
それから毎日のように専務はシュンに電話しては、社長とはどうあるべきか等を尋ねて聞いたこと全てをそのままスミに伝えていった。
素直なスミは専務に言われた通り行動し、日に日に成長していった。
早くもそれから2ヶ月後には誰もが認める柳本グループの社長になっていた。
スミをここまで短期間で成長させたのは全て陰ながら支えるシュンの行動とアドバイスがあったからこそなのだが、何も知らないスミは専務に心から感謝していた。
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