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第2章
96話 愛の力
しおりを挟む消防車が到着し、消防隊員が次々と消火活動を始めるとスミの母親は消防隊員に泣きながらしがみついた。
「中に娘が居るんです…助けて下さい‼︎」
「危険ですから離れて下さい」
「スミーッ‼︎スミーッ‼︎」
母親は無事を祈るしかなかった。
だが消防隊員が救助できないくらい激しく火は燃え盛っていた。
その頃、家の裏の近くの空き地でシュンはスミの体からロープを解いていた。
30分前…苦戦しながら何とかドアを壊したシュンはスミを助け出していた。
裕二が放火した事に気付き裏口からスミを抱えて脱出していたのだ。
後少し遅れていたら2人は炎に巻き込まれていた。
「スミ!大丈夫?」
「…うん」
泣きながら震えるスミをシュンは抱きしめた。
「もう大丈夫だよ」
「シュン…ありがとう…」
「とりあえずお母さんの所へ行こう。心配してるはずだから」
シュンはスミを抱えて玄関の方へ行こうとすると消防車やパトカーで道が塞がれていた。
近くで母親が泣き叫ぶ声が聞こえた。
「お母さんっ!」
地面に倒れ込んでいた母親がシュンの声に気付くとすぐに駆け寄って来た。
「スミッ‼︎スミッ‼︎」
母親は抱えられているスミを抱きしめた。
「お母さん…」
「スミ!無事だったのね!よかった‼︎地曽田さんありがとう‼︎ありがとう!」
火は3時間後にようやく鎮火した。
その後は事情聴取を受け、母親を家まで送り届けた後2人がマンションに帰り着いたのは朝の5時だった。
疲れ切った2人はソファーに横になった。
特にシュンの方は一切口には出さなかったがかなり体力が消耗していた。
「シュン…仕事は…?」
「今日は行かない。ずっとスミと居る…」
シュンはスミの顔をじっと見ている。
「スミ、暴力…振るわれてない?」
「…うん…」
「それならよかった」
シュンはスーツのジャケットを脱いだ。
「えっ…シュン!血が⁈」
「え?血?」
シュンはノコギリでドアを壊したあと中からスミを助け出す時に、切り崩したドアの角がスミに当たらないように自分の腕で庇ってケガをしていたのだ。
白いカッターシャツが真っ赤に染まっていた。
「腕…ケガしてるんじゃない⁈」
「あっ…大した事ないよ」
「いいから脱いで」
「いいよ…」
「いいから」
シュンは仕方なくシャツを脱ぐと右腕が深く切れていた。
「すごい傷…!」
スミは薬箱を持って来て傷の消毒をした。
「痛っ…」
「あっ…ごめん。ちょっとだけ我慢して」
「…うん」
「私の為に…ごめんね」
「何言ってるんだよ…」
傷の手当てが終わると2人は抱き合った。
「スミ…このまま少し寝よう…起きたらゆっくり話そう…」
「うん…」
シュンはすぐに眠ってしまった。
シュン…
昨日から疲れたよね…
ごめんね…私の為に…
シュンに助けてもらってばっかり…
もうシュンの傍から離れないから…
シュン…愛してる…
シュンの寝顔を見ながらスミも眠った。
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